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「CGジェームズ・ディーン」には反論多数。「AI美空ひばり」は紅白登場で、おおむね歓迎か。

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『エデンの東』『理由なき反抗』のジェームズ・ディーンは1955年、自動車事故死(写真:Shutterstock/アフロ)

最初に断っておくが、美空ひばりは心から尊敬している。祖母や母がファンで、影響を受けて育った面もあるが、亡くなる少し前くらいや、亡くなってから数年間は録画映像などかなりディープにハマり、ジャズやオペラのカバーなど何度聴いたかわからない。

その美空ひばりがAIで甦り、紅白歌合戦にも「出場」するという。ひとりのファンとしては、どこか違和感を抱いてしまう。

今年の後半、映画界ではジェームズ・ディーンがCGで新作に復活するといニュースが話題になった。2020年内の公開をめざして製作が進む『Finding Jack(原題)』は、ベトナム戦争を背景にしたアクション映画。1万匹もの軍用犬が従軍したとされるベトナム戦争で、人間とラブラドールの友情が描かれる。

この時点で「あれ?」と思う人もいるだろう。ジェームズ・ディーンが亡くなったのは1955年。ベトナム戦争の開戦の年だ。つまりこの映画、ディーン本人の設定で登場するわけではなく、CGで作られた「俳優ジェームズ・ディーン」が「役を演じる」ということのようだ。役どころは主人公ではなく、二番手くらいの重要なキャラクターらしい。

亡きスターをCGで復元するなんて…

ジェームズ・ディーンの遺族から映像化の権利を得たと主張する製作会社が、ディーンの生前のフッテージからCGキャラクターを完成させ、実写に合成させるという。声は、そっくりの俳優が演じる予定。

ジェームズ・ディーンは死後、伝説と化してファンを増やしてきた永遠のスターなので、待望のプロジェクトのようでもあるが、このニュースが出ると、多くの反発が湧き上がった。

キャプテン・アメリカ役でおなじみのクリス・エヴァンスは「これは恥ずべき行為。そうなったら、最新技術でピカソの新作やジョン・レノンの新曲を作ることも可能になる」とツイッターで怒りをあらわにした。たしかにニュースでは「reincarnate=生き返らせる」という単語も使われたことで、よからぬイメージを抱かせる。すでにこの世にいない有名人をテクノロジーで生き返らせるなんて、ファンへのサービス以上に、明らかに金儲けの匂いが上回るからだ。

敬意で対応したスター・ウォーズ

2019年には他にも、「甦らせること」に注目が集まる映画があった。『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』で、2016年に亡くなったキャリー・フィッシャーのレイアを、どうやって登場させるのか、J.J.エイブラムス監督が選んだのは「本人の映像」で、過去(『フォースの覚醒』)に撮ったフィッシャーの映像で使われなかったものを駆使して、新たな物語にハメ込んだのだ。もちろん多少の特殊効果は使っているだろうが、CGでレイア姫を一から創り上げることは避けられた。これは亡きフィッシャーへの敬意も感じられ、シリーズファンにとって最高の選択だったはずだ。

2019年はまた、『ジェミニマン』でウィル・スミスが、『ターミネーター:ニュー・フェイト』ではエドワード・ファーロングが、それぞれ自分で演じながら、パフォーマンス・キャプチャーによって若い時代にCG変換された。その違和感は、もはや肉眼ではゼロ。

テクノロジーは、今は亡き人に新たな演技をさせるまでに発展している。しかしそれでも、モラルという点で、ジェームズ・ディーンをCGで甦らせることに賛否、いやむしろ否定的意見が上回っている。

その後、『Finding Jack』の製作経過は報道されていないが、同作の製作会社は、イングリッド・バーグマンやクリストファー・リーヴら故人のスターにも同じ手法を考えているという。

ファンにとっては再会の喜びもある

一方、AI美空ひばりは、9月のNHKスペシャル以来、やはりモラルの問題や違和感など反論はあったものの、ファンの中には再会できたような錯覚に感動している人も少なくないようだ。製作の裏側を知れば、歌声合成ソフトウェアを基に、歌詞から楽曲を解釈して歌い方すらも変えるAIのテクノロジーは、画期的であり興味深い。ジェームズ・ディーンの復元とは違って、シンプルに「技術」に驚き、感心させるパターンかもしれない。紅白歌合戦に登場することで、その技術が国民的に温かく迎えられるのである。

ただ繰り返すが、亡き人を最新技術で甦らせることを、やっていいのか。そこまで目くじらを立てるべきではないかもしれないが、テクノロジーの進化と本来の人間のあり方を考えさせられる。

美空ひばり、ジェームズ・ディーンの技術による復元に、技術に反して敬意で対応した「スター・ウォーズ」と、同じトピックが重なった2019年の後半。今後、この問題はさらに深く論議されてほしいとも思う。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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