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米アカデミー賞エントリー決定の「鬼滅」。予想も上昇中でノミネートもある? 運命を分けるのは2月3日?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

日本アカデミー賞での優秀賞に続いて、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、米アカデミー賞の長編アニメ映画賞ノミネートへ、一歩コマを進めた。

ノミネートは5作だが、その「候補」の27作に「鬼滅の刃」がエントリーされたのだ。27作のうち、日本の作品は6作。単純に確率を考えれば、どれか一本くらいはノミネートされるかもしれない。鬼滅の他は以下の5作。

アーヤと魔女

音楽

ルパン三世 THE FIRST

きみと、波にのれたら

泣きたい私は猫をかぶる

アカデミー賞の長編アニメ映画部門に、日本映画は2018年度の一昨年、細田守監督の『未来のミライ』がノミネート。それ以前では『思い出のマーニー』、『かぐや姫の物語』、『風立ちぬ』、『ハウルの動く城』、フランス・ベルギー合作の『レッドタートル ある島の物語』とスタジオジブリ作品が高確率でノミネートされ、『千と千尋の神隠し』が受賞を果たしている。

日本で『千と千尋』の興行収入記録を塗り替えた『鬼滅の刃』に対し、ノミネートの期待が高まるのは、よくわかる。

ちなみに昨年の場合、この最終エントリーは32作で、そのうち日本の作品は『海獣の子供』『若おかみは小学生!』『プロメア』『天気の子』の4作。結果的に、日本で大ヒットした『天気の子』もノミネート5作からは漏れ、日本の作品はゼロだった。

『未来のミライ』がノミネートされた2018年度は、同作以外に『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』など計8作がエントリーされていた。全エントリーが25作だったので、約1/3が日本映画だったのである。

その前の2017年度は全エントリー26作のうち、日本作品は『この世界の片隅に』『メアリと魔女の花』『映画 聲の形』など5作。

2016年度は全エントリー27作で、日本作品は『レッドタートル』『君の名は。』など4作。『レッドタートル』がノミネートされ、『君の名は。』は選ばれなかった。

ひとつ注意したいのは、この「エントリー」とは「応募を受け入れ、選考対象になった」ということである。あくまでもアカデミー賞を狙いたい作品が立候補を表明し、そのうえで映画芸術科学アカデミーが、ノミネートの資格をクリアしている、あるいはクリアしそうなのかを判断する。とはいえ、ノミネートを目指せる可能性を信じた作品が集まってくるので、作品の質が高いのは事実。また、アカデミーが認めた映画祭で受賞を果たした作品はエントリーされるので、今年の場合、オタワ国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞した『音楽』もスムーズに枠に入った。

では『鬼滅の刃』が最終のノミネート5作に入る可能性はあるのか? 過去の例をながめると、現実的にはやや難しそうである。ピクサー作品、ジブリ作品のように世界的に認知されたブランドではなく、投票するアカデミー会員で観ている人も、とくに本拠地のアメリカではそれほど多くなさそうだからだ。

しかし、ここにきて、可能性が見えてきた。

業界誌Varietyによる1月21日のノミネート予想記事で、『鬼滅の刃』が5番手に入ったのだ。「各国での興行成績が、アメリカ以外の会員の心を動かし、ノミネートに影響を与えるのでは?」という予想だ。昨年12月の時点で、『鬼滅の刃』が7番手だったことを考えると、この上昇はサプライズ。そして同予想では6位に『アーヤと魔女』がつけており、当落線上に日本映画が2本並んでいるのだ。

他の予想サイトでは、LAタイムズが『アーヤと魔女』をトップ5作に入れている。そして本命を追いかける対抗馬7作(つまりベスト12)に『鬼滅の刃』『音楽』を入れ、Indiewireは、やはり本命ではない対抗馬の枠に、『音楽』『ルパン三世』『アーヤと魔女』とともに『鬼滅の刃』を加えている。興味深いのは、いくつかの最近の予想記事で『鬼滅の刃』の写真をメインでフィーチャーしている点。Varietyが伝えるとおり、日本をはじめ各国でのヒットを背に受け、ノミネートへの期待度が上昇しているようではある。

そして注目したいのは、まもなく2月3日(現地時間)に発表される、最大の前哨戦、ゴールデングローブ賞のノミネートである。ここでもし、『鬼滅の刃』がアニメ作品賞にノミネートされれば、アカデミー会員への投票へのプッシュにつながり、そのままアカデミー賞にノミネートされる可能性も濃厚となる。ただ、前出のVarietyでのゴールデングローブの予想は、『アーヤと魔女』が9位、『鬼滅の刃』は10位となっている(予想記事は1月1日のもの)。

今年度の長編アニメ映画賞の本命は『ウルフウォーカー』と『ソウルフル・ワールド』で、この2強の争いと言われており、最終的に「受賞」となると日本の作品は難しいだろう。しかし裏を返せば、ノミネートされるだけで快挙でもある。『鬼滅の刃』だけでなく、『アーヤと魔女』や『音楽』、『ルパン三世』あたりまで最終的に争いに加わってほしい。

アカデミー賞ノミネートの発表は、現地時間、3月15日。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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