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朝ドラに、スピルバーグ新作『レディ・プレイヤー1』。映画界に密かに進んだ80年代ブームが加速!?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
専用のゴーグルとグローブを着けてVRを体験する『レディ・プレイヤー1』

NHK朝ドラ「半分、青い。」は、現在のところ舞台が1980年代。子供時代(1981年)はそれほどでもなかったが、高校時代(1989年)になって、ランバダや「ねるとん」など、これでもか、これでもかと80年代ネタが投入され、当時を知る人のノスタルジーを喚起させている(これは「あまちゃん」の踏襲でもあるが)。

この80年代愛、じつはこのところハリウッド映画でも密かなブームになっている。もちろんこうした時代への愛は、大量に作られる映画につねに発見できるのだが、話題作やヒット作に80年代がキーワードになる現象が増えているのだ。単なる「時代背景」ではなく、80年代カルチャーへの強い思いが作品の中核になっていたりする。

日本でも今週末から公開される、スティーヴン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』。これは原作もそうなのだが、80年代カルチャーを総動員している作品だ。

ざっと紹介すると、登場するネタは以下のような感じ。

[映画]

バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『ジュラシック・パーク』、『エルム街の悪夢』、『チャイルド・プレイ』、『ビルとテッドの大冒険』、『レジェンド/光と闇の伝説』、『シャイニング』、『バカルー・バンザイの8次元ギャラクシー』、『セイ・エニシング』、『ブレックファスト・クラブ

[音楽]

a-ha「テイク・オン・ミー」、デュラン・デュラン、マイケル・ジャクソン「スリラー」、バグルス「ラジオ・スターの悲劇

[日本関連]

機動戦士ガンダム、AKIRA、ストリートファイター

映画や曲、キャラクターそのものが使われるだけでなく、セリフで引用されるものもあるし、『サタデー・ナイト・フィーバー』や『エイリアン』など70年代後半のネタや、『アイアン・ジャイアント』など90年代以降の作品も盛り込まれている。しかし量とインパクトで圧倒的に際立つのが、80年代。『レディ・プレイヤー1』では、バーチャル空間「オアシス」が舞台になるので、この異空間=バーチャルな背景に、80年代の、妙にきらびやかなカルチャーが、すんなりフィットしているのである。

やはり、80年代はどこか「異様」であった。ファッションやヘアスタイルなど、おそらく二度と復活しない流行が突発的に出現した時代。60〜70年代のファッションなどは、むしろ21世紀に入ってリバイバルしたりしているので、80年代は特殊だ。それゆえに、『レディ・プレイヤー1』が作り出す人工的な世界にぴったりなのだろう。

過剰なスタイルだけではなく、青春映画の宝庫

しかしこの80年代愛、ビジュアルやセリフでの直接引用だけでなく、精神的に受け継ぐ作品が、昨年あたりから目立っている。日本でも予想外のヒットを記録した『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』は、同じスティーヴン・キング原作の映画化『スタンド・バイ・ミー』と重なる部分が多かった。『IT〜』の原作では50年代だった少年時代を、映画版では1989年に変更。『スタンド・バイ・ミー』は映画版も原作どおり50年代だったが、80年代青春映画としてのムードが、今回の映画版『IT〜』に重なる。まさに精神的なリンクだ。

同じように昨年公開された『スパイダーマン:ホームカミング』も、80年代青春映画の空気が漂っていた。主演のトム・ホランドは、監督から「ジョン・ヒューズ監督の映画を参考に観るように」と指示された。ジョン・ヒューズといえば、80年代青春映画の旗手。『ブレックファスト・クラブ』などを観たトム・ホランドによって、80年代の高校生たちの関係性が、時を超えて受け継がれたのである。『スパイダーマン:ホームカミング』では、主人公が郊外を駆け抜けるシークエンスで、やはりジョン・ヒューズ監督の『フェリスはある朝突然に』とそっくりに演出されていたりと、80年代愛がほとばしっている。

『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』でゲームに入る前の高校生4人
『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』でゲームに入る前の高校生4人

『ブレックファスト・クラブ』は、問題を起こした5人の高校生たちが休日登校を命じられるが、この設定こそ最近の80年代ブームの基本で、現在公開中の『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』は、4人の高校生が居残りをさせられ、ゲームの世界に入ってしまう(この展開は『レディ・プレイヤー1』も似ている)。『ブレックファスト・クラブ』そのものの発端だ。『ジュマンジ』の前作は1996年だが、この作品が捧げるオマージュは、明らかにジョン・ヒューズ。アメリカでは3週連続1位で、一度2位に落ちたのに翌週再び1位という、誰も予想できなかったスーパーヒットを記録した『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』。80年代テイストが観客に歓迎されたのかもしれない。

やはり昨年公開された、日本の戦隊シリーズが基になっている『パワーレンジャー』も、補習クラスに通うことになった5人の高校生たちが主人公で、まさに『ブレックファスト・クラブ』的な設定。

リバイバル上映、劇場初公開も次々と

また、80年代のムードでいえば、1984年の伝説のモキュメンタリー(ドキュメンタリー風の作り物)映画で、日本では劇場未公開だった『スパイナル・タップ』(監督は『スタンド・バイ・ミー』のロブ・ライナー)が、今年の6月についに日本で劇場初公開になったり、80年代映画の強烈なインパクトを体現した『ストリート・オブ・ファイヤー』が、7月にデジタル・リマスターで劇場に戻ってきたりと、80年代ブームが感じられる。

一方で日本映画は、40歳のヒロインが高校時代を懐古し、当時のヒット曲がキーアイテムになる8月公開の『SUNNY 強い気持ち・強い愛』のように、90年代初期ノスタルジー作品が誕生。30代〜40代に狙いを定めている。

今から30年前。

その時代が甦るというのは、当時10代〜20代で流行カルチャーを全身で浴びた人がノスタルジーを感じるうえで、ちょうどいい「間隔」が訪れているのかもしれない。その世代が成長し、いま映画界のトップになりつつあるという状況も無縁ではないだろう。

スタイルとしては「異質」だったかもしれない。しかし「精神」としては激しく共感を誘い続ける80年代映画、カルチャーの魅力は、ここしばらく密かなブームとなって新たな作品に宿っていくに違いない。

『レディ・プレイヤー1』

4月20日(金) 全国ロードショー 配給/ワーナー・ブラザース映画

(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』

公開中 配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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