「ボヘミアン」もレディー・ガガ主演作も、ミュージカルではなくドラマ部門の理由。ゴールデングローブ賞
なかなか突き抜けた本命の現れない、今年の映画賞レースで、アカデミー賞の最大の前哨戦となるゴールデングローブ賞のノミネートが12月7日(現地時間)に発表された。
現在、日本でも大ヒット中の『ボヘミアン・ラプソディ』も見事に作品賞や、ラミ・マレックで主演男優賞にノミネート。そのほかにも12/21日本公開の『アリー/スター誕生』も作品賞、レディー・ガガの主演女優賞など5部門にノミネートされた。注目すべきは、この両作品がともに「ドラマ部門」に入っていること。ゴールデングローブ賞(映画部門)は、作品賞と主演男・女優賞が「ドラマ部門」「コメディ/ミュージカル部門」に分かれており、それぞれで最高賞が決まる。監督賞、脚本賞、助演賞などは両部門の総合である。
ふつうに考えれば、『ボヘミアン・ラプソディ』も『アリー/スター誕生』も「ミュージカル」ではないので「ドラマ部門」でおかしくはない。しかし、ゴールデングローブ賞の場合、両部門に厳密な境界はなく、どちらの部門にエントリーするかは、映画会社の判断なのである。とくにコメディは基準が曖昧で、近年だけでも『アリス・イン・ワンダーランド』や『アメリカン・ハッスル』、『Mr.インクレディブル』、『ツーリスト』、『her/世界でひとつの彼女』など、ノミネート作品には「これがコメディ?」と首を傾げたくなるものが目立つ。
なぜか? それは「コメディ/ミュージカル部門」の方がノミネートされやすいからである。賞レースを争う作品は、社会的・政治的メッセージや、世界を変えた事件や人物の映画化など、どうしてもシリアス系がメインとなる。超有力作品がドラマ部門を占めるとなれば、当落線上の作品は「コメディ」だと主張すれば、とりあえずゴールデングローブには入りやすい。
ミュージカルにしても『ラ・ラ・ランド』や『レ・ミゼラブル』のような明らかな作品はともかく、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』、『シング・ストリート 未来へのうた』のように、ミュージシャンを主人公にしたり、劇中に多くの演奏シーンがあったりする作品(明らかにコメディではない)が「コメディ/ミュージカル部門」でノミネートされている。その流れをくめば、『ボヘミアン・ラプソディ』も『アリー/スター誕生』も、よりラクな「コメディ/ミュージカル部門」を選んでもよさそうだが、そこにもうひとつの「駆け引き」が見えてくる。
やはりゴールデングローブの「ドラマ部門」の方が、アカデミー賞受賞に「近い」からである。
過去20年のアカデミー賞作品賞受賞作20本のうち、ゴールデングローブでコメディ/ミュージカル部門に入っていたのは、『恋におちたシェイクスピア』『シカゴ』『アーティスト』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の4本のみ。20%の確率だ。
同じように主演女優賞は過去20年で、コメディ/ミュージカル部門からオスカーに繋がったのが25%、主演男優賞はわずか10%である。
『アリー/スター誕生』は、今年の賞レース予想が始まった時点で、作品賞では有力のひとつとなっており、レディー・ガガに関しては主演女優賞の最有力候補とされていた。一方で、『ボヘミアン・ラプソディ』は当初それほど期待が高くなかったが、世界的な支持を集め、ラミ・マレックの主演男優賞にも希望の火が灯り始めた(こちらはライバルが強力なので受賞は難しそうだが)。
この2作は「コメディ/ミュージカル部門」をあえて外して「ドラマ部門」で、その先の勝負に賭けたとも考えられる。もしゴールデングローブのドラマ部門で受賞を果たせば、アカデミー賞がぐっと近づいてくるのは間違いない。
『アリー/スター誕生』12月21日(金)、全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
『ボヘミアン・ラプソディ』全国公開中
配給:20世紀フォックス映画
(c) 2018 Twentieth Century Fox