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間もなくアカデミー賞。予想は「初物ずくめ」「バラけまくってアニメが最多受賞の可能性」までも?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

4月25日(日本時間26日)に開催される第93回アカデミー賞授賞式。映画界最大のイベントは、コロナ禍の影響で今年は、例年より2ヶ月遅い開催となった。

対象となる2020年は、コロナの猛威で、ハリウッドのメジャースタジオの作品が軒並み公開を延期や中止にしたことで、多くの人が劇場で鑑賞した「話題作」というものが、ほとんど存在しなかった。日本の映画ファンにとってもそれは同じ状況であり、ゆえにアカデミー賞に絡む作品も、いわゆる小品が中心になっている。まぁ例年以上に地味な印象ですね……。昨年の『ジョーカー』やタランティーノ作品、一昨年の『ボヘミアン・ラプソディ』のように心ときめくネタは見つかりづらいのが本音。一般的にあまり盛り上がっていないけれど、「異常」な状況だからこそ、新しい何かを提供してくれるはずーーというわけで、今年のアカデミー賞の注目ポイントを、授賞式直前に列挙しておこう。

授賞式自体が、未体験のセレモニーに

例年の会場であるロサンゼルス、ハリウッドのドルビーシアターに加えて、LAダウンタウンのユニオンステーション(鉄道駅)をメインに、ロンドンはブリティッシュ・フィルム・インスティテュート(BFI)に会場が決まり、イギリス在住で、さすがに隔離期間が必要なLA渡航を避けたい候補者が集まる予定(ただ、イギリスは深夜〜明け方の時間帯なので、ちょっとかわいそう…)。他にもいくつか中継地が模索されており、当初、NGだった個別のリモートも許容されそう(イギリスにいながらロンドンにも行かないと明言してるアンソニー・ホプキンスも顔を出すか?)。オリジナル歌曲賞のパフォーマンスでは、アイスランドでの収録(『ユーロビジョン歌合戦』)なども。

授賞式の準備が進むユニオンステーション
授賞式の準備が進むユニオンステーション写真:REX/アフロ

いちばんの注目は、ユニオンステーションでどんな演出が行われるのか。『ブレードランナー』の警察署のシーンなど数々の名作のロケ地として知られるこの駅は、スパニッシュ・コロニアル&アール・デコな内外装のデザインがおしゃれで、まさに「映画的」。プレゼンター、そしてノミネートされたスターたちのレッドカーペットが行われるとされ、思わぬ登場の仕方で、地味なラインナップを忘れるゴージャスな時間を見せてくれることだろう。いずれにしても例年とは違うスタイルの「ショー」で、世界中の映画ファンの心をときめかせてほしい!

最多受賞の予想は1択。計算が狂えばアニメが最多も?

現在、作品賞のフロントランナーは『ノマドランド』で、同作のクロエ・ジャオの監督賞も確定的。『ノマドランド』は、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)、撮影賞も濃厚。脚色賞も有力で、2〜5部門を制覇しそう。ただ今年は、全体にバラける可能性も高く、実際に最多ノミネート(10部門)の『Mank/マンク』は、1部門(美術賞)、良くて2部門(撮影賞)の受賞で終わるのではないか、というのが大方の予想。

『ノマドランド』は現在、日本で劇場公開中。(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.
『ノマドランド』は現在、日本で劇場公開中。(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

『ノマドランド』が予想で最少の2部門で終わった場合、「3部門」あたりが今年の最多受賞に落ち着いてしまう。そうなると『マ・レイニーのブラックボトム』が主演男優賞(チャドウィック・ボーズマン)、衣装デザイン賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞に最短距離で、主演女優賞(ヴァイオラ・デイヴィス)も有力なので、3〜4部門で最多になりそう。『シカゴ7裁判』も3〜4のポテンシャルを秘める。

さらにこれはわずかな可能性だが、『ソウルフル・ワールド』が、長編アニメーション映画賞作曲賞を確定的にしており、そこに音響賞も加わって3部門受賞もなくはない状態。最多受賞作がアニメになる結末もゼロではないのだ。

『マ・レイニー〜』も『ソウルフル・ワールド』も、最高の栄誉ではある作品賞にノミネートされていないので、『ノマドランド』が優勢ではあるのだが、最多3部門の「タイ」は起こるかもしれない。

作品賞にノミネートされていない作品が最多受賞となれば、2005年度の第78回以来。このときは『クラッシュ』(作品賞受賞)『ブロークバック・マウンテン』とともに、作品賞ノミネートなしの『キング・コング』『SAYURI』の計4作品が3部門で最多タイとなった。

いろいろと異例ずくめの第93回アカデミー賞。「初」の快挙となる可能性が高いのは以下のとおり。

・俳優4部門がすべて「非白人」

フロントランナーでは、主演男優賞がチャドウィック・ボーズマン、助演男優賞のダニエル・カルーヤがアフリカ系(黒人)で、助演女優賞のユン・ヨジョンがアジア系。3人が混戦の主演女優賞をアフリカ系のヴァイオラ・デイヴィスが制すれば、4人すべて非白人という初の記録に。

・アジア系女性の監督賞

『ノマドランド』のクロエ・ジャオの監督賞受賞は、おそらく全部門の中でいちばん現実的。アジア系監督としては史上3人目(アン・リー、ポン・ジュノ以来)。女性監督としては史上2人目(キャスリン・ビグロー以来)の快挙となる。

・Netflixなど配信会社の作品が過半数

予想記事やオッズを総合すると、全23部門のうち、11〜12部門でNetflix、Amazonなどの配信系会社の作品が受賞する可能性が高い。もう少し増えることも考えられ、コロナ禍の影響とはいえ、配信系会社の作品受賞が、昨年は2部門、一昨年は4部門だったことを考えると、映画産業の劇的な変化が実感できる。

・8回のノミネートで、またも受賞ならず

助演女優賞ノミネートのグレン・クローズは、今回で主演・助演を合わせて8度目のノミネート。いまだに無冠で、今回も受賞の可能性は限りなく低い。しかも同じ役で、なんと最低映画賞のラジー賞にもノミネートされているのだから(思わず「どういうこと?」とツッコミも入れたくなる状況)……。過去にはジェラルディン・ペイジが、8度目の正直で受賞を果たした。ピーター・オトゥールは8度のノミネートでやはり無冠(名誉賞は受賞)。こうした経緯から、グレン・クローズに会員からの同情票も多少集まると思うので、まさかの大逆転受賞もあるかも!?

・アンソニー・ホプキンスが俳優最高齢で受賞

『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスは認知症をわずらう主人公役。正気を保っているという錯覚や、自身の病状への苦悩、さらに認知症が進行していく過程…と、オスカーにふさわしい超絶名演技をみせているが…
『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスは認知症をわずらう主人公役。正気を保っているという錯覚や、自身の病状への苦悩、さらに認知症が進行していく過程…と、オスカーにふさわしい超絶名演技をみせているが…

『羊たちの沈黙』ですでに主演男優賞を受賞しているホプキンス。今回も受賞すれば、現在83歳なので、俳優としての最高齢記録となる。今回の『ファーザー』では英国アカデミー賞で主演男優賞を受賞し、オスカーも可能性ゼロではないホプキンスだが、早々と「授賞式当日はウェールズにいて、ロンドンの会場に行く気もないよ!」と宣言しており、投票する会員たちにも「じゃあ、入れなくていいか」とアピールしてしまってるような……。俳優以外では89歳で脚色賞受賞のジェームズ・アイヴォリーがいるので、ホプキンスも6年後にそこを狙うつもりか?

などなど、初の記録や大逆転など、探せば探すほど予想外の楽しみも多い今年のアカデミー賞。作品賞の封筒の受け渡し間違い事件や、昨年の『パラサイト 半地下の家族』の快挙のような、サプライズにも期待しながら、その結果を見守りたい。

最後に筆者の予想を。

作品賞:ノマドランド

監督賞:クロエ・ジャオ(ノマドランド)

主演女優賞:キャリー・マリガン(プロミシング・ヤング・ウーマン)

主演男優賞:チャドウィック・ボーズマン(マ・レイニーのブラックボトム) *

助演女優賞:ユン・ヨジョン(ミナリ)

助演男優賞:ダニエル・カルーヤ(ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア)

脚本賞:プロミシング・ヤング・ウーマン

脚色賞:ファーザー

撮影賞:ノマドランド

美術賞:Mank/マンク *

音響賞:サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜 *

編集賞:サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜 *

作曲賞:ソウルフル・ワールド

歌曲賞:あの夜、マイアミで *

衣装デザイン賞:ムーラン

メイクアップ&ヘアスタイリング賞:マ・レイニーのブラックボトム *

視覚効果賞:TENET テネット

国際長編映画賞:アナザーラウンド

長編アニメーション映画賞:ソウルフル・ワールド

短編アニメーション賞:愛してるって言っておくね *

短編実写賞:隔たる世界の2人 *

長編ドキュメンタリー賞:オクトパスの神秘:海の賢者は語る *

短編ドキュメンタリー賞:ラターシャに捧ぐ〜記憶で綴る15年の生涯〜 *

『ノマドランド』が最多3部門。2部門受賞が4作品。*が配信会社で計10部門。

『ファーザー』5月14日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー

(c) NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINE-@ORANGE STUDIO 2020

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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