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人気コミックの実写映画化。ややマンネリ気味の現状を打破するか。『リバーズ・エッジ』『羊の木』…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(C) 2018映画「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

ここ数年の日本映画で、何かと話題に上るのが、人気コミックの実写版である。実際に本数が増えている傾向もあり、原作の売り上げから高い期待がかかるケースも多い。しかしその仕上がり、ヒットに関しては明暗を分けることも顕著になってきた。

『海猿』や『ROOKIES-卒業-』、『るろうに剣心』などは大成功を収め、『20世紀少年』や『GANTZ』、『暗殺教室』なども好意的に受け止められたが、物議をかもし始めたのは、2015年の『進撃の巨人』あたりからだろう。前・後編の2部作で公開され、前編の『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』が32.5億円の興収で年間14位。原作の人気からするとやや物足りない数字で、後編の『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド・オブ・ザ・ワールド』は16.8億円と約半減。期待していた原作ファンも前編を観てがっかりした事実があらわになった。ここ数年、SNSや、Yahoo!映画など一般観客のレビューで、ネガティヴな感想も一気に広まる傾向もあり、人気コミックの実写版にはシビアな判断が下されるようになった。

2016年の『テラフォーマーズ』や、2017年の『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』、『鋼の錬金術師』などは、ヒット予想を大きく下回ってしまった。『銀魂』のような成功例もあるが、次から次へと実写化されることに映画の観客にも「またか」という膨満感がもたれているのではないか。

いわゆる少女コミックの実写映画も量産が続いている。基本は青春ラブストーリーが多いので、若手イケメンを主演に迎え、ヒットを狙うものの、2015年の『orange』が32.5億円を達成した後は、大ヒット作は生まれていない。原作ファン以外には、似たような作風でマンネリになっている状態は否めない。

2018年のラインナップを見ても、少年コミック、少女コミックとも、実写化の「マンネリ」は続きそう(とくに少女コミックの多さは相変わらず)だが、そのマンネリ感を打破しそうな作品が公開を控えている。

原作の世界観をパーフェクトに再現した奇跡

そのひとつが、『リバーズ・エッジ』(2/16公開)。

岡崎京子の原作は1993〜94年に連載され、20年以上経った現在でも読み継がれている。いじめやセックス、過食症、嫉妬など高校生たちの日常を生々しく描きながら、孤独や友情に激しく共感を誘う不思議な魔力を持った作品。現在は執筆活動ができない岡崎京子の作品の実写化は『ヘルタースケルター』以来で、待望の一作でもある。

この実写版、主演を務めた二階堂ふみの熱意が実った作品でもある。主演女優が作品を甦らせたいと強く信じたわけで、その熱意が魂として作品に宿った感がある。実際に二階堂ふみの演技には、女優人生を懸けた「覚悟」が見てとれる。

そして何より、原作の世界をここまで完璧に再現した作品は珍しいのではないか。ストーリーは基本的に同じ。要所に行定勲監督によるオリジナルの演出はあるものの、原作ファンにとっての「再現度満足度」はハイレベルなはず。原作を知らない人にとっては、まっさらな気持ちで衝撃を味わえるだろう。二階堂以外のキャストも、原作のキャラクターが憑依したような印象で、とくに世界を達観したような表情でゲイの高校生を演じる吉沢亮は、今作は俳優としてのターニングポイントになったのではないか。

物語は原作が書かれた1990年代が舞台だが、現在の感覚でもまったく古びていないことが、今回の映画化で実証された。岡崎京子のセンスには恐れ入るばかり。『ヘルタースケルター』は整形ネタや沢尻エリカ主演などで、ややスキャンダラス的に話題になってヒットしたが、この『リバーズ・エッジ』はコミック実写化の「正しいかたち」として受け止められる、と断言したい。

もはやコミックが原作など、知らなくてもよい

もうひとつは『羊の木』(2/3公開)。

これは原作がコミックだと知らない人も多いかもしれない。「がきデカ」の山上たつひこが原作で、「ぼのぼの」のいがらしみきおが作画という異色コンビの作品だ。ストーリーもかなり異色で、国家プロジェクトによって仮釈放された殺人犯たちが、小さな町に転入して、こっそり新生活を始める……というセンセーショナルな設定。それが、いがらしみきおの画風で、不思議な魅力を作り上げていた。

監督を任されたのは、『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八。6人の元殺人犯の群像ドラマが、原作とは異なるラストへ導かれていく。松田龍平、市川実日子、優香らが6人の怪しい日常を演じており、作品全体も原作とは大きく印象が違っている。このあたりは『リバーズ・エッジ』と真逆。こうした「原作を忘れさせる」実写作品こそ、今後のコミック映画化の重要な方向性を感じさせる。もはやコミック実写化という謳い文句も必要のない『羊の木』の2日前に公開される『不能犯』(2/1公開)も、原作はコミックだが、松坂桃李が主演したサスペンスというイメージが濃厚。「コミック実写化」は大きな売りになっていない。『羊の木』『不能犯』のように、人気コミック実写化というイメージを脱ぎ捨てることで、作品のアイデンティティーが保たれる姿は、ある意味でまっとうで清々しい。

そのほか、一見、いつもの少女コミック実写化パターンの印象もある『坂道のアポロン』(3/10公開)は、音楽をポイントにした青春映画として評判が上々。2018年は『曇天に笑う』『となりの怪物くん』『BLEACH』など破格の人気を誇るコミックの実写版が公開されるが、このあたりは「安定の作り」を目指しているはず。2〜3月に公開される、大胆なチャレンジを感じさせる作品群が、どれだけ観客の心をつかむか。今後のコミック実写化の動きに、何らかの新しい方向性を導く可能性に期待したい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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