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映画:ミニシアターが、かつてない危機を迎え、存続への監督たちの模索も始まる

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの感染拡大によって、飲食業界、エンターテインメント業界はかつてない苦境に立たされている。映画も続々と公開延期が決まるなか、今も上映を続けている劇場がある。しかし、これから緊急事態宣言が出されれば、劇場を開けておくことも難しくなっていくだろう。

そもそも「不要不急の外出自粛」と要請が出ており、しかも、映画館は換気、消毒が万全とはいえ、「密閉された空間」。わざわざ足を運ぶ人は少ない。それでも4/6現在、TOHOシネマズでは『ジョーカー』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』から、『ローマの休日』『E.T.』といった歴代の名作群を、公開延期作品の代わりに上映し(座席は1つおきに販売)、「信じられないラインナップ」と一部、SNS上で話題になったりもしている。しかし、それもあくまでも窮余の策である。

そんな状況で、存亡の危機を感じているのが、ミニシアターだ。アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺を経営する、映画配給会社アップリンク代表の浅井隆氏の4/4のツイートは悲痛だった。

アップリンクでは、こうした状況を受け止め、浅井氏のツイートにあるように、自社の60本の作品を、3ヶ月間、2980円でオンライン見放題という配信キャンペーンを始めた。これに対し、「アップリンクが潰れては困る」と、賛同の声、そして寄付の声も相次いでいる。

しかしミニシアターの多くは、こうしたキャンペーンですら不可能である。4/3のテレビ朝日、報道ステーションでは、名古屋「シネマスコーレ」の窮状が伝えられた。3月末から観客ゼロという回も出るようになり、このままでは経営が立ち行かなくなり、国からの補償金を訴える切実な願いが伝えられた。シネマスコーレは映画ファンにとっては有名なミニシアターで、1983年、若松孝二監督が立ち上げ、是枝裕和、入江悠、塚本晋也ら日本映画を代表する監督が世に羽ばたくきっかけも作った。

全国各地のミニシアターの存亡が危ぶまれる状況に、映画監督らも声を上げ始めた。シネマスコーレの報道を見た入江悠監督は、早速、全国のミニシアターの会員特典などをリストアップ。また、『淵に立つ』『よこがお』などの深田晃司監督と、『寝ても覚めても』などの濱口竜介監督は、4/6、MinitheaterAIDと題してクラウドファンディングの準備を始めたことを宣言した。

「日本を訪れた世界の映画人が等しく感嘆と賞賛の声を挙げるのが、ミニシアター文化の存在です。(中略)そこでの鑑賞体験がどれだけ映画を愛する人たちの人生を豊かにし、映画ファンを育てたか。また、私たち映画監督や映画人にとっては作品を映画ファンに届けるための貴重な『場』をミニシアターが創出してきてくれたか」(深田監督)

「ミニシアターの多くは市民団体や、ときに一個人など『有志』とも言うべき人たちによって支えられています。劇場の規模が小さいということは、収益の規模もまた小さいということであって、利益を期待するのみで、運営することはできません。(中略)他の業種も等しく危機に瀕していることは重々理解をしています。同様の試みが、必要とされる、あらゆるジャンルで『有志』によって始まることを願っています(意外とここから、新たな経済の形が始まるかもしれません)」(濱口監督)

4/3の東京新聞の記事によると、緊急事態宣言が出て、ライブハウスや映画館などが営業停止した場合、社員への休業手当について「支払いの義務の対象にならない」と、厚生労働省が見解を明らかにしたという。短期間では終わりそうもない新型コロナウイルスとの闘いだが、どこまで文化を守っていけるのか、多くの人がさまざまな策をめぐらせている。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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