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ピカチュウ映画→『君の名は。』的入れ替わりホラークイーン→マーベル大作。スターの道を突き進む注目女優

斉藤博昭映画ジャーナリスト
やや太めの眉の、はっきりした顔立ち。スターの要素を備えたキャスリン・ニュートン(写真:REX/アフロ)

4月9日(金)から日本で劇場公開される『ザ・スイッチ』は、男女の心と肉体が入れ替わるホラーコメディ。女子高生のミリーが、ある秘密のパワーによって、目覚めると、凶悪な殺人鬼の中年男の姿になっていた……という物語。殺人鬼の側が女性の肉体になったことを胸を触って確認するなど、日本の大ヒットアニメ『君の名は。』を重ねたくなる設定や描写があったりするのだ。

『ザ・スイッチ』は、低予算作品を大ヒットに導くことで知られる、ブラムハウス・プロダクションズの作品。ホラーを中心に、マニア向けテイストが濃厚で過激な作品もあるのだが、ヒットのツボを心得ているだけあって、この『ザ・スイッチ』もホラー+青春コメディのバランスが絶妙。エンタメ的に誰もが入り込みやすく、いい意味で軽い気持ちで楽しめる仕上がり。そして、その入り込みやすさに貢献しているのが、ヒロインのミリー役を演じたキャスリン・ニュートンだ。

『ザ・スイッチ』でキャスリンが演じるミリー(右から2人目)は、日々いろいろと悩みを抱えていたが、殺人鬼の心が宿って凶暴なキャラに大変身!?
『ザ・スイッチ』でキャスリンが演じるミリー(右から2人目)は、日々いろいろと悩みを抱えていたが、殺人鬼の心が宿って凶暴なキャラに大変身!?

このキャスリン、ハリウッドの青春ムービーの世界になじみすぎる“いかにも”なルックス。どこかで観たことがある……と思った人もいるだろう。2019年、日本でもヒットした『名探偵ピカチュウ』のヒロインだった。

ポケモンのキャラクターが実写の世界で活躍する『名探偵ピカチュウ』でキャスリンが演じたのは、TV局の新人記者。相棒のコダック(あひるのキャラ)を背負ったりして、人間の主人公ティムとともに、激しいアクションも強いられる役どころだった。

「『名探偵ピカチュウ』は私のキャリアで最大のプロジェクトだったわ」と、懐かしそうに微笑むキャスリン。

『名探偵ピカチュウ』のプレミアで
『名探偵ピカチュウ』のプレミアで写真:REX/アフロ

「空を飛んだり、かっこいいスタントをこなすこともできて、私の人生を変えたくらいの大事件になったの。俳優としてのターニングポイントの作品だと断言できる」

アクションへの目覚めーー。『名探偵ピカチュウ』が、キャスリンの俳優魂に火をつけたのは、どうもこの点だったようだ。

『ザ・スイッチ』では、外見は自分そのものだが、心は殺人鬼になったミリーということで、目を疑うような大暴れのシーンも出てくる。

「チェーンソーを使うなんて、危険な道具だし、最初はイヤだったの。でも使い方を学んでいたら何だか楽しくなってきて、結局、血まみれになって振り回してたわ(笑)。車を運転するシーンでも、ドリフトやドーナツターンといった危険なテクニックを習った。すべて一緒に現場についてくれたスタントウーマンのおかげよ。彼女がいなければ安全に撮影を終えることはできなかったと思う」

『ピカチュウ』『ザ・スイッチ』とアクションに覚醒したキャスリンは、さらに夢に一歩近づくことになる。

「私には『いつか実現したいリスト』があって、そのひとつがスーパーヒーローを演じること」

この言葉が次回作で実現する。マーベル・シネマティック・ユニバースの『アントマン』第3作で、主人公スコット・ラング(アントマン)の娘、キャシー・ラング役に抜擢されたのだ。キャシーはコミックスの中で、アントマンと一緒に「スタチュア」というキャラクター名で活躍する。つまりスーパーヒーロー役である。このキャシーは『アベンジャーズ/エンドゲーム』にも登場していたが、同作では14歳の設定だったので、キャストの変更でキャスリンに白羽の矢が立った。

こうしてキャスリンは思い描いたような俳優人生を送っている。もちろんエージェントが優秀なのだろうが、本人の才能と努力、そして強運に恵まれているからだろう。これまでもじつは、『レディ・バード』『スリー・ビルボード』というアカデミー賞作品賞ノミネート作にも出演してきた。前者では小さな役だったが、後者では主人公の殺された娘というストーリー上でも重要な役を演じている。エンタメ系と、オスカーに絡む秀作系の両方で頭角を現した稀有な若手スターなのだ。

ただ素顔のキャスリンは、現在24歳ながら、無邪気さを隠さないタイプ。少なくともインタビューでは、そんな面を全開にしていた。仕事以外でプライベートで夢中になっていることを尋ねると……。

「とにかく食べることが大好き。チートスとかスナックは止められないの。あと、お寿司は毎日のレベルで食べてるかも」

日本のインタビューを意識したような答えはサービス精神かもしれないが、これまた可愛いではないか。そして、さらに彼女が愛している“相手”がいる。

「(ペットの)プードルたちが大好きで、大好きで……。毎朝、目覚めるとプードルたちをギューッと抱きしめるの。この前、プードルらしくきれいなカットをしてもらったら、お尻のところに丸いパフがいくつもできて、本当に可愛すぎちゃって! コロナで滅入った期間を過ごすには、絶対に犬を飼うことを勧めるわ。人生がより良くなるはずよ」

プードルの話になると止まらないキャスリン・ニュートン。しかし、こうして満面の笑みを浮かべながら、気持ちを素直に爆発させる姿は、おそらく今だけかもしれない。多くの俳優がトップスターになると落ち着きを身につけ、インタビューでも当たり障りのない答えが増えていくからだ。

人気TVシリーズの「ビッグ・リトル・ライズ」では、共演のリース・ウィザースプーンから、将来のプロデューサーとしてのスタンスも学んだようで、彼女への感謝も口にしていた。トップスターとしての心構えも万全である。

いずれにしても現在のハリウッドで、キャスリン・ニュートンの圧倒的な勢いは誰もが認めるところ。その理由と未知数の魅力は『ザ・スイッチ』で確認できるはずだ。

『ザ・スイッチ』

4月9日(金)、全国ロードショー

配給:東宝東和

(c) 2020 UNIVERSAL STUDIOS

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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