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やはり劇場で観たい!?『ブラック・ウィドウ』。今後のディズニー作品と大手シネコン上映の関係どうなる?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ブラック・ウィドウ』(C) Marvel Studios 2021

作品としてとても評判のいいウォルト・ディズニー・スタジオ作品の『クルエラ』は、公開された劇場の数がやや少なめで、映画ファンからはこんな声も聞かれた。「劇場で観たいのに、都心で上映しているところは、ごくわずか。ちょっと遠出しなければならない」などなど。

『ラーヤと龍の王国』もそうだったが、『クルエラ』も、シネコンではイオンシネマ、ユナイテッド・シネマズで公開されたものの、他のいくつかの大手シネコンでは上映されず、たとえば東京・新宿ではシネマカリテ、渋谷はシネクイントと、いわゆるミニシアターのみ。池袋ではグランドシネマサンシャインで公開されたが、日比谷・銀座地区ではゼロ。席数の少ないシネマカリテは、公開直後、すぐに満席となって予約がとれないと残念がる声も相次いだ。

『クルエラ』は日本では、5/27に劇場公開、翌5/28にディズニープラスで配信開始。ウィンドウ(劇場公開と配信の間隔)がわずか1日で、これはほぼ「同時」という公開形態。それでもアメリカなど他国では、まったくの同日だったので、日本のディズニーが、わずかでも劇場公開の先行感を追求してくれたわけだ。

ディズニープラスの加入者でも『クルエラ』を観るためには、プレミアムアクセスの料金が必要となる。これは日本では2980円(税込3278円)。ひとりで観る場合は、ディズニープラスの加入者でも、劇場の方がオトクとなる。ただ家族など複数で観るのなら、ディズニープラスの方が安上がりという微妙な料金設定。

このスタイルは、続く『ブラック・ウィドウ』にも受け継がれる。

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)、じつに2年ぶりとなる劇場公開ということで『ブラック・ウィドウ』への期待の声も大きい。同作は7/8劇場公開で、7/9ディズニープラスでの配信。プレミアアクセスの料金は『クルエラ』と同じだ。

ただ、『ブラック・ウィドウ』の場合、『クルエラ』よりも上映する劇場は増えている。『クルエラ』は上映しなかったシネコンの109シネマズでは上映が決まった。都心でも、109シネマズ木場、109シネマズ二子玉川などで公開される。新宿地区ではEJアニメシアター新宿で上映され、こちらはメインシアターの席数が300なので、シネマカリテの96席、78席より格段に多い。とはいえ、新宿では同館のみである(シネマカリテでの上映はない)。渋谷も引き続き、シネクイントのみ。2年前のMCU作品『アベンジャーズ/エンドゲーム』に比べれば、やはり少ない。

MCUのアクション大作であり、大きなスクリーンで観たいというファンも多いことから、『クルエラ』よりはその機会が十分に与えられたことになる。グランドシネマサンシャイン池袋ではIMAXのスクリーンで上映されるが、542の席数は公開日が平日にもかかわらず、前日に予約でほぼ埋まった。『ブラック・ウィドウ』を最高の環境で観たい人の熱を感じさせる。

グランドシネマサンシャイン池袋、7/8『ブラック・ウィドウ』初日の1回目の上映は、前日の段階ですでにこのように埋まっていた。(7/7 16時現在、グランドシネマサンシャイン公式HPより)
グランドシネマサンシャイン池袋、7/8『ブラック・ウィドウ』初日の1回目の上映は、前日の段階ですでにこのように埋まっていた。(7/7 16時現在、グランドシネマサンシャイン公式HPより)

『ラーヤと龍の王国』『クルエラ』『ブラック・ウィドウ』というディズニー配給の話題作が、TOHOシネマズ、MOVIX、ティ・ジョイなどの大手シネコンチェーンで上映されないのは、『ムーラン』や『ソウルフル・ワールド』といった劇場公開予定だった話題作を、ディズニープラスでの配信に変更し、興行側よりも自社の配信サービスを優先したディズニー側との“因縁”も関係しているといわれるが、アメリカ本国では『クルエラ』や『ブラック・ウィドウ』というディズニー作品だけでなく、『ゴジラVSコング』など他社作品でも劇場と配信の同日公開が敢行され、全体として成功を収めている。「本社の意向」が重要な米メジャースタジオなので、日本も基本的に歩調を合わせるのが原則だ。

そしてこの後もディズニーは、『ジャングル・クルーズ』が控える。7/29劇場公開、7/30ディズニープラスでのプレミアアクセス配信と、『ブラック・ウィドウ』同様の公開形式だが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』と同じくディズニーランドのアトラクションから誕生した話題作とあって、しかも夏休み映画らしいファミリームービーなので、劇場公開で盛り上がってほしいところ。『ブラック・ウィドウ』と同程度の公開規模になるのか、はたまたTOHOシネマズなど大手シネコンで“解禁”になるのか。ディズニーと興行側の交渉は続いていると聞く。

『ジャングル・クルーズ』(C) 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
『ジャングル・クルーズ』(C) 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

さらにその後のディズニー作品としては、『デッドプール』のライアン・レイノルズ主演で、これまた痛快無比な傑作の予感が漂う『フリー・ガイ』(8/13日米同時公開)、MCUの新作『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(9/3日米同時公開)が控えるが、この2本に関しては本国で、劇場公開から45日後にディズニープラスでの配信が発表されている。つまり公開時は「劇場限定」。日本でもそうなるので、『ジャングル・クルーズ』では無理だったとしても、この2作から以前のようにシネコン全面解禁となるのか? 注視したいところだ。

いずれにしても大切なのは、映画を観る人に、観たい環境を提供できること。劇場公開と配信の関係はさまざまな問題が継続中だが、映画ファンの納得がいくスタイルが確立されてほしいと切に願う。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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