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明らかになってきた『ブレードランナー 2049』の全貌

斉藤博昭映画ジャーナリスト

今年の秋、最大の話題作のひとつとなる『ブレードランナー 2049』は、リドリー・スコット製作総指揮、監督は『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴで、ハリソン・フォードもデッカード役で出演するなど、期待感が半端ではない。まだ完成作は披露されていないが、9月6日、日本のマスメディアに向けて25分間のフッテージが公開された。

予告編では伝わっていない、いくつかの印象的なシーンを紹介しておきたい。

注)ストーリーに関しては大きなネタバレの要素はありません。

舞台となる2049年のロサンゼルスは、気候変動によって海抜が上昇。海沿いに巨大な壁が建設されている。要するに、壁によって仕切られた世界だ。居住可能な都市部は、上部がガラスで覆われているようで、これは予告編でも一瞬映るが、上空から眺めると、真っ白な都市の上部は、蜂の巣のような細かいガラスで埋め尽くされている。目がくらむような不思議な感覚に陥り、たちまち「世界」に導かれるのだ。

ブレードランナーの「K」が探し当てたレプリカントのサパーは、小さな農場でプロテインを育てている。そのプロテインとは、カブトムシの幼虫のような形態で、うごめいている様子がおぞましい。

Kが運転するのはスピナーではなく、ランボルギーニ風のフューチャーカーで、上部からドローンのような飛行体が飛び出す機能もある。

荒廃した外の世界で捜査を続けるK
荒廃した外の世界で捜査を続けるK

新型レプリカントを開発しているウォレス社に、旧型レプリカントの髪の毛を持ち込み、DNAを調べてほしいと頼むK。DNAなどの情報を保管したルームは、大きな棚が何百と並んでおり、どこまでも棚が続く映像からは、またもやクラクラする感覚に襲われる。

前作『ブレードランナー』が2019年で、その後の2022年、アメリカ西海岸で大停電が起こり、国内の電子データはほとんどが消失してしまったという。大停電の前後で、社会の価値観も大きく変化したようだ。Kの持ち込んだ髪のDNAが大停電前のものだったことで、ウォレス社には不穏な空気が流れるのだった。

ウォレス社の新型レプリカントは、旧型以上に知性や感情が発達し、「セックス相手」という機能も追加できる。高価な価格を支払う顧客を抱えているのだ。その新型レプリカントが、地球外の植民地に送り込まれているのは、『ブレードランナー』と同じである。地球外の世界は9ヶ所、存在するという。

そして『ブレードランナー』から直接、引用される素材もある。

デッカードがレイチェルに対して行った心理テストの音声が、大停電前のデータなのに奇跡的に残っていた……ということで、やや聴きづらい状態で再現されるのだ。残されたこの音声が、デッカードの運命を左右するのだろうか?

『ブレードランナー』でも印象的だった3D広告は、さらに進化をとげている
『ブレードランナー』でも印象的だった3D広告は、さらに進化をとげている

その他には、遠隔地での攻撃をピンポイントで指令する、VRのような機能の付いたメガネなども登場するが、壁の外の荒廃した世界は大量のゴミが棄てられており、密かに犬と暮らすデッカードの生活ぶりなど、ディストピアの空気が濃厚。今作に期待している人には、十分すぎる映像が用意されていると感じた。

特筆すべきは音楽。

『ブレードランナー』でのヴァンゲリスの音楽が語り草になったように、今回も重要な役割を果たしそうで、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が『プリズナーズ』から組んでいる作曲家、ヨハン・ヨハンソンのスコアは、『メッセージ』と同じように不穏な予感を増幅させる重低音が効果的だ。(追記:その後、ヨハンソンが降板したニュースがあり、今回のフッテージの音楽がどこまで正式なのかは不明。しかし、あまりにぴったりだったので……)

完成版は2時間30分くらいになる予定だという。

35年もの時を経て、またもやSF映画の歴史を変えるエピックな作品が誕生するのか。『ブレードランナー 2049』の全貌は、10月3日、アメリカでのワールドプレミアで明らかになる。

デッカードを追うKを演じるのは『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリング
デッカードを追うKを演じるのは『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリング

『ブレードランナー 2049』

10月27日(金)、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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