執念は花開く。「マッドマックス」の劇的な復活に涙しない者はいない…
30年ーー。
人の一生を考えると、それはとてつもなく長い時間だ。『マッドマックス』が30年ぶりに復活した。監督は、シリーズ前3作と同じ、ジョージ・ミラー。現在、70歳の彼は、30年前の第3作から30年間、シリーズの新作を、ほぼ「執念」と呼べる感情を胸に、世に送り出そうとしてきた。そして2015年の今、その執念がついに実を結んだわけで、映画ファンなら、それだけで感涙モノなのだが、30年ぶりの新作は、シリーズファンの予想も軽々と超える、豪快で強靭なアクション大作に仕上がっていた!
自作の復活にこだわる巨匠たち
大ヒットしたシリーズを、長いブランクを経て、同じ監督が自ら復活させたケースはこれまでにもあった。たとえばーー
ジョージ・ルーカス
1983年の『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』から、16年ぶりとなる1999年に『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』を完成
スティーヴン・スピルバーグ
1989年の『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』から、19年ぶりとなる2008年に『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』を完成
などが代表例として挙げられる。この両巨匠の場合も相当に長いブランクだが、それに比べても『マッドマックス』の30年は、とてつもない長さだ。しかし本来は、もっと早くシリーズ最新作が完成されていたはずだった。本作の製作過程におけるトラブルの連鎖は、映画ファンの間でも有名であり、その状況をジョージ・ミラー監督に改めてインタビューで尋ね、整理してもらうと……
製作に着手しようとしてから、14年もの歳月がかかって完成したことがわかる。
とはいえ、これだけの長いブランクは、観客に期待と不安の両方を抱かせる。先のルーカスやスピルバーグの場合も、シリーズ復活作には賛否の反応があったからだ。作り手の思い込みが強すぎて、空回りしていたら…。多くの『マッドマックス』ファンには、その思いがあったはず。実際、30年前の第3作ですでに、否定的感想が大半を占めていたのだから。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のすばらしい予告編が上がった時点でも、むしろ予告編の出来の良さが、「期待しすぎは禁物」という軽い不安感を増長させた。
しかし、ファンの心配は杞憂に終わったーー。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、映画が始まった瞬間、その「世界」に引き込む奇跡の魔力をもった作品だった。
アクション映画の神髄を求めて…
文明が崩壊した近未来の地球で、邪悪な権力者から自由を求めて逃れる主人公たち。はっきり言って、物語はこれだけである。ここまでシンプルな物語を、堂々と提供してくれるアクション大作は、ここ数年、存在しなかったのでは?
余計なドラマに集中しなくていいので、権力者イモータン・ジョーの魔窟が登場する冒頭から、瞬時に異世界にトリップするわれわれ観客は、その後に展開される怒濤のチェイスアクションに、ひたすら身を任せればいい。あえて詳細な描写は書かないが、まるでサーカスとロックコンサートを融合させたような、一瞬のまばたきももったいない、めくるめく体験を味わうことだろう。
CGアクションに対する反抗心も本作の気骨。実写で撮影されたタンクローリーの横転や、俳優たちの肉体の躍動に、アクション映画ファンは「こんな作品を待ち望んでいた」と心から実感できる。
全身で、本能で、映画を受け止める。
これこそ、映画本来の魅力だーー。
30年ーー。
その間、ジョージ・ミラーは実写版以外に、『マッドマックス』のアニメ化の企画も進めていたと明かす。
ひとつの作品への、長い、長い、執念の旅路は、今ここに奇跡を起こしたのだ。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
配給/ワーナー・ブラザース映画
6月20日(土)、新宿ピカデリー・丸の内ピカデリー他2D/3D & IMAX3D、公開
(c) 2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED