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トム・クルーズ「主演作来日率」の高さ、信頼度100%戸田奈津子氏との阿吽の呼吸

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ミッション:インポッシブル』最新作宣伝で羽田空港に降り立ったトム・クルーズ(写真:Shutterstock/アフロ)

トム・クルーズが、じつに23回目の来日を果たし、最新作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』のプロモーションを行った。ハリウッドのスターが、新作の公開に合わせての来日は日常風景だが、じつは近年、「ジャパンプレミア」などのイベントが中心で、「記者会見」は減少傾向にある。

記者会見を満席にする、最後のスター?

かつてのように来日会見がニュースになるような「スター」が減っているのも、その一因。しかしトム・クルーズだけは、いまだにそのスター性に陰りが見えない。実際に今回の来日記者会見も、用意された席はおろか、立ち見のスペースもぎっしりと埋まり、入りきれない記者も出ていたくらいだ。現在、ブラッド・ピットやジョニー・デップでも、ここまで盛況になることはない。

トム・クルーズが他のスターと違うのは、個別、あるいはグループでも「インタビュー」をほとんど行わないこと。会見でのコメントをネタにするしかない側面もあるが、やはりトムの人気は別格だと実感する。出演作をプロモーションすることに積極的な彼は、主演作のほとんどで来日を果たしてきた。しかし昨年あたりから、「来ない」ケースも出てきたのも事実だ。

初来日したのが、1992年の『遥かなる大地へ』。以下、同作までトムの出演作を遡っていくと、今回まで主演作25本のうち、20本で来日していることがわかる。ものすごい「来日率」だ。

●が来日。×が主演なのに来日なし。※は主演ではない作品。数字は日本での興行収入。

×バリー・シール/アメリカをはめた男 7.52億円

×ザ・マミー/呪われた砂漠の王女 15.3億円

ジャック・リーチャー NEVER GO BACK 8.67億円

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション  51.4億円

オール・ユー・ニード・イズ・キル  15.9億円

オブリビオン  13.1億円

アウトロー  11.3億円

※ロック・オブ・エイジズ 興収不明

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル  53.8億円

ナイト&デイ  23.1億円

ワルキューレ  12.5億円

※トロピック・サンダー/史上最低の作戦 興収不明

※大いなる陰謀 6.15億円

M:i:III 51.5億円

宇宙戦争  60億円

コラテラル  22億円

ラスト サムライ  137億円 撮影含め計4回来日

マイノリティ・リポート  52.4億円

バニラ・スカイ  33.2億円

M:I-2 97億円

※マグノリア 8.6億円

アイズ ワイド シャット  17.5億円(ここから下は配給収入)

×ザ・エージェント 9.5億円

ミッション:インポッシブル  36億円

インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア  7.8億円

×ザ・ファーム 法律事務所 11億円

×ア・フュー・グッドメン 6.5億円

遥かなる大地へ  8億円 初来日

興行収入を見ると、「来日すれば大ヒット」というわけではなく、やはり「ミッション:インポッシブル」シリーズだったり、スピルバーグと組んでいたり、娯楽性の高い作品が抜きん出る。気になるのは、直近の2本の主演作で来日しなかったことだ。とくに『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』は当初、来日の予定があったと聞く。この作品、全米で公開されてからの評判が芳しくなく、それが来日中止の理由かもしれない。もう少し評判が良く、トムの来日もあれば興収も上がったはずだ。

その直前、『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』まで、トムは「主演作の連続来日記録」を続けていたが、同作の興収が10億円に届かなかったことで(ジャック・リーチャーの前作『アウトロー』の数字からして想定内だったが)、配給会社が来日の二の足を踏んだ部分もあるかもしれない。

同時通訳のような速いテンポで、気持ちが途切れない

そして来日したトム・クルーズの横に、必ず立っている人といえば、戸田奈津子氏である。もちろん今回のトムの通訳も、彼女。戸田奈津子氏といえば、字幕翻訳家の大御所であり、この最新作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』を含め、トム・クルーズの主演作の多くで字幕を担当している。

通常、来日時の通訳は配給会社が決めるのだが、「トムが来たら、戸田氏」というのは暗黙の了解。何より、トム自身が彼女を希望しており、戸田氏の誕生日や「お歳暮」の時期にトムがプレゼントを贈るなど、プライベートでも親友と言っていい関係だ。来日スターの戸田氏への信頼関係では、リチャード・ギアも有名で、アメリカの自宅に彼女を招くほどの間柄。また、気分の上下が激しいことで知られるラッセル・クロウを日本のプレスが海外で取材した際、わざわざ通訳として戸田氏を日本から現地に向かわせ、ラッセルの機嫌を損なわせない配慮がなされた…という逸話もある。

今回の記者会見の一瞬からも、二人の仲睦まじい様子が感じられた。(撮影/筆者)
今回の記者会見の一瞬からも、二人の仲睦まじい様子が感じられた。(撮影/筆者)

今回のトム・クルーズも、いつものように饒舌だったが、そこには戸田氏との「阿吽の呼吸」も関係している。通常、記者会見の通訳は、当事者がある程度、話し終わってから、改めて日本語の訳が話されるのだが、トムと戸田氏の場合は、ほぼ同時通訳のように展開されていく。だから日本語訳の間に休む時間もなく、トムは気持ちを切らさず、流れるように話し続けることができるのだ。これは長年の関係で築いたテンポだろう。ただ、聞いている側としては二人の言葉がかぶり、聞き逃す部分が生じるのも事実。しかしトムが機嫌よく話す方が、場が盛り上がるのも、これまた事実である。

今回も戸田氏の訳で「ヘリコプターをストールさせる」というのが何度か出てきたが、「ストール(stall)」とは「失速」の意味で、このままだとわかりづらい人も多い。またヘリコプターの訓練について「『アメリカン・メイド』で軽く経験していた」と訳されたが、これは『バリー・シール/アメリカをはめた男』の英語の原題『American Made』のことで、このあたりも他の映画専門の通訳ならきっちり日本語タイトルで訳していたはず。

字幕翻訳がメインの戸田氏が、通訳を務める機会は、かつては多かったが最近は少ない。昨年のハリソン・フォードのように、超大物の場合、担当するケースがある。戸田氏も今年で82歳。とはいえ、頭も足腰も衰えは見られず、ある映画関係者によると「耳がちょっと遠くなっただけ」とのこと。前述の、かっ飛ばして通訳していくスタイルも、年齢とは関係なく以前からおなじみの光景ではある。

来日したトム・クルーズと、その横に必ずいる戸田奈津子氏。映画関係者や映画ファンにとって「定番」の情景がなくなるのは寂しいので、トムには今後も主演作では必ず日本に来てほしいと思うのである。

画像

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』

8月3日(金)、全国ロードショー

配給:東和ピクチャーズ

(C) 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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