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最大の前哨戦、アニー賞のノミネートが発表され、「鬼滅」のアカデミー賞候補入りは遠のいたか…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
世界のアニメーションを表彰する、アニー賞のノミネートが発表。(公式HPより)

映画界最大のイベントである米アカデミー賞は、例年になく日本での盛り上がりを欠くことになりそうだ。ここ数年、メジャーな話題作が本命になることが少なくなったアカデミー賞だが、新型コロナウイルスの影響で、大作が極端に少なくなり、インディペンデント系や配信作品がメインで栄冠を争っている今年。

昨年はそれでも『パラサイト 半地下の家族』の大逆転劇や、ブラッド・ピットの受賞など華やかな側面があっただけに、せめて何か日本がらみのノミネートでもあれば……という思いから、一縷の望みをかけられるのが、長編アニメ映画賞。なんと言っても、コロナ禍で沈滞した映画界で、日本のみならず各国でヒットを記録する「鬼滅」があるのだから!

現在、ノミネートのためのショートリスト(最終候補作)の27本の中に、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』など日本の作品が6本、残っている。数量で確率的に考えれば、ノミネート5本にはどれかが入りそうでもあるが、アカデミー賞の前哨戦であるゴールデングローブ賞では、残念ながらノミネート5本に日本の作品は入らなかった。

ただ、もうひとつ、アニメーションに関しては、アカデミー賞に向けたもうひとつの大きな前哨戦がある。それがアニー賞だ。映画のみならず、テレビ用の作品など多くのカテゴリーで、その年の世界中のアニメ作品を表彰するアニー賞は、映画部門がそのままアカデミー賞の結果に直結しやすい。アカデミー賞の長編アニメ映画賞は過去19回のうち、13回、アニー賞作品賞と同じ結果である。

アニー賞の映画部門は「長編作品賞」「長編インディペンデント作品賞」の2部門があり、日本作品の多くは後者のカテゴリーに入るケースが多い。(インディペンデント部門ができたのは、2015年度から)

2018年度、長編インディペンデントの頂点となる作品賞は、細田守監督の『未来のミライ』に輝き、そのまま同作はアカデミー賞長編アニメーション賞にノミネート入りした。昨年の2019年度は、『天気の子』や『若おかみは小学生!』『プロメア』と3本の日本作品がアニー賞同部門のノミネート5本に入った。2017年度は『この世界の片隅に』『ひるね姫〜知らないワタシの物語』が、2016年度は『君の名は。』『百日紅』『レッドタートル ある島の物語』がノミネートで『レッドタートル』が長編インディペンデント作品賞を受賞。2015年度は『バケモノの子』『思い出のマーニー』がノミネートされた。

このうち『思い出のマーニー』『レッドタートル』は、アカデミー賞でもノミネートを果たしている。

3/3(現地時間)に発表された、2020年度、第48回アニー賞のノミネートに、残念ながら「鬼滅」は選ばれなかった。長編作品賞5本、長編インディペンデント作品賞5本、計10本に入らなかったので、アカデミー賞のノミネート5本に選ばれるのは、かなり厳しい状況になったと言っていい。「鬼滅」はアカデミー賞ノミネートの基準をクリアするため、フロリダで限定的に劇場上映されただけに、やや残念ではある。

しかし他の日本作品は希望をつないでいる。アニー賞の長編インディペンデント作品賞ノミネート5本に、『音楽』と『きみと、波にのれたら』が入ったからだ。『きみと、波にのれたら』は監督賞にもノミネート。この監督賞はインディペンデント部門とは分かれていないので、かなり評価が高かったということ。また、スタジオジブリの『アーヤと魔女』もストーリーボード賞、声優賞の2部門でノミネート。

この流れでいくと、『音楽』と『きみと、波にのれたら』が、アカデミー賞でのノミネートの可能性がありそうだが、今年は日本以外の作品がハイレベルな争いで、ゴールデングローブ賞で頂点に立った、ディズニー/ピクサーの『ソウルフル・ワールド』を筆頭に、アニー賞の長編作品賞ノミネート5本が強力。長編インディペンデント作品賞ノミネートの中にも、すでに多くの賞を受賞している『ウルフウォーカー』がある。現実的に判断すると、アカデミー賞の長編アニメ映画賞に日本作品がノミネートされることは、まず難しい。

ただ、業界誌Varietyの予想では、「鬼滅」が6位、『アーヤと魔女』が7位、『音楽』が8位と、トップ5本を狙う位置にしていたりする。

アカデミー賞ノミネートの発表は、3/15。もし日本作品が逆転で滑り込んだら、それはそれで大きな話題になることだろう。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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