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前年『もののけ姫』の新記録を、あっさり更新。『タイタニック』が作った1997〜98年の社会現象

斉藤博昭映画ジャーナリスト
このポーズも当時、日本のバラエティ番組などですっかりおなじみに。(提供:ロイター/アフロ)

2021年、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が『千と千尋の神隠し』を抜いて、日本における映画の興行収入記録を打ち立てたが、『千と千尋の神隠し』に次いで現在3位に君臨しているのが、『タイタニック』である。興行収入は262億円。

外国映画ではトップ(その次が255億円の『アナと雪の女王』)。実写映画でもトップ(その次が203億円の『ハリー・ポッターと賢者の石』)。モンスター的な作品であったことは誰もが認めるところだ。

『タイタニック』が公開されたのは、1997年。この年は、映画界にとって大きなインパクトがもたらされていた。スタジオジブリの『もののけ姫』が日本歴代1位のヒットを記録したのだ。当時、数字の発表は現在と違って配収(配給収入)。それまで日本では『E.T.』の配収96.2億円がトップの記録だったが、14年ぶりにこの数字を『もののけ姫』が配収107億円で塗り替えた。この数字は後に、現在と同じ興収(興行収入)に換算され、『もののけ姫』は201.8億円(その後のリバイバル上映も含む)。

しかし、この『もののけ姫』の記録を、『タイタニック』は1年後にあっさりと更新してしまった。

1997年12月20日、日本で公開された『タイタニック』は、なんと翌1998年の11月までという、今では信じがたい超ロングランのロードショーを達成した。1998年の映画館の年間入場者数は1億5310万人となり、12年ぶりに1億5000万人を超えた。その後、上下を繰り返し、2019年の1億9491万人につながっていく。『タイタニック』のメガヒットによって(他にも1998年は『ディープ・インパクト』『メン・イン・ブラック』などが大ヒット)、邦画と洋画の配収シェアは、30.269.8。つまり7割の観客が洋画を観ていたという、今では考えられない状況となった。

上映時間が異例の3時間14分という『タイタニック』が、これほどまで大ヒットした理由は、現在のヒット作の法則と同じく、多数のリピーターが出現したことにもよる。前年の『もののけ姫』も多くのリピーターによる入場者数の増加が見られたが、同作の場合は「1回ではわからなかったから」という動機が当時の報道でよく語られていた。しかし『タイタニック』は、ある意味、わかりやす過ぎる内容。「同じ感動に何度も浸りたくなる」という声が多数聞かれたのが特徴的だった。当時、SNSなど存在しなかったが、こうした口コミが現実社会のあちこちで噴出し、広まっていった結果、驚異的ヒットにつながった。

アカデミー賞では11部門受賞ながら、レオナルド・ディカプリオだけはノミネートされず…。オスカー受賞の悲願は18年後の『レヴェナント:蘇えりし者』でようやく達成される。
アカデミー賞では11部門受賞ながら、レオナルド・ディカプリオだけはノミネートされず…。オスカー受賞の悲願は18年後の『レヴェナント:蘇えりし者』でようやく達成される。写真:REX/アフロ

ロードショー中の1998年3月にはアカデミー賞で、作品賞を含む歴代最多11部門受賞という、今では考えられない偉業をなしとげ、これも興行を加速。さらに同年の夏には、タイタニック号から引き上げられた遺品の展示イベントも各地でにぎわい、それが映画館の集客につながる好循環も発生した。まさに映画が生み出す「社会現象」である。

1998年の11月に2本組のビデオ(DVDではない!)が発売される際にも、再び映画館でのロードショーが異常なまでの集客となった。ビデオの予約注文が殺到し、生産が間に合わず、観たい欲求が再燃させた人が多数、劇場に詰めかけたという。

ここまでの大ヒットは誰も予想しなかったが、「予兆」はあった。

1997年11月、第10回東京国際映画祭のオープニングで上映された『タイタニック』は、ワールドプレミア、つまり公式の世界初上映となった。日本でハリウッド超大作が世界最速上映という話題もさることながら、ジェームズ・キャメロン監督に、主演のレオナルド・ディカプリオが来日。前作の『ロミオ&ジュリエット』で急激に日本でも人気が上昇したレオということで、ファンの狂騒はもちろん、この来日から『タイタニック』公開までの記事の露出量が尋常ではなかった。配給会社の期待を上回る宣伝がなされたのである。

この翌月には、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』のプロモーションでブラッド・ピットが初来日しており、ハリウッドスターへの熱狂と勢いがピークを迎えようとしていた時期でもあり、こうした社会的なブームが『タイタニック』の記録的ヒットを後押ししたのである。

1997年、東京国際映画祭で来日したジェームズ・キャメロン監督(左)とレオナルド・ディカプリオ。この翌日、レオは23歳の誕生日を迎えた。
1997年、東京国際映画祭で来日したジェームズ・キャメロン監督(左)とレオナルド・ディカプリオ。この翌日、レオは23歳の誕生日を迎えた。写真:ロイター/アフロ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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