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『ボス・ベイビー』も好発進。日本の3月はアニメが活況をみせる季節

斉藤博昭映画ジャーナリスト
オッサンの姿で家にやって来た赤ちゃんを主人公にした『ボス・ベイビー』

先週末(3/24〜25)の映画観客動員ランキングが発表され、見事に1位となったのは『ボス・ベイビー』だった。これは予想どおりとも、サプライズともとれる結果。

この『ボス・ベイビー』、日本の興行関係者(劇場側)から大きな期待をかけられていたのである。キャラクターの見た目のユニークさ(赤ちゃんなのにオッサン風)は、日本の観客に大きくアピールするだろうと考えられ、劇場ブッキングも大幅に拡大したという。その後、アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされ、『ボス・ベイビー』は品質も保証済みとなった。日本での初登場1位は、ある意味で想定内だ。とはいえ、キャラの認知度としては未知数。ビジュアル的に好き/嫌いが分かれる可能性もあったので、このヒットはうれしい驚きでもある。

2位の『リメンバー・ミー』は興行収入では『ボス・ベイビー』を上回っており、こちらも絶好調。3位の『映画ドラえもん のび太の宝島』も新シリーズの記録を狙うペースで突き進んでいる。こうしてベスト3をアニメ作品が独占し、今年も3月からゴールデンウィークにかけてアニメの強さが証明されることになりそうだ。

アカデミー賞長編アニメーション賞も受賞し、日本でも絶好調の『リメンバー・ミー』
アカデミー賞長編アニメーション賞も受賞し、日本でも絶好調の『リメンバー・ミー』

『ボス・ベイビー』や『リメンバー・ミー』のように、3月に大ヒットのポテンシャルを秘めるハリウッドのアニメを公開することは「常識」になってきた。全米や世界の他国では前の年に公開されたものを、満を持して春休みにぶつける。ディズニーは何年間もこの方式を徹底しており、昨年の春に『SING シング』を大ヒットさせた東宝東和(ユニバーサル作品の日本配給)も、今年の『ボス・ベイビー』でそれを追随して、成功を収めた。もともとアニメ作品は、一般へのキャラクターの浸透を図るため、全米公開から間を置くことが多いが、やはり春休み=アニメの相性も大きいだろう。

じつは今年(2018年)の2月は、映画動員ランキングでちょっとした異例の事態が起こっていた。4週のうち2週で、アニメ作品がランキングのベスト10に1本も入っていなかったのである。もちろん公開のタイミングによるものだが、過去にさかのぼってベスト10にアニメが入らなかったのは、2015年の6月の第1週。じつに2年8ケ月ぶりである。それほどまでに日本の動員ランキングにアニメ作品は「必須」になっている。

ベスト10のうち7本がアニメという週も

アニメ作品がベスト10の多くを占めるのは、やはり3月〜ゴールデンウィークと、夏休み。顕著だったのは、2017年の3月第3週で、10本中の7本がアニメ作品だった(『SING シング』『モアナと伝説の海』『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』がベスト3。他に『プリキュア』『黒子のバスケ』『ひるね姫』『ソードアート・オンライン』)。

10本中6本がアニメという週は、ここ数年、何回も例がある。

2017年7月第4週(『怪盗グルー』『ポケモン』『カーズ』『メアリと魔女の花』『魔法少女リリカル〜』『ノーゲーム・ノーライフ・ゼロ』)、2016年4月第4週(『コナン』『ズートピア』『クレヨンしんちゃん』『遊☆戯☆王』『ずっと前から好きでした。告白実行委員会』『ドラえもん』)、2015年7月第4週(『バケモノの子』『インサイド・ヘッド』『ポケモン』『ラブライブ』『アンパンマン』『ひつじのショーン』)といった具合。(※タイトルは略称も使用)

ここ2年、各月のトップ10におけるアニメ作品の占有率は以下のとおり。(4週だったら、ベスト10×4のうち、何本がアニメかという率)

2017年

1月:28% 2月:22.5% 3月:45

4月:48% 5月:20% 6月:17.5

7月:36% 8月:35% 9月:25

10月:18% 11月:22.5% 12月:20

2016年

1月:22% 2月:15% 3月:25

4月:40% 5月:40% 6月:15

7月:30% 8月:45% 9月:27.5

10月:28% 11月:27.5% 12月:40

2018年は今のところ

2017年

1月:20% 2月: 5% 3月:27.5

という推移である。

3〜5月、8月の数字を筆頭に、この高い確率は、ハリウッドはもちろん他の国では考えられない。ましてや今週のようにベスト3をアニメが独占するというのは、日本だけだろう。日本アニメのクオリティおよび人気の高さが観客の心をつかみ、さらにハリウッド作品でも『アナと雪の女王』のようなメガヒットが誕生する土壌は、すっかり日本に定着し、今後もこの高確率パターンは続いていきそうだ。

『ボス・ベイビー』 配給/東宝東和

(c) 2017 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.

『リメンバー・ミー』 配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン

(c) 2017 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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