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部活ガイドライン 抜け道探る動き 「闇部活」の実態

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
画像はイメージ ※「無料写真素材 写真AC」より

 全国高校野球選手権岩手大会の決勝で、大船渡高校の佐々木朗希投手が監督の指示により登板しなかった件は、学校教育の一環である「部活動」のあり方に再考を迫るものである。スポーツ庁は生徒の心身の健康を守るために、2018年3月に運動部活動のガイドラインを策定し、部活動の適正化を求めている。ところが、適正化への抵抗は学校の内外を問わず根強く、さらには「闇部活」をはじめとするガイドライン破りも黙認されている。

■国のガイドラインよりもゆるく

 部活動の過熱が問題視されるなか、2018年3月にスポーツ庁が運動部のガイドラインを、12月に文化庁が文化部のガイドラインを策定した。

 注目すべきは活動量の規制である。いずれのガイドラインにも具体的には、週あたり2日以上の休養日(少なくとも、平日1日以上、土日1日以上)を設けること、また1日あたりの活動時間は、長くとも平日では2時間程度、土日は3時間程度とすることが明記された。

 ガイドラインは、自治体ならびに学校法人もそれぞれに方針を策定するよう求めている。スポーツ庁が2018年10月に実施した調査によると、主に高校を管轄する都道府県では、16都道府県(34.0%)が活動時間を、14都道府県(29.8%)が休養日を、国のガイドラインよりもゆるく設定していた(『毎日新聞』東京夕刊、2019年2月28日)[注1]。

■ガイドラインを無視

画像はイメージ ※「無料写真素材 写真AC」より
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 これまで部活動は、何度かそのあり方が問題視されつつも、過熱に歯止めがかかることはなかった。

 部活動は楽しい。だからこそ上限規制が必要なのであり、その一方で規制をゆるめようとしたり、規制から逃れようとしたりする動きが起きるのである。

 とりわけ規制対象の末端に位置する個々の学校や部活動においては、ガイドラインの影響力がほとんど及ばないこともある。そもそもガイドラインには法的な拘束力はなく、また違反した場合に何らかのペナルティが科されるわけでもない。したがって、国や自治体がいかなるガイドラインや方針を示そうとも、個々の学校や部活動がそれに従うとは限らない。

 一部とはいえ半ば公然と、休養日なく練習をつづける部活動がある。

 「ガイドラインに従っていては勝てなくなる」「周りの学校はいつも練習している」「練習を休んだら、取り戻すのに時間がかかる」といった理由で、活動をつづける。また、管理職はそれを見て見ぬフリをする。自分の学校が部活動で名を上げることは、よろこばしいことでもあるからだ。

■規制逃れの実例

 さらに問題なのは、ガイドラインを守っているかのように見せる動きである。すなわち、規制の抜け道を探る方法である。

 私がこれまでに聴き取ってきたところでは、次のような規制逃れの実例がある。

ガイドライン破りの実例

(1) 闇部活

・早朝や土日の練習を自主的な活動とみなす

・保護者会等が活動を管理する(看板の掛け替え)

(2)「大会」の活用

・大会前の特例を利用する

・多くの大会に参加したり、大会を新たにつくったりする

(3) その他

・準備や後片付けは、活動時間外として取り扱う

・一年間で調整する

 広く普及している規制逃れの一つに、「闇部活」とでもよぶべき方法がある。すなわち、「部活動」という定義をはずしつつも、実質的に部活動の練習を継続する方法である。

 一つに、早朝や土日、お盆・お正月休み等における練習を、正式な「部活動」の取り組みとはみなさずに、「自主練」とみなす。本来であれば休養日にあたる日に練習を入れた場合も、「自主練」ということにする。

 「自主練」では、練習を希望する生徒だけが参加する。好き勝手に練習しているのだから、ガイドラインの規制対象からもはずれる。

 だが実際のところは、顧問も生徒もほぼ全員が参加していることが多い。生徒にしてみれば、試合に出場したければ、自主練だからといってもなかなか休めない。

 もう一つの「闇部活」として、活動の管理を学校外に移すという方法がある。いわば、単なる看板の掛け替えである。

 たとえば、平日の夜間や土日の活動は、学校の部活動ではなく、保護者やOBが主催する任意の活動とする。顧問が指導に関わることもあれば、ほとんど関わらないこともある。

 あるいは、学校教育ではなく社会教育(学校以外で行政が関わる教育活動)の管理下で活動するという抜け道もある。地域住民が学校施設等を借りてスポーツに取り組むのと同じように、顧問や保護者が一人の住民として学校施設等を借りて、練習をおこなう。

 自主練にしても看板の掛け替えにしても、実質的には普段の部活動の延長上に位置づく活動である。顧問は休むこともありうるが、生徒は休みなくいつもと変わらぬ部活動を、つづけていくことになる。「闇部活」はその意味で、とりわけ生徒側の負担が懸念される。なお「闇部活」の実態とその問題性については、後段で改めて、全国調査の分析結果をもとに明らかにしたい。

■「大会」という言い訳

画像はイメージ ※「無料写真素材 写真AC」より
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 部活動の大会を理由に、規制を逃れる方法もある。

 大会自体が土日に開催される場合は、その土日に休養日を確保することはできない。スポーツ庁のガイドラインにも「週末に大会参加等で活動した場合は、休養日を他の日に振り替える」と記されている。

 大会本番で土日が費やされるのはやむを得ないかもしれないが、大会の影響は、大会当日だけに限られない。大会前の練習にも、影響が及ぶ。

 すなわち個々の学校(さらには自治体)のレベルでは、「大会前は特別に練習を認める」「学校長の承認を得たうえで活動する」といったかたちで、ガイドラインに示された上限を超える活動が、特例として認められている。また、部活動が休みになるはずの定期試験前の期間でさえ、大会が迫っていれば練習が認められることもある。

 これに関連して、連日の練習時間を確保するために、あえて多くの大会に参加するという方法もある。こうすれば大会前の特例を用いて、練習をつづけることができる。

 悪質なケースでは、大会そのものを新たに創設するという方法もある。大規模な大会ではなく、部活動顧問の私的なネットワークを使って、練習試合に近い「大会」をつくってしまうのだ。こうしてガイドラインの規制を、巧妙に回避していく。

■準備時間は含まない

 その他にも、さまざまな抜け道がある。

 準備や後片付けの時間を、活動時間外として取り扱うケースもある。一日の活動時間から準備や後片付けのための時間を差し引くことで、一定の時間数の制約下で少しでも練習量を増やそうとする。

 また、月間や年間をとおして振替日のようなかたちで、一時的な練習量の多さを調整するという方法もとられている。

 じつは文化部ガイドラインが確定される前の「案」の段階では、「活動場所への移動時間等の勘案や、定期演奏会や発表会等に向けて集中的な練習が必要な場合は月間や年間単位で必要な休養日を確保することなども考えられる」ことが付記されていた。

 これを認めた場合、お盆・お正月休みや定期試験期間中など、部活動が実施されない時期に休養日を割り当てることで、通常期の休養日を少なくすることが可能になる。最終的にはガイドラインの確定版でこの注意書きは削除されたものの、こうした抜け道はガイドライン策定の検討段階においても顕在化していた。

■看板の掛け替えのリスク

画像はイメージ ※「無料写真素材 写真AC」より
画像はイメージ ※「無料写真素材 写真AC」より

 以上が、ガイドライン破りの実例である。それらのなかで、私がもっとも危惧するのは、「闇部活」の実態である。

 ガイドライン破りの実例のうち、(2)と(3)に示した方法は、すべて「部活動」の範囲内で、ガイドラインの抜け道を探ろうとするものである。大会前を理由に土日に練習する場合や、準備・後片付けを練習時間数にカウントしない場合などは、いずれも正式に「部活動」を実施するなかで、多くの活動時間数や日数を確保しようとしている。

 他方で、(1)に示した「闇部活」においては、実際の活動実態は「部活動」とは定義されえない。

 とりわけ、保護者会や社会教育を利用した看板の掛け替えによる練習は、実質的には部活動の延長であるにもかかわらず、制度的には学校教育とまったく関係のない活動としておこなわれる。

 社会教育への看板の掛け替えの場合には、かろうじて公的な制度のなかに位置づけられる。そうは言っても、制度的な支えはきわめて脆弱である。

■保護者会等による、制度的保障なき活動

 そして保護者会等の主催による看板の掛け替えの場合には、いっさい制度的な保障を欠いた活動となる。事故やトラブルが起きたときの対応や、運営費の管理などが、きわめて不安定な体制のなかでおこなわれることになる。

 2018年3月には、岐阜県多治見市立の中学校において保護者が運営するクラブで地元の監督が生徒に対する暴行の罪で略式起訴されるという事案が報じられている。校長側は、「任意の校外活動で学校は無関係」と、生徒の父親に説明したという(『中日新聞』朝刊、2018年3月7日)[注2]。

 そもそも部活動のガイドライン策定とは、これまで部活動がほとんど野放しの状態で過熱してきたため、そこに活動量の上限規制を含む制度の網をかけようとする試みである。その網の目をすり抜けようとするのが、看板の掛け替えによる活動である。制度が及ばないところでは、過熱が止まらないばかりか、さまざまなリスクが増大していくことになる。

■闇部活 運動部顧問7人に1人が看板の掛け替え

公立中学校の部活動における延長指導 ※筆者らによる調査結果をもとに作図
公立中学校の部活動における延長指導 ※筆者らによる調査結果をもとに作図

 私は共同研究として2017年11月~2018年1月にかけて、「中学校教職員の働き方に関する意識調査」と題する質問紙調査を、全国規模でおこなった[注3]。

 質問文には、国の調査ではなかなかたずねられないような事項をいくつか盛り込んでいる。その一つが、看板の掛け替えに関する質問である。

 「あなたは、社会体育や任意の組織で部活動の延長上の活動として指導を行っていますか。部活動の延長上の活動とは、部活動で指導している生徒と同じ生徒を対象とした活動を指します」という質問への回答を調べてみたところ、運動部顧問の14.1%、文化部顧問の4.7%が「行っている」との結果になった。

 上記調査の実施時期は国のガイドライン策定よりも前であるため、ガイドライン策定後の現時点の実態はわからないものの、重要なことは、看板の掛け替えは一部とはいえ、過熱に対する批判を回避するための手法として、従前から取り入れられているということである。とりわけ運動部では文化部よりも積極的に、社会体育(社会教育の一領域)や保護者会などに看板が掛け替えられている。

公立中学校の部活動における一年間の大会参加日数 ※筆者らによる調査結果をもとに作図
公立中学校の部活動における一年間の大会参加日数 ※筆者らによる調査結果をもとに作図

 さらに注目すべきは、過熱の程度である。部活動を延長して指導している顧問と、そうではない顧問とを比較してみると、たとえば一年間の大会(コンクールを含む)参加日数では、両者ともに5~14日が過半数を占めているが、次に多いのは、延長指導ありの顧問では15~24日(24.0%)、延長指導なしの顧問では0~4日(23.4%)である。

 総じて、延長指導ありのほうが、一年間の大会参加日数が多くなる。闇部活においては、制度的に学校から切り離された状況のもとで、大会参加とそのための練習が積極的にくり広げられている。

■「保護者との連携」の推奨

 闇部活の存在を考えるならば、「保護者との連携」には慎重な構えが要請される。

 これまで部活動改革における「保護者との連携」は、基本的に善なるものとしてとらえられてきた。運動部ならびに文化部のガイドラインにおいて保護者は、学校や地域住民とともに、生徒が教育やスポーツ文化活動等に親しめるよう、その機会の充実を支援する「パートナー」と表現されている。

 部活動の運営における保護者の肯定的な位置づけは、大多数の自治体の部活動方針にも引き継がれている。たとえば、愛知県の「部活動指導ガイドライン」(2018年9月)には、次のような記載が確認できる。

○ 学校は、部活動について保護者に積極的に情報を発信するとともに、指導方針や活動計画を保護者に知らせることで、学校と家庭が連携した部活動運営に努める。

○ 部活動によっては、児童生徒の保護者による「保護者会」等が活動している場合がある。保護者会等による部活動への応援、援助は部活動の充実に有用であり、部活動指導の効果が上がることも期待されるため、保護者会等との協力体制の確立に努める。

 保護者の協力によって、学校の部活動は充実する。それゆえ協力体制の確立が不可欠であるという主張である。

■「保護者との連携」の危うさ

山形県教育委員会が作成したリーフレット「生徒にとって望ましいスポーツ環境を目指して」(2019年3月)の一部
山形県教育委員会が作成したリーフレット「生徒にとって望ましいスポーツ環境を目指して」(2019年3月)の一部

 他方で、ごく一部の自治体に限られているものの、保護者会等の存在がガイドラインの抜け道となることを危惧する記述が確認できる。山形県の「山形県における運動部活動の在り方に関する方針【中学校編】」(2018年12月)には、下記のような危惧が表明されている。

○ 保護者会主催の練習会

保護者会が単独で練習会(クラブ活動)を主催することのないよう保護者の理解と協力を得る

○ 部活動と同様のクラブ等の活動

部活動の活動時間と併せて上記基準内(山形県の規制内)の活動とする ※括弧内は筆者

 山形県の方針でももちろん、保護者との連携の重要性は認識されている。だが同時に、保護者会やその他の組織が学校管理下外において闇部活の受け皿となり得ることが示されている。「保護者との連携」と言えば聞こえはよいものの、それが放課後や土日における生徒の活動をより不透明でよりリスクの高い方向へと誘うことにもなりかねない。

 部活動指導にたくさんの労力を割きたいと思っている教員は多い。また、そのような部活動運営を期待する保護者も多い。そうした思いは、ガイドラインによる上限規制を無効化しかねない。

 ガイドラインが策定されたからといって、安心することなかれ。闇に消え入りそうな部活動から、目を離してはならない。

  • 注1:中学校では65市区町村(3.8%)が活動時間を国よりも長く設定したり、また39市区町村(2.3%)が休養日を少なく設定したりしていた。なおスポーツ庁のガイドラインは、中学校の運動部活動を想定したものであるが、「高等学校段階の運動部活動についても本ガイドラインを原則として適用」することになっている。
  • 注2:記事によると、平日17時までが学校の部活動で、平日17時以降と土日が「ジュニアクラブ」という扱いである。「ジュニアクラブ」では、学校施設で地元の経験者らがボランティアで指導に携わっているという。
  • 注3:部活動指導を含む働き方について、中学校教職員の「意識」に主眼を置いたもので、全国計22都道府県の公立中学校を対象に、2017年11月~2018年1月にかけて実施した。調査対象となったのは計284の公立中学校で、うち221校(77.8%)から回答があった。教職員数でいうと計8,112名のうち、3,982名(49.1%)から回答があった。なお本記事の分析対象は、主幹教諭・教諭・常勤講師の計3,182名である。今回の分析は、本記事に合わせて実施しており、結果は初公表のものである。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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