Yahoo!ニュース

2019年の「カメ止め」候補を探して…。22歳の新鋭が撮った『僕はイエス様が嫌い』

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(c) 「閉会宣言」

2018年の映画界は、製作費300万円といわれる『カメラを止めるな!』が興行収入30億円を超えて大ヒットというトピックが大きな話題を呼び、映画会社は第2の「カメ止め」の企画を考えるのに躍起になったりと、社会現象につながっている。しかし、この現象は起こそうとして起こるものでもない。

「カメ止め」、そして『この世界の片隅に』などの成功例は極端にしても、新たな才能が撮り、人気俳優が出演していない作品が、観客の大きな支持を集める流れは、今後も途切れないだろう。そこで2019年、注目が集まりそうなのが、『僕はイエス様が嫌い』だ。11月17日、東京フィルメックスで日本初上映となった今作。監督の奥山大史は22歳(!)という、若き才能である。

この『僕はイエス様が嫌い』が『カメラを止めるな!』を想起させるのは、映画祭での受賞で一気に注目度が高まった点が同じだから。「カメ止め」は2018年3月の、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でファンタランド大賞(観客賞)を受賞し、4月のウディネ・ファーイースト映画祭(イタリア)で観客賞2位のシルバーマルベリーを受賞。一部の映画ファンにじわじわと話題が広がり、6月の劇場公開で一気にブームに火がついた。『僕はイエス様が嫌い』は、2018年9月のサンセバスチャン国際映画祭(スペイン)で、出品自体もかなりハードルが高い新人監督のコンペティション部門で、見事に最優秀新人監督賞を獲得。このサンセバスチャンは世界3大映画祭(カンヌ、ヴェネチア、ベルリン)に次ぐ重要な映画祭であり、受賞はまさに快挙であった。さらに11月16日にはストックホルム国際映画祭で最優秀撮影賞に輝くなど、快進撃は止まらない。

2019年の日本での劇場公開が決まったという、その『僕はイエス様が嫌い』が、東京フィルメックスで年内に一度だけ先行上映されるとあって、11月17日、会場のスバル座は満席。期待の高さをうかがわせた。作品のテイストは、『カメラを止めるな!』とは、まったく別のものである。

祖母と暮らすために、両親とともに東京から雪深い地方へ移り住んだ小学生のユラ。新たに通うようになった小学校は、お祈りや礼拝が日常でユラは戸惑うものの、ある日、目の前に小さなイエス様が出現したことで、親友ができるなどユラの願いは叶っていく……という物語。

全編、雪深い舞台を象徴するように、静けさが強調され、小学校やユラの家族の日常が淡々とつづられる。軽いユーモアも挟みながら、しかし映画は思わぬ展開も用意し、ラストはさらに予想を上回る、そして言葉にするのは難しい感動が待ちかまえている。そんな作品だった。22歳が撮ったとは思えない、小学生の成長を冷徹にとらえた視点。子役たちへの演出力。転換の美しさ。さらに観る者の想像力を広げる余地……と、「カメ止め」のような爆発力は起きないかもしれないが、かなり多くの観客の心をつかむのではないだろうか。実際に終映後も、深い余韻に浸っているような表情があちこちで見られた。

ただ惜しかったのは「音」で、この日の上映は音量が小さかったのか、あるいはこの音量が監督の意図なのかはわからないが、かなり聞きづらいセリフが多かった。英語字幕が出るので、観客に「わざと伝えない」演出意図でもないと思う。低予算の、とくに日本映画の場合、ポストプロダクションで音の調整がうまくいっていない作品がたまにあるので(奥山監督の卒業制作作品ということもあるかもしれない)、この部分は劇場公開でぜひ改善してほしいと切に願う。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事