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“邦高洋低”の打破をめざす、この夏の注目映画とは?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『マン・オブ・スティール』8月30日、全国ロードショー

映画好きの人ならご承知のとおり、ここ数年、邦画が元気だ。作品の質が劇的に上がったかどうかという問題はまた別として、2008年から昨年まで5年連続で、邦画全体の興行収入(以下、興収)が洋画全体を上回っている。その“邦高洋低”の状況がとくに顕著だったのが昨年で、興収全体の65.7%を邦画が占めるという圧倒的な勝利を収めた。約2/3というのは、驚異的な数字! テレビドラマと連動した作品の成功や、若者の字幕離れ(=洋画離れ)、洋画におけるスター不足、シネコンの普及による気楽に観られる作品の人気など、その原因はいくつも挙げられるが、では2013年もこの傾向はさらに加速するのか? どうやら、そう単純ではなさそうだ。

邦画の中心は宮崎駿、5年ぶりの新作

2012年の邦画大勝の要因のひとつは、夏映画2作の大ヒットで、「海猿」と「踊る大捜査線」の最新作が、それぞれ73.3億円、59.7億円を稼ぎ出した。人気シリーズなのでこの数字は物足りないくらいでもあるのだが、他の作品に比べ、飛び抜けた数字なのは間違いない。では2013年、夏の邦画は、何がメガヒットを確実視されているかというと、爆発的なパワーをもった作品が存在しないのである。「海猿」「踊る」と同じ、フジテレビ×東宝のパターンで、福山雅治の「ガリレオ」シリーズ最新作『真夏の方程式』(6月29日公開)があるが、「海猿」や「踊る」ほどの爆発力は望めない。原作が人気の『少年H』(8月10日公開)も若い層に広くアピールするのは難しそうだし、『ガッチャマン』(8月24日公開)も過去の同種の作品を考えると特大ヒットに至るかどうかは予想がつかない。

当初、2013年の夏は、スタジオジブリの作品が2本同時に公開されることが話題だったが、結局、宮崎駿監督作『風立ちぬ』(7月20日公開)の1本になり、邦画はこのアニメが中心の興行になるだろう。『風立ちぬ』も、宮崎駿5年ぶりの作品とはいえ、ファミリー映画というより大人のラブストーリーなので、興収は未知数だ。

夏のスタートダッシュはウィル・スミス!?

いっぽうで洋画は、年明けから『レ・ミゼラブル』『テッド』と、予想外の作品が興収を伸ばしている。配給会社には「うれしい誤算」だが、内容と宣伝方法によっては、まだまだ洋画ヒットのポテンシャルは無限だと言えることを証明した。例年ほど邦画の威力が大きくなさそうな今年の夏は、洋画にとって躍進のチャンスだろう。言い方を変えれば、観客の洋画離れを食い止めるために、今年の夏を逃したら、ますます洋画の立場は危うくなるかもしれない。その勢いをつけるための、試金石となりそうな作品は何だろうか。

『アフター・アース』
『アフター・アース』

まず、夏の初めに勢いをつけそうなのが、6月21日公開の『アフター・アース』だ。人類が地球を捨てた1000年後の未来を舞台にしたSFアドベンチャー超大作で、ハリウッドスターの中ではその主演作が日本でもコンスタントに数字を稼ぐウィル・スミス主演であるうえ、実の息子ジェイデンと共演するなど話題も豊富。ウィル親子+想像を超えた映像の組み合わせは、夏映画スタートダッシュの牽引役としてふさわしい。

続いての“中押し”は、7月6日公開の『モンスターズ・ユニバーシティ』と、8月2日公開の『ローン・レンジャー』。前者は、あの『モンスターズ・インク』の続編で、キャラクターの知名度からいって大ヒットは確実。前作の興収が95億円なので、ひょっとしたらこの夏の稼ぎ頭になる可能性もある。「ポケモン」「アンパンマン」といった邦画アニメとの激戦をどこまで勝ち残れるか楽しみだ。後者は、主演ジョニー・デップ、監督ゴア・ヴァービンスキー、製作ジェリー・ブラッカイマーという「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの黄金トリオ。ジョニーはジャック・スパロウも超える奇抜な容姿で登場する。ディズニーランドのアトラクションを原案にした「パイレーツ」に比べ、なじみのない題材とはいえ、『アリス・イン・ワンダーランド』も含め、ジョニーの過激キャラ=特大ヒットという神話の威力があれば、期待以上の数字も夢ではない。

スーパーマンはどこまで日本にアピールできるか

そして夏映画の“とどめ”として挙げたいのが、8月30日公開の『マン・オブ・スティール』。タイトルからはピンとこないが、あの「スーパーマン」を主人公にした新作だ。日本ではなかなか当たらないと言われてきた、アメコミヒーロー映画も、ここ数年、バットマンの「ダークナイト」3部作、ヒーロー集結の『アベンジャーズ』などで、その評価が一般観客にもじわじわ浸透してきた感がある。この新スーパーマンは、「ダークナイト」シリーズの監督、クリストファー・ノーランが製作を務め、キャストにも、スーパーマンの実の父親と地球での親を、それぞれラッセル・クロウ、ケヴィン・コスナーが演じるなど、一般にアピールするポイントは多い。スーパーマンというキャラクターが他のヒーローに比べ、いまだに日本でも知名度が高いという点は有利だし、一部完成した映像を観た人からは、すでに大傑作になるとの声も高まっている。あとは、日本の観客に向けて、どんな宣伝が展開されるかにかかってくるだろう。

“邦高洋低”の現状が今後、どう変わっていくのか。これらの注目作品の動向により、この夏の興行はひとつのターニングポイントになるのではないか。

『マン・オブ・スティール』(C)2012 Warner Bros. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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