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「破裏拳ポリマー」「鋼鉄ジーグ」「スーパー戦隊」。70年代ヒーローが国内外で映画再生ブーム

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『パワーレンジャー』LAでのプレミアより。本編のコスチュームとはかなり違います(写真:Shutterstock/アフロ)

3月にすでにアメリカほか各国で公開が始まった『パワーレンジャー』(日本は7月15日公開)。伝わってくる評価は意外に高かったので、先日、期待を胸に観たところ、これが期待以上に、よくできた映画だった! 5人の高校生が「選ばれし者」として超人的パワーを身につけ、コスチューム姿で戦う設定なのだが、まず5人への共感を高める青春物語としての展開が絶妙。ハリウッドアクション映画らしく、映像のスペクタクル感も物語にマッチし、まったく飽きさせない。そして「戦隊モノ」としての、いい意味でのB級テイストにも満ちている! そう、この『パワーレンジャー』、知っている人も多いと思うが、日本発「スーパー戦隊シリーズ」を基に、アメリカで製作、放映された「パワーレンジャー」が原案である。1993年に放映開始された「パワーレンジャー」は、アメリカの子供番組史上、最高の視聴率を記録(2〜11歳の視聴率が最高91%に!)。元をたどれば日本で生まれた作品だと知らないアメリカ人も多い。

この「スーパー戦隊」の起源は、1970年代にさかのぼる。1975年に放映された「ゴレンジャー」がブームを作ったが、「5人」というスタイルは今回の映画『パワーレンジャー』にも受け継がれており、70年代の原形を意識。そして、時を同じくして、日本、さらに海外で、70年代ヒーローが映画で復活し、これらも納得の仕上がりになっているのだ。

これまでも、たとえば「ガッチャマン」「デビルマン」など70年代ヒーローが時をおいて実写映画化された例はあったが、はっきり言って、どれも成功とまではいかなかった。しかし、今年は違う。

永井豪のアニメが、イタリア映画に!?

まず、復活したのが「鋼鉄ジーグ」。永井豪と安田達矢による1975〜76年放映のTVアニメを、なんとイタリア映画がフィーチャーしているのだ。5月20日に公開される『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』である。サイボーグの肉体に生まれ変わった主人公・司馬宙(シバヒロシ)が、古代日本を支配していた女王と戦い、合体というロボットものの魅力も満点だった『鋼鉄ジーグ』。このイタリア映画は、そのまま映画化したのではなく、アニメ「鋼鉄ジーグ」の熱狂的ファンの女性が登場。ある事件をきっけかに、超人的パワーを身につけた主人公に、鋼鉄ジーグを重ね合わせるという変化球型ストーリーだ。劇中には「鋼鉄ジーグ」の映像も登場し、感動的なオマージュになっている。パワーと葛藤し、受け止める主人公の性格にも、「鋼鉄ジーグ」の司馬宙が重ねられたりして、スピリットとして70年代日本のヒーロー像が引き継がれているのだ。

背景にも「鋼鉄ジーグ」の映像が
背景にも「鋼鉄ジーグ」の映像が

監督のガブリエーレ・マイネッティは現在、40歳だが、子供時代に「鋼鉄ジーグ」や「マジンガーZ」などをTVで観て夢中になっていたという。このあたり、メキシコのオタク監督、ギレルモ・デル・トロらとも共通。70年代日本のヒーローものは、意外なほど世界的に浸透し、それらを観て育った世代が映画監督として大成。かつてのヒーロー愛を自作に取り込んでいる。

70年代ヒーローの魅力を潔く現代へ!

そして日本で復活したのが『破裏拳ポリマー』である。こちらは5月13日に公開される。「科学忍者戦隊ガッチャマン」「タイムボカン」シリーズなどのタツノコプロの作品で、1974〜75年に放映されたアニメが原作。当時、大人気だったブルース・リーや千葉真一のカンフーをモチーフにしているのが特徴的だが、無敵ヒーローで、スーツによる変身が重要なキーとなる点は“王道”作品である。

決めゼリフは「この世に悪のある限り、正義の怒りが俺を呼ぶ!」
決めゼリフは「この世に悪のある限り、正義の怒りが俺を呼ぶ!」

前述の「鋼鉄ジーグ」と異なり、こちらは正統派の映画化。登場人物のセリフや特徴にも、70年代テイストをストレートに加味していたりして、オリジナルの「ポリマー」ファンに熱くアピール。主人公の決めゼリフなどは、現代のヒーロー映画を観慣れた人には違和感があるのでは……と思っていたら、意外にすんなり受け入れられる。作品全体に「潔さ」がみなぎっていて、変に現代風に変えたりとか、媚びていない姿勢がすばらしい。アクション場面にしても、主演・溝端淳平の運動神経の良さが最大限に発揮され、ウソくさくない映像になっている。「ポリマー」に興味のない観客をどこまで劇場に呼び込めるかは未知数だが、半信半疑の人が観に行ったら、確実に満足できるだろう。

「ジーグ」「ポリマー」とも、同時代の「ウルトラ」シリーズや「仮面ライダー」「ガッチャマン」のように、その後、現在に至るまでメジャーな人気や知名度を維持していたわけではない。リアルタイムでアニメを観ていても、「忘れてた!」という人も多いはず。しかし、超メジャーではないヒーローたちに改めて光が当たり、しっかりとした映画になったことは、作り手の熱すぎる愛も感じられ、じつに幸福な現象なのである。

『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』

5月20日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

配給:ザジフィルムズ

(c)2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A.- Rome, Italy. All rights Reserved.

『破裏拳ポリマー』  

5月13日(土)、全国ロードショー

配給:KADOKAWA

(c) 2017「破裏拳ポリマー」製作委員会

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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