教員の働き方 新制度に強い反発 8月は休めるか? データなき改革の行方を探る

(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 いま臨時国会において、公立校教員の働き方改革の一環として「一年単位の変形労働時間制」の導入が審議されている。ところが、働き方改革を目的とした新制度であるにもかかわらず、教員からは猛烈な反発が起きている。新制度の狙いは、どこにあるのか。なぜ、反発が起きているのか。

■新しい制度「一年単位の変形労働時間制」

一年間を繁忙期と閑散期に分ける

「一年単位の変形労働時間制」における繁忙期と閑散期(一般的な例) ※筆者が作図。図中の赤い直線は、定時のライン(この場合には、一日8時間×20日=160時間)で、月による平日の日数の差は無視している。
「一年単位の変形労働時間制」における繁忙期と閑散期(一般的な例) ※筆者が作図。図中の赤い直線は、定時のライン(この場合には、一日8時間×20日=160時間)で、月による平日の日数の差は無視している。

 2019年1月に文部科学省の中央教育審議会は、教員の働き方改革に関する答申を発表した。そこに明記された法制度面の変革が、「一年単位の変形労働時間制」の導入である。この新制度は、夏休みなどの長期休業期間を「閑散期」とみなして休日を増やし、その分を学期中の「繁忙期」に付け替えるという方法である。

 民間企業の場合には、労働基準法により残業代は時給換算で平日には1.25倍以上の割増となる。それを閑散期から繁忙期への労働時間の付け替えという、割増なしの定時の賃金でやりくりしようというのが「一年単位の変形労働時間制」の方法である。その意味では、基本的に使用者側に都合のよい制度である。

 公立校の教員には残業代こそ生じないものの、たしかに学期中に比べて授業のない長期休業期間は、相対的にゆとりがある。これまでの公立校教員の定時(休憩を除いて1日に7時間45分)の原則を廃して、繁忙期と閑散期を区別した上で一年間をとおして労働時間を調整しようとする新制度は、学校の働き方に適合的であるように見える。

教員は猛反発

 ところが、教員の間からは猛反発が起きている。

 現職教員の斉藤ひでみさんと教員過労死遺族の工藤祥子さんが9月16日に始めた、変形労働時間制の撤回を求めるネット署名は、開始後数日で2万筆を超えた。10月28日には3万筆を超える署名簿が文部科学事務次官に手渡された(10/28:NHK)。

 私自身も、中央教育審議会答申以降のこの1年、とりわけここ2ヶ月ほどは、各地の教員から新制度に対する怒りや不安を耳にしている。

なぜ、反発が起きるのか

文部科学省 ※「無料写真素材 写真AC」より
文部科学省 ※「無料写真素材 写真AC」より

 私が教員の声を聴き取ってきた範囲内で整理するならば、反発の最大の理由は、長時間労働の縮減への効果が期待できない点にある。

 上述したように、長時間労働が常態化している学校において、年間をとおして定時の時間を足し引きするだけの新制度は、長時間労働を解消することにはつながらない。実際に萩生田文部科学大臣も「これを導入すること自体が日々の教師の業務や勤務時間を縮減するものではありません」(9/24:文部科学大臣の定例記者会見)と述べている。

 一年単位の変形労働時間制は、働き方改革の目玉となるような大きな制度改変である。ところが、現在喫緊の課題とされている長時間労働の縮減に無関係となると、その期待はずれ感はとても大きい。

 しかも多忙な日々のなかで定時が延長されるというのは直感的に受け入れがたく、定時の延長は子育てや介護へのかかわりをも困難にさせかねない。さらには、本当に夏休み期間中に確実に休日をまとめ取りできるものなのか、不安は尽きない。

エビデンスなき制度改変

 後段で述べるように、文部科学省は上記のような不安や懸念に対しては、すでに相応の回答ならびに対策を提示してきた。ただ、その回答や対策の評価を含め新制度の是非を議論する前に、まずもって一年をとおした学校の働き方が実際にどのような状況にあるのかを確かめなければならない。教育現場の実態を踏まえてはじめて、新制度の是非が議論でき、適用する際の必要な条件を明らかにすることができる。

 今回の新制度導入について特筆すべきは、文科省は国として毎月の労働時間のデータを把握していないことである。エビデンス(科学的根拠)なき制度改変である。

 文科省が2016年に実施した勤務実態調査によれば、公立校教員の学校滞在時間(平均)は、小学校で11時間15分、中学校で11時間32分に達し、小学校で3割、中学校で6割の教員が過労死ライン(月に80時間の時間外労働)を超えて働いている。この全国調査の数値は各種報道で頻繁に言及されてきたものの、その調査時期は10月~11月に限定されている。それ以外の月の労働時間については、文科省はその実態を把握していない。

■8月は閑散期なのか?

都立高校教員の8月の労働「3時間から3時間半短い」?

東京都立高校の教員における毎月の在校時間 ※中教審の資料より転載。図中の赤い直線は、定時(この場合には、労働7時間45分+休憩45分=8時間30分)のラインで、筆者が追記したもの。
東京都立高校の教員における毎月の在校時間 ※中教審の資料より転載。図中の赤い直線は、定時(この場合には、労働7時間45分+休憩45分=8時間30分)のラインで、筆者が追記したもの。

 文科省はエビデンスを無視してきたわけではない。中央教育審議会においては、2018年10月に2つの自治体から毎月の労働時間や夏休みのまとめ取りに関するオリジナルな資料が提出され、そのうえで一年単位の変形労働時間制の導入可能性が示された。

 2つの自治体とは、東京都と岐阜県岐阜市である。

 東京都が提出した独自のエビデンスは、図のとおりである。都立高校の教員に関して、月別にみた平日1日あたりの在校時間(平均値)が、青色の折れ線で示されている。

 図は平日の在校時間をあらわしたものであり、土日の業務(部活動など)に要した時間、ならびに教職に特有の持ち帰り仕事の時間は含まれていない。隠れた労働時間が多くある。そのことは置いておくとして、都教育委員会の教育長である中井敬三氏は、一年をとおした教員の働き方を、次のように整理している。

 高校の教員、これは全般的な平均的な数字でございますが、1年を通して在校時間はどうなのかというものでございます。8月が明らかに学期中よりも3時間から3時間半短いという状況でございます。こういった数字からも、業務の実情が長期休業中と学期中では大幅に違うということでございます。この状態に即した形で1日の勤務時間を考えていく必要があるのではないかと、そのように考えているところでございます。

出典:2018年10月15日 学校における働き方改革特別部会 資料4

 図の上部に表が掲載されていて、8月のセルが黄色く示されている。在校時間は5時間56分であり、中井教育長が指摘するとおり、「8月が明らかに学期中よりも3時間から3時間半短い」。

 一見すると8月は閑散期であるかのように感じられるが、その見方は誤っている。

 小さい文字だが、表のすぐ下に、「年次有給休暇及び夏季休暇は、0時間として加算」という注記がある。つまり、夏休み中の平日に年休をとった場合には、「1日の在校時間は0時間」と計算されたのである。たとえば単純に、平日5日のうち2日間が年休で、残り3日間が1日に10時間在校のとき、年休を1日0時間として扱えば、30時間/5日=6時間/日ということになる。

 教員は、授業のある学期中に年休をとることは少なく、長期休暇中にとることが多い。その年休を「1日の在校時間は0時間」と計算して、一日あたりの労働時間が「学期中よりも3時間から3時間半短い」との結果が導かれた。教員はけっして、夏休み中に早くに帰宅しているわけではない。東京都の説明では、学校の実情がゆがんで受け取られてしまう。

各地における毎月の労働時間数

拙稿「残業時間数がわからない 教員の出退勤管理 押印や目視で」
拙稿「残業時間数がわからない 教員の出退勤管理 押印や目視で」

 東京都のデータは、閑散期の存在を示すものではない。教員が夏休みに年休を取得しているという事実を示しているにすぎない。この点は、後述する岐阜市のケースにも当てはまることである。

 それでは改めて、全国的に教員の労働には、閑散期なるものが存在するのだろうか。

 国には情報が集まっていないとしても、各地に何らかのデータが蓄積されている可能性がある。そこで私は個人的なネットワークを通じて、この一年ほどの間、全国各地の学校関係者に、月別の労働時間数(または時間外労働の時間数)を示す資料の有無について、問い合わせをおこなった。その結果、いくつかの地域・学校から、具体的な情報を得ることができた。

 以前に拙稿で示したとおり、そもそも小中学校では2016年度の時点で、出勤時の記録としてICTやタイムレコーダーなどの客観性の高い方法を用いているのは、2割程度にとどまっている。大半が「出勤簿への押印」と「報告や点呼、目視などにより管理職が確認」という客観性の乏しい方法である。

 つまり、一年をとおして出退勤の時刻が確実に把握されているケースが、まずもって稀である。毎月の労働実態をつかむこと自体が、きわめて困難である。

 ただしこの数年、働き方改革の声が高まるなか、いくつかの自治体等では、学校にタイムレコーダーが設置されたり、あるいは教員が個々にExcelに出退勤時刻を入力したりすることで、労働時間の管理がようやく本格化してきている。

各地で8月も残業あり

 いくつかの自治体や学校では、各月の労働時間のデータが蓄積されつつある。以下に示すのは、幸いにして一年をとおして各月の労働時間が把握されているケースである。

1) 石川県 公立校(小中高)

石川県の公立小中学校における月別の残業時間数[2018年度] ※筆者が作図。図中の赤い直線は定時のラインで、ラインの上はすべて残業時間である。以下、他の自治体も同じ。
石川県の公立小中学校における月別の残業時間数[2018年度] ※筆者が作図。図中の赤い直線は定時のラインで、ラインの上はすべて残業時間である。以下、他の自治体も同じ。

 私が調べた限りで、もっともデータが充実していた(かつ、公開されていた)のは、石川県である。

 石川県は、県のウェブサイトに3ヶ月おきに、小中高それぞれにおける各月の時間外労働時間数(平均値)などを発表している。そこで2018年度の数値をもとに、グラフを作成した。

 グラフからすぐにわかるように、小中高を問わず、毎月残業が生じている。もちろん8月も、残業時間が計測されている。とくに中高は目立って多く、8月に中学校では24時間、高校では28時間の残業が確認できる。

 閑散期というのは、この20~30時間程度の時間外労働を削減し、さらに定時内の業務量を減らして、ようやく実現可能となる。

2) 中国・四国地方 公立高校

A地域の公立高校における月別の残業時間数[2017年度]
A地域の公立高校における月別の残業時間数[2017年度]

 中国・四国地方のA地域からは、域内の各公立高校における毎月の残業時間数の情報を入手することができた。図は、2017年度における高校別の残業時間数をもとに算出した高校間の平均値である。

 元の高校別のデータを見る限り、学校間の格差が大きい。8月については、残業時間数が40時間を超える高校もあれば、数時間にとどまっている高校もある。

3) 名古屋市 公立中学校

名古屋市の公立中学校における月別の残業時間数[2016年度、新任教員]
名古屋市の公立中学校における月別の残業時間数[2016年度、新任教員]

 名古屋市では、2016年度における新任の中学校教員64名の残業時間が、中村茂喜氏と大橋基博氏の共著論文[注1]のなかで公開されている。

 8月も新任教員は残業をしている。そして、8月と12月と1月以外のすべての月において、残業時間は「過労死ライン」である月80時間以上を超えている(12月と1月も70時間超)。他の自治体にも当てはまることであるが、閑散期がないだけではなく、繁忙期もすでに異常な繁忙さである。

4) 東北・北海道地方 公立高校

B地域の公立高校における月別の残業時間数[2017~2018年]
B地域の公立高校における月別の残業時間数[2017~2018年]

 東北・北海道地方のB地域からは、公立高校における毎月の残業時間数の情報を入手することができた。多分に漏れず、8月にも残業が記録されており、その時間数は冬季よりも多い。

 他にも複数の地域や学校の関係者から、その月別の残業時間数について情報提供があった。いずれのデータも、8月には10~30時間の残業時間数が記録されている。つまり、年休取得の日以外で学校に出勤した際には、30分~90分程度は残業をしてから帰宅している。現状では、全国的に8月を閑散期とみなすことは難しい。

  • 注1:中村茂喜・大橋基博、2018、「教員の勤務実態記録から見えてくる部活動の影」『季刊教育法』No. 196、pp. 6-15. 論文で示されている数値をもとに、筆者がグラフを作成した。

■年休はどこへ?

岐阜市立小中 8月に16日間の閉庁日

学校閉庁期間中における教職員の休暇取得日数(岐阜市)
学校閉庁期間中における教職員の休暇取得日数(岐阜市)

 中央教育審議会において、一年単位の変形労働時間制導入のエビデンスとされたもう一つの自治体が、岐阜市である。

 岐阜市からは、夏休み中の16日間にわたる学校閉庁日の取り組みが提示された。教育長の早川三根夫氏によると、市は2018年度の8月4日(土)~8月19日(日)にかけて16日連続の学校閉庁期間を設けた。そこには、「平日の業務の縮小と併せて、年間を通じた勤務時間の縮減と年休の使用数の拡大を目指し、休みを取りやすい環境を作り、本市で勤務する教職員の仕事の新たな魅力として位置付けよう」という目的がある。

 一斉に強制的に休暇を取得させるわけではないものの、閉庁期間を設けることで、教員には学校を離れて休める状況が生み出される。16日間の学校閉庁期間から土日の分を除くと、平日は計10日間である。その平日10日間に、まったく学校に出勤しなかった者が49.5%を占めたという。一人あたりの休暇の取得日数(平均値)は、夏季休暇(4日間付与)が3.85日、年休が3.64日、土曜授業の振替休暇等が1.22日で、計8.71日となる。

 この取り組みは、教職員のうち92.4%が「支持」すると回答しており、年齢別ではとくに20代が97.2%と高かったという。そして早川教育長は「学期中の超過勤務時間分を、夏季に限らず休業中の期間などまとめて使用することができるよう、簡易に時数を割り振りすることができる仕組みを作り実施することは、本市の経験からすると魅力的です」と見解を述べている。

岐阜市の学校閉庁期間「変形労働時間制を導入しなくても」

学校における働き方改革の実現に向けたシンポジウム(主催:連合岐阜・教育連合GIFU、2018年12月開催)
学校における働き方改革の実現に向けたシンポジウム(主催:連合岐阜・教育連合GIFU、2018年12月開催)

 中央教育審議会での発言から2ヶ月を経た2018年12月のこと、早川教育長は岐阜市内で開催されたシンポジウムに参加していた。私自身、このシンポジウムに早川教育長とともに登壇しており、16日間にわたる学校閉庁期間の狙いなど、早川教育長のアイディア豊かな構想を直接に知ることができた。

 早川教育長は、学校閉庁の取り組みについて、次のような旨を発言した。

 変形労働時間制を導入しなくても、この期間の休暇はとれるということです。変形労働時間制を前提としてやったわけではありません。

 ただ、年休を使ってもらうのは心苦しいので、県に対して、1月から12月の暦年による扱いを、教員だけは9月から8月にしてほしいとお願いしてきました。年休の使用期間の最後が8月になれば、そこで使い切りができる。これができれば、『教員はむかしのように、夏休みは休める』というメッセージを世の中に発信できます。

出典:筆者による当日の記録をもとに文章に起こした

 学校閉庁には、必ずしも一年単位の変形労働時間制を要するわけではない。年休等の使い方を工夫するなかで、夏休みに実質的に休めるようにする。ここに早川教育長の力点がある。

 この点は複数の論者の見解とも重なってくる。弁護士の嶋崎量氏は、「現行法制度上も、夏休み期間中などにまとまった休暇として、勤務を割り振らない日を作ることは可能」であり、「変形労働時間制導入など不要」であると述べ、また教育研究家の妹尾昌俊氏も、「変形労働のようなややこしいことをしなくても、有給休暇の取得促進のほうが素直な施策」であり、「9月1日で切り替えるようにすると、余らせておく必要は小さくなるので、8月に有休を取りやすくなる」と指摘している。

年休を使いたくない場合

 一方で早川教育長は、一年単位の変形労働時間制を取り入れることで助かる教員もいるという、興味深い見解を提供している。

 今月12日、衆議院の文部科学委員会で参考人として招かれた早川教育長は、臨時的任用教員における年休日数の少なさに言及した。

 私が心苦しく思うのは、(学校閉庁期間に)年休を取得している先生が多いということです。近年とくに多く任用している臨時的任用職員、本市では約200人おりますが、任用期間によっては年休が不足する場合もあり、閉庁中の学校に勤務するか、教特法22条2項の勤務場所を離れた自主研修かの対応になります。77名が教特法を利用し、レポートを提出しました。もし変形労働時間制があれば、休むことができると思います[注2]。

※カッコ内は筆者が補足

出典:11/12:衆議院文部科学委員会

 臨時的任用教員は、その任用期間によって、年休の日数が決定される。自治体によって異なるものの、半年の任用で10日間、一年の任用で20日間が標準だ。年休の日数が少ない臨時的任用教員やあるいは年休を別の時期に使いたい教員にとっては、学校閉庁日に年休を充てることには抵抗を感じるだろう。学期中の時間外労働の分を夏休みにもってくるという方法は、理にかなっている。

  • 注2:教特法(正式には「教育公務員特例法」、いわゆる「給特法」とはまったく別の法律)の22条2項は、学校外での研修の機会を保障している。学校閉庁期間において、年休を使用することなく学校外での研修というかたちをとるもので、出校の必要はない。

年休は取得できているのか

年休の取得日数 ※「地方公共団体の勤務条件等に関する調査」の結果をもとに、筆者が作図
年休の取得日数 ※「地方公共団体の勤務条件等に関する調査」の結果をもとに、筆者が作図

 しかしながら、ここで気がかりなのは、大多数の教員はそもそも年休が取得できていないという現状である。

 2016年度の「教員勤務実態調査」によると、教員(校長や教頭などを含む)における年休の使用日数(平均値)は、一年間で小学校が11.6日、中学校が8.8日であった。同じく2016年度、「地方公共団体の勤務条件等に関する調査」によると、地方公務員における年休の使用日数は11.0日であった(参考までに、国家公務員は13.8日、民間は8.8日)。学校の教員がとりわけ多く年休を取得しているわけではなく、学校の教員を含め労働者にはいっそうの年休取得が求められているところである。

 この前提に立つならば、行政や管理職はまずもって、教員が年休をしっかりと消化できる機会を、十分に確保しなければならない。

 全体的な傾向で言えば、大多数の教員はかろうじて学校閉庁期間を含めた夏休み中に、年休を使うことができる。学期中は授業や学級経営に支障が出るからと年休が使いづらいだけに、夏休みというのは年休を消化できる絶好の機会である。だがそれでもなお、年休の消化率は低い。

 一年単位の変形労働時間制は、年休の日数が足りないような臨時的任用教員には、先述のとおり朗報になりうる。

 一方で、年休が消化できていないような大多数の教員には、悲報になりうる。なぜなら、学期中に定時を超えて働いた分は、夏休みの休日に変換される。その休日というのは、もとは学期中に働いていた分である。それが夏休みに流入してきたとき、これまでかろうじて夏休み中に取得できていた年休は、外に押しやられてしまう。これでは、いったいいつ、年休を消化することができるのだろうか。

■新制度導入には厳しい条件を

厚労省ガイドライン「恒常的な時間外労働がないことを前提とする」

厚生労働省 ※「無料写真素材 写真AC」より
厚生労働省 ※「無料写真素材 写真AC」より

 以上、中教審において一年単位の変形労働時間制の導入を後押しした東京都と岐阜市のデータについて、詳細に検討をおこなった。

 検討の結果を要約しよう。第一に、8月は年休を取得する機会ではあるものの、勤務日においては時間外労働が確実に発生しており、閑散期と表現するのは難しい。第二に、新制度に拠らずに年休等を利用して夏休みに休日をまとめ取りすることは可能であるものの、それによって年休が削られてしまう一方で、それでも年休が消化しきれない状況がある。このような状況下で、学期中の時間外労働の分が8月の休日に取って代わったとしても、今度はこれまでかろうじて確保してきた年休の使用機会が奪われていく。

 結局のところ総じて教員は、一年中ずっと多忙をきわめており、年休の取得もままならない。この状況がつづく限り、一年単位の変形労働時間制は多くの教員にとって何の効果ももたらさない制度改変となる。

 そもそも厚生労働省が定めた「一年単位の変形労働時間制についてのガイドライン」には、次のような条件が記してある。

第五 時間外労働

本変形労働時間制においては、あらかじめ業務の繁閑を見込んで、それに合わせて労働時間を配分するものであるので、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度であること。

出典:厚生労働省「一年単位の変形労働時間制についてのガイドライン」

 一年間にわたって恒常的に時間外労働が生じている職場では、もはや繁忙期/閑散期といった区分が成り立たない。教員においては、8月を含め年間をとおして年休を十分に取得できるようになり、その上で8月が十分にゆとりのある季節となったときにはじめて、一年単位の変形労働時間制導入の道が開ける。恒常的な時間外労働が解消されることは、新制度の最低限の条件である。

やれないなら、やらなくてよい

 一見すると、一年単位の変形労働時間制は無謀な制度改変のようにも感じられる。だが誤解を恐れずに言うならば、文科省の設計はとてもよくできている。なぜなら、中教審答申には「実際に学校現場に導入するに当たっては、長期休業期間中の業務量を一層縮減することが前提」と明記されており、また萩生田文部科学大臣も「導入はあくまで選択的なものであって、各地方公共団体において導入するか否かの判断を行うものであること、全ての教師に対して画一的に導入するのではなくて、例えば育児中や介護等をしている教師には適用しないこともできるようにする」(9/24:文部科学大臣の定例記者会見)と述べているからである。

 文科省は、各自治体においては条件が整わない限りは新制度を導入すべきではないし、定時の時間が延びると困るような教員には新制度を適用すべきではないと主張している。一言で表現すれば、「やれないなら、やらなくてよい」ということだ。

文科省の親切設計モデル

文科省による想定 ※筆者が作図。図中の赤い直線は、定時のライン(この場合には、一日7時間45分×20日=155時間)で、月による平日の日数の差は無視している。
文科省による想定 ※筆者が作図。図中の赤い直線は、定時のライン(この場合には、一日7時間45分×20日=155時間)で、月による平日の日数の差は無視している。

 しかも、文部科学省が提示する新制度の具体像は、比較的緩やかなものである。報道によると文部科学省は、学校行事などで繁忙な4、6、10、11月の計13週について、定時を一週間で3時間増やして(3時間×13週=39時間=約5日分)、その代わりに夏休み中に5日間休むことを想定している(10/18:時事通信)。

 対象となる13週に限っては、一週間で3時間の増加であるから、その週は平日一日あたりおおよそ36分ほど定時が延長される。劇的に定時の時間が延びてしまうというわけではない。これを「やれないなら、やらなくてよい」ということなのだから、ずいぶんと親切設計であるように見える。

 だが注意すべきは、その先である。

 つまり文科省は緩やかに設計したとしても、それが各自治体や各学校に降りていったときにどうなるのか。文科省のモデルは形骸化されて、強引なかたちで新制度が導入されるのではないか。私はこの点をとりわけ強調しておきたい。

 いま学校の実情は、新制度を安心して導入できるような条件からはほど遠い。恒常的に時間外労働が生じていて、閑散期はない。年休を取得できる余裕もない。

 そこでこの新制度が成立した場合、各自治体や各学校が文科省の想定を蔑ろにして、強引に夏休みを休日扱いとしかねない。極端に言えば、学期中に連日のように10時間労働を定時として強制し、その代わりに夏休み(さらには冬休みや春休み)を全面的に休日にすると宣言されかねない。そして実際のところは、その休日とされている期間に多くの教員が出校して仕事に励むという悪夢が待っている。

自治体や学校がどう反応するか

 同じようなことは、すでに起きている。

 2018年3月にスポーツ庁が運動部のガイドラインを、12月に文化庁が文化部のガイドラインを策定した。週あたり2日以上の休養日(少なくとも、平日1日以上、土日1日以上)に代表されるように、ガイドラインは過熱した部活動を抑制するためのものである。

 スポーツ庁や文化庁が策定したガイドラインは、子どもの安全・安心を最優先にした、すぐれた内容である。ところが、以前に拙稿で指摘したとおり、ガイドラインが各自治体や各学校に降りていく過程で、ガイドラインよりも緩い独自の方針を打ち出されたり、ガイドラインを無視して活動が継続されたりと、過熱が止まないケースが多々確認されている。国のほうで最善の方針を立てたとしても、そこに強制力がはたらかない限り、方針は有名無実化しかねない。

 一年単位の変形労働時間制について、いま文科省が提示しているモデルは、まさに部活動のガイドラインと同様に、たしかによくできている。だがそれが、そのまま現場に降りていくという保障はあるのか。保障されないのであれば、一年単位の変形労働時間制はけっして現場に導入されてはならない。文科省は各自治体に対してどの程度厳しく接していくのかが、問われている。

 なお各学校あるいは各教員においては、毎月の労働時間をしっかりと把握しておくことが不可欠だ。新制度がどのレベル(自治体なのか学校なのか)で導入されることになるのか、まだまだ不透明ではあるが、導入の可否をめぐる判断材料として、労働時間の記録を蓄積しておく必要がある。

国として削減できること

 そして最後に、文科省に伝えたいことがある。冒頭で述べたとおり、新制度に教員が反発している最大の理由は、長時間労働の縮減への効果が期待できないところにある。ぜひ文科省としては、自治体や学校に働き方改革をゆだねるだけではなく、国として直接的に削減できる業務は、いち早く削減してほしい。

 たとえば全国学力テストや教員免許更新制度は、どの自治体を訪れても教員からの評判は概して悪く、負担感はきわめて大きい。これは、文科省が国として直接的に関与できる課題である。

 文科省がみずから大胆に業務削減に取り組んでいけば、現場の恒常的な残業は減っていくことだろう。それこそが、一年単位の変形労働時間制を導入するための条件整備となるはずだ。