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『ブレードランナー 2049』公開。ハリソン・フォードが当たり役に復帰する理由。究極の仕事人?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

ついに日本でも公開が始まった『ブレードランナー 2049』。主人公はライアン・ゴズリングが演じるブレードランナーの「K」だが、キャストで最も注目を集めるのは、やはり前作から35年ぶりに同じデッカード役を演じるハリソン・フォードだろう。

ハリソン・フォードが『ブレードランナー』の続編に出演するというのは、映画ファンにとっては、喜びとともに、ある意味でサプライズである。というのも彼は、前作『ブレードランナー』に長年、苦い思いを抱いていた事実があちこちで語り草になっているからだ。リドリー・スコット監督との結末をめぐる激しい争いや、共演者のショーン・ヤングとの不仲説、過酷なスケジュールでの追加撮影などいくつものトラブルで、その後、ハリソンは『ブレードランナー』について口を閉ざしてしまった。

さすがに時が解決したのか、今回の続編について「リドリーから電話がかかってきて驚いたけど、送られてきた短いドラフトを読んで、デッカードに強く共感できた」と出演を快諾した事実を、先日の来日記者会見で語っていた。しかし本心まではわからない。

3つの当たり役に復帰

ハリソン・フォードといえば、この『ブレードランナー』に限らず、『スター・ウォーズ』のハン・ソロ役にも2015年の『フォースの覚醒』で復帰した。そしてインディ・ジョーンズ役に至っては、製作が決まっているシリーズ次回作にも出演予定である。

それぞれの1作目から最新作までの時間経過を並べると……

ブレードランナー

1982年→2017年  35年

スター・ウォーズ

1977年→2015年  38年

インディ・ジョーンズ

1981年→2020年(公開予定)  39年

間もなくトム・クルーズの『トップガン』も33年ぶりに作られるが、このハリソンの当たり役への復帰率と、その時間の経過は驚異的ですらある。こうした役への復帰についても来日記者会見でハリソンはこう語っている。

「ひとつの役の、人生の違ったステージを体験できるのは、ひじょうに興味深い。(役者として)時間の流れを感じられる。もちろん多くの観客の期待に応える意味もあるしね」

Kと対峙するデッカード。30年もの間、彼は孤独な生活を送っていた。その理由とは?
Kと対峙するデッカード。30年もの間、彼は孤独な生活を送っていた。その理由とは?

あまりにまっとうな答えである。まっとうであり、本心でもあるだろう。しかしこうしたハリソンの当たり役への復帰の理由には、もうひとつ彼の特徴が影響していると思う。それは彼の、徹底したプロフェッショナリズムだ。言い換えれば、演じることを「仕事」と割り切っているのである。

出演作で好きなものは?

多くの俳優は、自分の仕事=演じることに情熱を注ぎ、やりがいを求めているはずだが、ハリソンの場合、その部分がひじょうに冷静だと感じられる。もともと「熱演するタイプ」というわけではない。『ブレードランナー』のような大作での会見で、もちろん彼が本音を口にすることはないが、以前に、ある小規模の作品(『ファイヤーウォール』)でインタビューしたとき、ハリソンはかなり本音トークをしてくれた。

「アクションをこなせるのは遺伝子的にラッキーなだけ。しかも私はアクションスターと呼ばれるのは心外だ。過去に私が出た映画で好きなもの? 特にないね

かなりクールで辛辣な受け答えであった。とくに機嫌が悪いというわけでもなく、本心から語っている印象だった。

大まかに言えば、俳優の仕事は好きだ。本当はこういうインタビューは好きではないが、私が宣伝しないといけない立場なのは理解しているから、受けている。だからインタビューで嘘をついたり、飾った答えをしたりもするよ。私生活については絶対に話したくないしね。TVに出たら、司会者と話せばいいという感覚だ。つまり、インタビューは『好きではない』というより、『難しい』という感じかな。同じ質問に同じ答えを何度も繰り返し、無意識状態になっていくんだよ」

スター俳優でこんな答えをする人は珍しいが、そこからはハリソンの仕事に対するスタンスが見てとれる。役作りなど演技についての答えは、たしかにつねに教科書のようだからだ。

スターの地位を築いたハン・ソロ役がスクリーンに登場したのは、ハリソンが35歳のとき。遅咲きである。俳優として大成する前は、大工の仕事をして手に職をつけていたことは有名で、そんな実直な生き方が、スターになっても「俳優=仕事」という意識を持ち続けさせたのかもしれない。その意識で、デッカード役も、ハン・ソロ役も、インディ・ジョーンズ役も、改めて冷静にひとつの「仕事」として引き受けているのではないか。あまりに自意識が高いスターであれば、どれかは断っていた可能性もある。

『ブレードランナー 2049』では、デッカードが人間なのか、レプリカント(人造人間)なのかというアイデンティティも、ひとつのミステリー要素になっている。前作からその疑問は続いていたが、これもハリソン・フォードという俳優の個性、つまりビッグスターであり、徹底した仕事人である事実と関係しているようで、ひじょうに興味深く感じてしまう。

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『ブレードランナー 2049』

全国公開中

配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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