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ついに『鬼滅』が全世界の興収で年間トップへ…ハリウッド作品以外では初? その数字、そして意義とは?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
映画興収データサイトBox Office MojoのHPより

日本でも興行収入の新記録を打ち立てた『劇映画「鬼滅の刃」無限列車編』が、アメリカでの公開でも好成績を収め、全世界で年間の興行収入ランキングで1位になる見込みとなった。

5/10の時点で、米国の映画興収データサイト「THE NUMBERS」の集計で1位で、「見込み」というのは、もうひとつの、よりメジャーな興収サイト「Box Office Mojo」では、まだ僅差の2位。しかし北米および日本の数字の推移や、この4月から公開された国も多いことから、間もなく1位になるのは確実だ。そもそも全世界の興行収入を完璧に網羅するのは現在でも難しい作業で、為替レートの計算法もあったりして、こうしたズレは生じる。いずれにしても快挙である。

これは「2020年公開作品」という枠組みの1位で、2021年の今も興行収入が加算され続けている結果である。つまり、2020年公開の別の映画が今から世界的大ブームを起こしたら、抜かれる可能性もある(あくまでも“可能性”の話です)。

基本的に世界年間トップになるのは、ハリウッドの超大作。2020年は、新型コロナウイルスの影響で、ハリウッド大作の公開が大幅に減少したことで、中国映画の『八佰』がトップを維持していたのだが、これを『鬼滅』が抜いた(あるいは抜く)ことになる。

5/10の段階で、全世界の興収は

『鬼滅』 4億7460万ドル

『八佰』 4億7257万5002ドル

2020年公開作で、この2本に続くのが

第3位『愛しの故郷』(中国)

第4位『バッドボーイズ フォー・ライフ

第5位『TENET テネット

第6位『ソニック・ザ・ムービー

第7位『ドクター・ドリトル

第8位『ジャン・ズーヤー:神々の伝説』(中国、アニメ)

第9位『送你一朶小紅花』(中国)

第10位『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY

(※以上は、THE NUMBERSの数字とランキング)

見てのとおり、中国映画がベスト10に4本ランクイン。ハリウッド映画は全体の半分の5本である。コロナの影響が少なかったことが要因となり、中国は年間の興行収入でアメリカを抜いて世界トップに立った。その中国映画を抑えて『鬼滅』が、作品としてはトップになるわけである。

2位の『八佰』は、1937年、第二次上海事変における最後の戦闘を描いたアクション大作。日本軍からの攻撃に屈しなかった中国国民党の守備隊「八百壮士」の運命ということで、中国では観客の支持を受けやすい内容。

『八佰』は、全世界興収のじつに99.7%が中国国内での数字。つまり中国の興収のみで、『鬼滅』に抜かれるまで世界1位だったわけである。『鬼滅』の場合は、日本での興収が全世界の約80%。基本、日本での数字が大きく影響しているのだが、『八佰』に比べても世界的な広がりは明らかだ。

『鬼滅』が年間の世界興収トップに立つのはめでたいが、もちろん2019年以前の記録に及ばないのは、想像のとおり。

過去10年の年間世界興収1位の記録を振り返ると

2019年『アベンジャーズ/エンドゲーム』 27億9750万ドル

2018年『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』 20億4835万ドル

2017年『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』 13億3253万ドル

2016年『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』 11億5329万ドル

2015年『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 20億6822万ドル

2014年『トランスフォーマー/ロストエイジ』 11億405万ドル

2013年『アナと雪の女王』 12億8080万ドル

2012年『アベンジャーズ』 15億1881万ドル

2011年『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』 13億4151万ドル

2010年『トイ・ストーリー3』 10億6696万ドル

このように直近のトップ作品と比べると、さすがに『鬼滅』の4億ドル台という数字は低い。改めて新型コロナの映画興行への影響が実感される。コロナ禍直前の2019年のランクに当てはめると、『鬼滅』の現在の数字は年間ランキングの16位である。そして現在の『鬼滅』の数字で1位になるとしたら、1996年まで時代を遡らなければならない。その年の1位は『インデペンデンス・デイ』の3億616万ドルだった。

ちなみに世界興収の年間ベスト10は、ハリウッド作品で埋め尽くされてきたのが現状。2019年でさえ、10本すべてハリウッド映画だった。2017年のみ、7位に中国映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』がランクインしている。この時の数字が8億7032万ドルで、『鬼滅』がそこまで伸びれば、アメリカ映画以外での最高記録になるのだが、さすがにそれは難しい。

繰り返すが、この「全世界」の数字は、「北米」、「日本」など単独のエリアと違って、細かい数字まで完璧とは言い難い。北米以外の興収もまとめて記録され始めたのが、1998年あたりで(それ以前も『タイタニック』『ジュラシック・パーク』など特大ヒットの作品は全世界の数字が記録として残っている)、現在も、すべての国の数字が正確に加算されてはいないと考えられる。集計サイトによって数字が多少、前後していたりして、あくまでも「指標」だ。そしてもちろん興収なので、入場者数のランクとなれば、入場料金が安かった時代と比較できるものではない。

しかし、記録として残る年間の世界興行収入ランキングで、ハリウッド大作以外でトップに立つのは、『鬼滅』が初めてのことであり、コロナ禍のハンデは差し置いても、ファンにとっては素直に喜ぶべき「歴史的事件」と言っていいのではないか。

(※表記以外はBox Office Mojoの数字を参照)

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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