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NG媒体へのインタビューも解禁。木村拓哉の本気度は『無限の住人』にどう表れたか

斉藤博昭映画ジャーナリスト

今から17年前の2000年、写真週刊誌「フライデー」が、結婚前の木村拓哉と工藤静香の種子島旅行と、そこでの木村の立ちション姿をスクープしたことで、発行元の講談社にジャニーズ事務所は激怒。SMAP(当時)のメンバーはもとより、ジャニーズの他のタレントも講談社の媒体から消えてしまった。SMAP以外は徐々に解禁されていったのだが、長期間、SMAPメンバーは講談社NGが続くことになる。映画を紹介する際にも、SMAPのメンバーが写っている場面写真すら使えず、たとえば香取慎吾が主演した『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』などは、なぜが共演のゴリの写真がメインで紹介されていたりも……。DVDのジャケットに写っていても掲載不可と、その徹底ぶりは尋常ではなかった。

その後、状況はゆるやかに改善されたものの、さすがに発端となった木村拓哉が、講談社の媒体に、ましてやインタビュー記事で出るチャンスは皆無だった。しかし昨年のSMAP解散時あたりから、講談社解禁の噂が出始め、今月ついに、女性誌FRaUで表紙およびインタビューの登場となったのである。公開が控える主演作『無限の住人』の原作コミックが講談社(「アフタヌーン」)であるというのが最大の理由かもしれないが、講談社の看板コミック誌である少年マガジンにも登場し、今後、「出禁」が解禁されるきっかけは作られた。

いずれにしても、木村拓哉が『無限の住人』に懸けた思いによるところが大きいのだろう。SMAP解散後の、初の主演映画でもあるわけで、今後の俳優人生を左右すると言っても過言ではないからだ。では、完成作に木村拓哉の「本気」はどれくらい表現されているか。それは執念とも呼べるレベルで伝わってきた。

木村が演じる万次(まんじ)は、謎の老婆によって不死身の肉体に変えられた侍。肉体への致命傷はもとより、腕が切断されても接着して回復する。しかも老化もしないという、「X-MEN」のウルヴァリンのようなパワーの持ち主だ。というわけで、かつて主演した『武士の一分』と同じ時代劇ながら、作品のノリは対照的。壮絶を極める運命なので、木村の演技やアクションにも極端な激しさが要求される。

冒頭以外は、片目がつぶれ、顔は傷だらけという状態。木村拓哉、本来の「顔」を拝める時間は少ない。しかしそれゆえに、この『無限の住人』は木村拓哉が主演であることを忘れる瞬間が何度もある。ここまで激しい形相をみせた作品は異例であり、その意味で、役への没入度は高い。しかし時折、これまで木村拓哉が披露してきた演技のパターンが垣間見えるシーンも多く。つまりこれは、彼の演技が大好きなファンと、その演技に興味はない観客の、双方を満足させる地点に達した作品になったのではないか。もちろん殺陣の鮮やかさは文句ナシで、主演としてのカリスマ性を完璧にまっとうしている。

ただし、作品自体の評価は分かれるかもしれない。

三池崇史監督作らしく、腕や足が切断されるなどバイオレンスが過激なのは、作品の「前提」として、アクションが激しいわりに全体の流れがどこかまったりと感じられる。そして、これも作品の性質だから仕方ないが、登場人物に感情移入しずらい。また、明らかにミスキャストと感じられる出演者もいる(そのおかげで木村の演技が際立つ効果もあるが)……などなど。

『無限の住人』の公開は4月28日で、その後、5月17日に開幕するカンヌ国際映画祭のアウト・オブ・コンペティションで上映されるので、息の長いヒットが期待される。

ちなみに過去の「木村拓哉主演」を銘打った映画の興行収入は以下のとおり。

武士の一分(06)41.1億円

HERO(07)81.5億円

SPACE BATTLESHIP ヤマト(10)41億円

HERO(15)46.7億円

その他、出演映画は『シュート!』(94)、『君を忘れない』(95),『2046』(04)、『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(09)がある。

『HERO』の一作目が突出しているものの、意外なほど数字が一定である。『無限の住人』も40億円あたりを目指し、そこからどれくらい上乗せできるか。スタートダッシュとなる、ゴールデンウィークでの成績に期待がかかる。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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