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最新作はどうなってる!? 『ワイルド・スピード』の右肩上がりはさらに加速するか

斉藤博昭映画ジャーナリスト

映画のシリーズ作品は、基本的に回を重ねるごとに、ゆるやかに興行収入が落ちていく。「ハリー・ポッター」や「パイレーツ・オブ・カリビアン」など爆発的ブームを起こしたシリーズほど、その傾向は強い。

しかし近年、異例ともいえる右肩上がりのシリーズが存在する。「ワイルド・スピード」だ。間もなく、4月28日に日本でも最新の第8作が公開されるが、過去7作の成績の推移は、理想的な上昇カーブを描いている。

数字は、日本での興収、世界興収の順

ワイルド・スピード(00年)4.5億円2億ドル

ワイルド・スピードX2(03年)7億円2.3億ドル

ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT(06年)10億円1.5億ドル

ワイルド・スピード MAX(09年)9.5億円3.5億ドル

ワイルド・スピード MEGA MAX(11年)14.4億円6億ドル

ワイルド・スピード EURO MISSION13年)20.2億円6.8億ドル

ワイルド・スピード SKY MISSION(15年)35.4億円11.5億ドル

世界での興行収入の伸びはもちろんだが、日本での興収がここ数作、異例なレベルで伸びているのは驚くばかり。このように数字が“落ちない”シリーズは、「バイオハザード」などもあったが(日本での興収は順に、23→27→28.5→47→40.7→40〜。それぞれ単位は億円)、「ワイスピ」が右肩上がりなのには、いくつかの要因があり……

1)毎回、予想だにしないアクションを用意

2)徐々に豪華になっていくキャスト

3)都市部ではなく、地方での安定した人気

4)主演ポール・ウォーカーの急死による、7作目への注目

などが挙げられる。とくに重要なのが、理由(3)。配給会社によると、通常は大都市圏での数字が大ヒットを決めるハリウッド作品にあって、この「ワイスピ」は地方での数字が好調で、それによって全国的なヒットにつがっているという。クルマのアクション、そして回を追うごとに強くなっていくファミリーの絆は、日本津々浦々の若者から中高年まで幅広くアピールしているようだ。

この右肩上がりは、どこまで続くのだろう。数字的にそろそろ天井が見えているなか、第8作の登場だ。ポール・ウォーカーが演じたブライアンという重要人物を欠いたワイスピファミリーに、どんなドラマが待っているのか。全貌が明らかになった『ワイルド・スピード ICE BREAK』のポイントをまとめてみる。

裏切りのドラマ

シリーズをブライアンとともに牽引してきたドミニクが、ファミリーを裏切り、敵に加担してしまう展開が今回のメインストーリー。仕方ない理由とはいえ、ここ数作での「結束」が崩されるドラマは、シリーズファンの心を軽くざわめかせる。

物語はキューバ、ハバナでのストリートレースで幕開け。この後、舞台は世界各地へ
物語はキューバ、ハバナでのストリートレースで幕開け。この後、舞台は世界各地へ

またも未体験レベルのアクション

前述の理由(1)のとおり、ワイスピ最大の持ち味は、今回も予想以上のレベルで観る者を呆然とさせる。タイトルからわかるとおり、氷の大地でのカーチェイスは、ありえない距離、ありえないスピード(氷上だからさらに加速!?)、そしてありえない相手(潜水艦とか魚雷とか!!)の相乗効果、さらに別の場所でのバトル(こちらも笑えるほどありえない!)が絡み合って、アドレナリン上昇値はシリーズ最高となるはず。他にも、ニューヨークで数百台のクルマが遠隔操作される「ゾンビ・カー」アクションや、そこだけでアクション映画が1本完結しそうなドウェイン・ジョンソンvs.ジェイソン・ステイサムの刑務所での肉弾戦も用意。もちろんワイスピらしいストリートレースも冒頭からド派手に展開され、シリーズの「精神」はしっかり受け継がれている。

悪役が味方になる快感

ジェイソン・ステイサムは儲け役。彼のファンなら鳥肌モノの活躍をみせます
ジェイソン・ステイサムは儲け役。彼のファンなら鳥肌モノの活躍をみせます

これまでも、対決する立場にいたドウェイン・ジョンソンが最終的に仲間に入ったりと、敵をも吸収したワイスピファミリーの拡張力。シリーズ最悪の敵ともいえる、ジェイソン・ステイサムのデッカードとの攻防→手を組むしかない選択の流れは、大物女優が短い出演ながら重要な役割を果たしたりして、快感的展開。

なんかもう、人類の救世主に!

今回は、シャーリーズ・セロンが演じるサイバーテロリストが、世界全体を危機に陥れる犯罪を進行。ワイスピファミリーはそれを阻止するわけで、もはや地球規模ヒーロー軍団の役割に化している。『アベンジャーズ』かよ、ってくらい。もともと犯罪者だった集団のヒロイズムは文句なく爽快なのである。

そしてラストには感動が……

ありえない豪快&痛快さで突っ走るが、思わぬ場面で感動も待っている。ワイスピファンなら、ある程度、予想できるかもしれないが、大げさではなく、さり気なく胸を締めつけられることだろう。

というわけで、「ポール・ウォーカーもいなくなり、8作目なので、そこそこの仕上がりだろう」と思っていた筆者の予想を、軽々と超えるサービス精神だったのは事実。

日本公開はゴールデンウィークなので盛り上がるだろうが、前週には『美女と野獣』というメガヒット確実の作品が、そして同じ週には木村拓哉主演の『無限の住人』が公開される。強力なライバルが多いなか、前作の35億円をめざして、ワイスピが間もなく発進する。

画像

『ワイルド・スピード ICE BREAK』

4月28日(金)、全国ロードショー

配給/東宝東和

(c) 2016 UNIVERSAL STUDIOS

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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