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ハリウッド実写化『君の名は。』、脚本家、J・J・エイブラムスと作品の相性は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ヒットメーカー、J・J・エイブラムスの手さばきは、はたして…(写真:ロイター/アフロ)

『君の名は。』がハリウッドで実写化されるというニュースが流れ、脚本家に『メッセージ』のエリック・ハイセラーが指名された。

まさに、最適な人選ではないか。

『メッセージ』は、テッド・チャンのSF中編「あなたの人生の物語」の映画化だが、原作から映画の脚本への改編がじつに見事だった。突如として地球に現れたエイリアンとコミュニケーションをとろうとする言語学者の苦闘を描いたこの物語は、タイムパラドックスや哲学的なテーマも含み、傑作ながらも映像化は不可能と言われてきた。

エイリアンとのコンタクトのために、言語学や物理学の概念も深く関わる、やや複雑な「仮説」や「原理」が描かれた原作。作品の肝でもあるその部分を、映画では限りなくシンプル化。原理がわからなくてもかまわない展開に仕立てた。その一方で、原作では比較的前半にわかる、時間に関する重要なネタバレ要素を、映画版では、冒頭から謎めいたシーンを挿入し、じっくり解き明かす手法をとりつつ、そのネタバレを特大な感動につなげた。これも見事!

大事件が起こり、運命が大きく変わるが、それが現在・過去・未来と関わって、かつてないストーリーが出現する。時間が「円」のようにひとつになる感覚……。『メッセージ』と『君の名は。』は、意外にも共通点が多く、言葉で書くとやや複雑怪奇な展開を、映像表現として巧みに見せるチャレンジを、エリック・ハイセラーはまたしても任されることになった。

『メッセージ』で来日したドゥニ・ヴィルヌーヴ監督に聞いたところ、「最初は映画化が難しいと思っていたが、エリックの脚本を読んで『これなら行ける』と確信した。その後、2人で緻密な検討を繰り返した」と語っていた。『君の名は。』も実写に向けて、どのような改変を考えるのか、ひじょうに楽しみである。

一方で、プロデュースを担当するのは、J・J・エイブラムス。言わずと知れたヒットメーカーである。『スター・ウォーズ』や『スター・トレック』を再生させ、『ミッション:インポッシブル』シリーズをヒットさせる実績で、安心感は十分。ただし、この人、『スター・ウォーズ』も『スター・トレック』も大好きだと告白しながら、ティム・バートンやギレルモ・デル・トロのようなオタク志向で映画を作るタイプではない。悪く言えば「売れる作品を世に出すのがうまい」人でもある。

『君の名は。』で、もしJ・Jの意向が強くなれば、誰でも楽しみやすい作品に仕上がる可能性は高い。もちろん世界マーケットを考えれば、それはそれで正しいことだが、人気アニメやコミックの実写化で、メジャーな観客を意識するあまり、何度も失敗作を見せられてきた日本の観客にとっては、ぼんやりとした不安がよぎる。

多忙を極めるJ・Jが自ら監督することは、おそくないだろうが、監督の選択は慎重にやってもらい、できれば作品にあまり口出ししてほしくない気も……。

日本のアニメ/コミック作品のハリウッド実写化は、最近の『Death Note/デスノート』も評判は芳しくない。これまで成功例が少ないだけに、『君の名は。』がその常識を突き破ってほしいところだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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