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「アナ雪2」はどこまで行く? ロケットスタートと最終成績の関係

斉藤博昭映画ジャーナリスト
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映画の興行を大きく左右するのは、オープニング週末の数字である。いかに観客に待ち望まれたか。どれだけ劇場に人が駆けつけたのか。はっきり「数字」で示されることで、その後の観客動員に大きな影響が出る。

以前は、この週末の数字が映画会社によって「操作」されているのでは……という疑惑さえあった。ランキング上位に入った映画が、実際の劇場では異様なまでにガラガラだった、なんてことも。それほどまでにオープニングの成績は、映画の興行において死活問題なのである。

そのオープニングで先週末、『アナと雪の女王2』が驚異的な数字を叩き出した。ある程度、予想されていたとはいえ、その予想を上回る好成績。週末の土日で16億1600万円、週末3日で19億4205万円。これは『名探偵コナン 紺青の拳』を抜いて、2019年の新記録である。

では歴代ではどうかというと、これが少々ややこしい。

2003年の『マトリックス リローデッド』は、オープニング週末2日間で22億2285万円、その前年の『ハリー・ポッターと秘密の部屋』では20億5487万円という記録が残っている。

しかし、これらの数字には「先行上映を含む」という「理由」が付加されていた。これは当時、映画界の常識であり、オープニングのランクをいかに上位にもっていくかの苦肉の策。週末2日間に「上乗せ」させるために、たとえば前週末に特別に先行上映するなどして、その貯金も加味していたのだ。

近年は、そういった先行上映が少なくなり、基本的に土日2日間、週末3日間の成績を比較する、ある意味で“公平な”数字発表にシフトしている。それゆえに「アナ雪2」のオープニング成績が「歴代●位」と堂々と発表できない事情もあるのだろう。

「アナ雪2」のオープニング成績は、興収255億円で日本歴代3位となった前作『アナと雪の女王』の約2倍。単純に考えれば、最終興収も2倍に……というわけには、もちろんいかない。しかし配給のディズニーが「歴代1位の数字も狙える」と宣言する気持ちもわかる。

今後の数字を予測するうえで比較の対象になるのは、『君の名は。』と『天気の子』かもしれない。「アナ雪」と違って続編モノではないが、予想以上に大ヒットした作品から、次への期待という点が似ているからだ。

『君の名は。』

週末2日:9億3000万円

週末3日:12億7800万円

→最終興収:250.3億円

『天気の子』

週末2日:11億8500万円

週末3日:16億4380万円

→最終興収:約140億円(わずかに続映中)

オープニングでは128%で、最終は約56%という結果だった。

一方でもう少し時代をさかのぼり、続編という共通点では…

『ハリー・ポッターと賢者の石』

週末2日:15億5000万円

→最終興収:203億円

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』

週末2日:20億5487万円

→最終興収:173億円

オープニング(先行含む)では132%で、最終は85%。前者が増え、後者が減るという数字展開は似ている。

さらにこんな比較も。

『もののけ姫』(1997年)→『千と千尋の神隠し』(2001年)

オープニング、最終とも、約150%という、わかりやすい増加

近年、同じように待望のシリーズ最新作ということで驚異的オープニングを記録したのが2015年の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で、週末2日で12億4502万円、3日で16億1934万円で、最終的に116.3億円となった。現実的に考えると「アナ雪2」の当面の目標は、この「フォースの覚醒」あたりになるのではないか。そうなると前作の約半分の興収になってしまうが、この後、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』という、やはりメガヒット確実の作品が公開を控えているので、「アナ雪2」の一人勝ち状態というわけにはいかないからだ。

オープニング2日と最終記録の関係では、日本歴代3位の『タイタニック』が、5億1300万円→262億円(51倍)、昨年の『ボヘミアン・ラプソディ』が3億5400万円→139億円(39倍)と、公開後の評判で数字を伸ばし、記録を達成した、真の意味でのロングランヒット作のケースもある。逆に2014年の『妖怪ウォッチ』の1作目のように、オープニングが16億円超えという驚異的な数字のわりに、最終が78億円(約4.87倍)という、明らかなスタートダッシュが目立つケースもあった。

『アナと雪の女王2』が大記録を作るには、『スター・ウォーズ』公開後の数字のキープが重要になってくる。この続編を待っていた観客には、とりあえず作品としても好評を受けているようなので、前作の“レリゴー”のように、「イントゥジアンノウン〜心のままに」の歌詞とメロディが、どこまで世の中に浸透するか。そこが大きなポイントになりそうだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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