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金総書記の「南北断絶」宣言で軍事衝突に向け針がまた動いた!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹錫悦大統領と金正恩総書記(大統領室と労働新聞から筆者キャプチャー)

 年が明けたので、日本では「明けましておめでとうございます」、朝鮮半島では「新年に福をたくさん受け取ってください」(新年にご多幸あれ)との挨拶で1年が始まるが、今年の朝鮮半島はどうやら「おめでたい年」にはなりそうにはない。福よりも禍が降りかかるのでないかと嫌な予感がしてならない。

 昨年の元旦は目が覚めたら、北朝鮮が午前3頃に平壌付近から短距離ミサイル1発を発射したとのニュースが流れていた。北朝鮮の長距離砲部隊が超大型放射砲1発を日本海に向けて発射したのだ。

 この1発を含めて、北朝鮮は昨年1年間で延べ37回に亘って約70発ミサイルを発射した。その中には昨年12月18日に発射された固形燃料用ミサイル「火星18」を含め3種類のICBM(5発)が含まれていた。

 今朝は幸いなことにミサイルが発射されたとの報道はまだない。その一点では、昨年よりも幸先が良いと言えるかもしれないが、どう転んでも今年は朝鮮半島にとって最悪の年になりそうな気がしてならない。

 韓国で政権が交代し、保守の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が発足した2021年、「戦争勃発に向けて時計の針が動いた」と感じていたが、その針がさらに進みそうな気がしてならない。というのも、大晦日に北朝鮮から凶報が届いたからだ。

 凶報の発信者は金正恩(キム・ジョンウン)総書記である。30日閉幕した労働党中央委員会総会で金総書記は北朝鮮の今年の闘争方針を打ち出していたが、それは、とても衝撃的で絶望的な内容だった。

 朝鮮半島の緊張緩和も平和も対立の当事者である南北及び米朝の対話なしでは不可能である。特に、国際社会が憂慮している北朝鮮のミサイルと核問題の解決は米朝交渉による和解が前提となるのは言うまでもない。

 その米国に対して金総書記は「朝鮮半島地域の情勢不安定を誘発させ、引き続き悪化させてきた米国は一年が暮れていくこの時刻も我が国に対する相異なる形態の軍事的威嚇を加えている」との認識を示したうえで「敵(米国)が何を企もうとそれを超越する超強硬対応で、いかなる選択をしてもそれを圧倒する強力な実力行使で制圧していく」と、強対強、正面勝負の対米・対敵闘争原則を貫くとし、今年も米国とは一切交渉せず、断交状態を続けていく意思を鮮明にしていた。

 今年末に米国で大統領選挙がある。米朝首脳会談を行った親交のあるトランプ前大統領がカムバックすれば、対米方針を変更し、交渉を再開するかもしれないが、バイデン現政権を相手にした交渉の可能性はほぼゼロである。

 一方、金総書記は韓国に対しては驚くほど辛辣で、強硬だった。北朝鮮が自ら進んで韓国とは対話することも、和解することも望んでないとのことだ。それも、これも韓国はもはや同族、同胞の国ではなく、敵対国、交戦国と位置付けたことによる。少し長くなるが、金総書記が韓国について触れた部分を整理して引用してみる。

 ▲不信と対決だけを繰り返してきた苦い南北関係史を冷徹に分析し、対南部門で根本的な方向転換をする。

 ▲10年でもなく、半世紀をはるかに超える長きにわたる歳月、我が党と共和国政府が打ち出した祖国統一の思想と路線、方針はいつも最も正当かつ合理的で、公明正大であるため、全民族の絶対的な支持、賛同と世界の共感を呼んだが、どれ一つもまともに実を結ばなかったし、北南関係は接触と中断、対話と対決の悪循環を繰り返してきた。

 ▲歴代南朝鮮(韓国)の為政者らが持ち出した「対北政策」「統一政策」で一脈相通ずる一つの共通点があるとすれば、我々の「政権崩壊」と「吸収統一」であったし、今まで傀儡政権が10余回も交代したが「自由民主主義体制下の統一」基調は少しも変わらず、そのまま繋がってきたということが、その明白な生きた証拠である。

 ▲我々の体制と政権を崩壊させるという傀儡の凶悪な野望は「民主」を標榜しても、「保守」の仮面をかぶっていても少しも異なるものがなかった。

 ▲長きにわたる北南関係を振り返りながらわが党が下した総体的な結論は、一つの民族、一つの国家、二つの体制に基づいた我々の祖国統一路線と克明に相反する「吸収統一」「体制統一」を国策と定めた大韓民国の連中とは、いつになっても統一が実現しないということである。

 ▲今のこの時刻にも、南朝鮮の連中はわが共和国と人民を復帰させるべき大韓民国の領土であり、国民であるとはばかることなく公言しており、実際に大韓民国憲法というものには「大韓民国の領土は朝鮮半島とその付属島嶼とする」と公然と明記されている。

 ▲現実は、我々をして北南関係と統一政策に対する立場を新しく定立すべき差し迫った要求を提起している。今や、現実を認めて南朝鮮の連中との関係をより明白にする必要がある。

 ▲我々を「主敵」と宣布して、外部勢力と結託して「政権崩壊」と「吸収統一」の機会だけを伺う一味を和解と統一の相手に見なすのはこれ以上、我々が犯してはならない錯誤と思う。我々が同族という修辞的表現のため、米国の植民地手先にすぎない怪異な一味と統一問題を論じるということが、我々の国の風格と地位に似合わない。

 ▲今、南朝鮮の政治は完全に失踪し、社会全般がヤンキー文化で混濁しており、国防と安保は米国に全的に依存する半身不随の奇形体、植民地属国にすぎない。

 ▲南北関係はこれ以上、同族関係、同質関係ではなく、「敵対的な関係」、戦争中にある交戦国関係に完全に固着された。これが、今日の北と南の関係を見せる現住所と言える。

 朝鮮半島の歴史は高句麗、新羅、百済の3国時代から国土の統一を目指してきた。金書記の祖父・金日成(キム・イルソン)主席が開放後、南の名高い独立運動家で知られる金九(キム・グ)大韓民国臨時政府首席を相手に会談したのも朝鮮半島で統一政府を樹立するためであり、北朝鮮が「祖国解放戦争」と呼んでいる朝鮮戦争もまた武力統一を目指したからである。

 さらに金主席が軍事クーデターで政権を握った朴正煕(パク・チョンヒ)政権を相手に1972年に「自主的、平和的に、大同団結して祖国を統一する」ことを盛り込んだ歴史的な南北共同声明を交わしたのも、悪名高い全斗煥(チョン・ドファン)大統領を相手に首脳会談をやるため韓国に特使を派遣したのも「南北統一」の一念からだった。

 祖父だけでなく、父の金正日(キム・ジョンイル)前総書記も2000年、2007年と2度に亘って金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノム・ヒョン)元大統領を相手に平壌で首脳会談を実現させたのも悲願である祖国の統一のためだった。

 金大中元大統領と交わした「6.15南北共同宣言」の第1項目には「南と北は国の統一問題をその主人である我が民族同士で互いに力を合わせ、自主的に解決していくこと」が記されており、盧武鉉元大統領と共に調印した「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」の第1条にも「『わが民族同士』の精神に従って、南北関係を相互尊重と信頼の関係へと転換させ、統一志向的に発展させていくための措置を積極的に講じる」ことが謳われていた。

 北朝鮮が「南北関係はこれ以上、同族関係、同質関係ではなく、敵対的な関係、交戦国関係」と定めたことは先代の「業績」を蔑ろにするだけでなく、南北全ての民の悲願を踏みにじる「愚行」との非難を浴びることになるだろう。

 個人も政権も短命だが、民族は永遠である。政権の座にある者は忍耐を持って、大局的な観点と先見の明を持ち、民を明るい未来に導かなければならない。政権の延命や一時的な感情の起伏で政策を施行するほど民にとって不幸なことはない。

 金総書記の「南北断絶宣言」の責任の一端は尹錫悦政権にもある。

 尹大統領が理由がどうであれ、就任以来、北朝鮮に対して挑発的で、好戦的な発言を繰り返してきたのは紛れもない事実である。

 「平和は対話ではももたらされない。平和を手にするためには圧倒的で優越な戦争準備をしなければならない」とか「敵対的反国家勢力との協力は不可能だ」とか「70年間全体主義の体制と抑圧統治をしてきた北朝鮮は最策の貧困と窮乏から抜け出せないでいる」などその種の発言は枚挙にいとまがない。

 また、ミサイル発射への対抗措置、「自衛措置」とはいえ、大規模の米韓合同軍事演習を含め80回も軍事演習を実施したのはどうみてもやり過ぎである。

 北朝鮮は建国以来、政権は3代変わっても、本質的には何一つ変わっていない。そうした国であることを前提に対応しなければならないのに保守層の支持を取り付けるため北朝鮮に対抗意識を丸出しにしてきた感が正直否めない。

 相性の悪い、好戦的な指導者を担いだらどうなるのか?南北の民がそのツケを負わないことを今年はひたすら願わずにはいられない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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