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「アジアの強豪」は昔の話!北朝鮮サッカー代表 日本戦を待たずに予選落ちの危機!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
国内のサッカー試合を観戦し、選手らを激励する金正恩総書記(朝鮮中央テレビから)

 昨日から2026年に米国、カナダ、メキシコで開催されるサッカー・ワールドカップ(W杯)アジア2次予選が一斉に始まった。

 グループBの日本はホームで初戦の相手であるミャンマーに5-0で大勝した。FIFAランク18位の日本と158位のミャンマーとの実力の差は歴然としていた。

 C組の韓国もホームでシンガポールを相手にこれまた5-0と、完勝した。FIFAランク24位の韓国にとって155位のシンガポールは格下で、勝って当然だった。

 日韓共に楽勝したのに対して日本と同組に入った北朝鮮はシリアに0-1で惜敗した。

 FIFAランクではシリアが92位で、北朝鮮が115位。これまた順当な結果と言えなくもないが、どうやら先の中国・杭州で行われたアジア大会での日本との準々決勝と同様にGKがPKを取られ、負けたようだ。

 北朝鮮とシリアの初戦は北朝鮮も本来ならばホーム試合だった。しかし、北朝鮮が新型コロナウイルスの感染対策として閉鎖した国境をまだ完全に開放していないこともあって第3国のサウジアラビアでやらざるを得なかった。

 何かと有利なホームでの試合を返上し、国交もなく、大使館もない中東のサウジアラビアでの開催は北朝鮮にとってハンディーとなったのは言うまでもないが、北朝鮮が勝ち点を取りに行ったことはこの試合に3年前までイタリア一部リーグ「セリアA」の名門、ユヴェントスで活躍していた「人民ロナルド」のニックネームを持つ韓光成(ハン・グァンソン)選手がフォワードで出場していたことからも窺い知ることができる。

 韓選手は2020年にイタリアからカタールのチームに移籍したが、北朝鮮労働者の送還を求めた国連安保理の制裁措置で退団を余儀なくされ、2020年8月の試合を最後にピッチに姿を現すことはなかった。韓選手は北朝鮮が国境を封鎖し、外国からの入国を受け入れなかったため帰国できず、イタリアに長期滞在していたが、今年8月に中国経由で帰国していた。

 それにしても今の北朝鮮にロンドンW杯(1966年)に初出場し、優勝候補のイタリアを破り、ベスト8に進出し、「アジアの強豪」とか「東洋の真珠」と呼ばれていた頃の面影は微塵も感じられない。北朝鮮は2010年に南アフリカで開催されたW杯に44年ぶりに出場して以来、W杯にも五輪にも出場を果たしていない。すべて予選落ちしている。

 ロンドンW杯でその名を轟かせた当時の北朝鮮のサッカーは「攻撃こそが最大の防御」を看板にしていた。しかし、今では兎にも角にも点が取れないのである。

 例えば、南アW杯大会ではブラジル、ポルトガル、コートジボワールを相手に3試合戦って、得点は初戦のブラジル戦での1点だけだった。

 翌年(2011年)1月にカタールで行われたアジアカップではイラン、イラク、UAEを相手に1点も取れず、2敗1分と無残な結果に終わっていた。ちなみに8月にコロンビアで行われたU-20W杯ではFグループで初戦の英国に0-0、第2戦のメキシコに0-3、最終戦のアルゼンチンに0-3とこれまた1点も取れず3連敗で最下位に終わっていた。

 また、2014年のブラジルW杯のアジア3次予選では日本、ウズベキスタン、タジキスタンと共にC組に入ったが、日本が8-0と楽勝したタジキスタンには辛くも1-0で勝ったものの、日本とのアウェーの試合を0-1で落としたのに続き、ウズベキスタンとのホームでの試合を0-1で失い、W杯出場の夢を絶たれていた。

 さらに、2018年のロシアW杯でも第3次予選で格下のフィリピンに2-3で逆転負けを喫し、最終予選進出を逃し、2022年カタールW杯の第2次予選は韓国、トルクメニスタン、レバノン、スリランカと同組となり、3位に付けていたが、新型コロナウイルス感染症を理由に途中棄権している。

 オリンピックは2012年ロンドン五輪第2次予選で格下のUAEを相手に0ー1で惜敗し、五輪最終予選への進出を逃したことも含めて1992年から2016年まで7回連続で予選落ちしている。

 点が取れないのは選手の技量が問題なのか、それとも、練習法や作戦、戦術面に問題があるのか、専門家ではないのでよくわからないが、北朝鮮サッカー協会は2016年に一度だけ外国から監督を招いたことがある。ノルウェーの代表として活躍していたヨルン・アンデルセン監督で、2018年3月まで北朝鮮のナショナルチームの監督を務めていた。韓国が2002年の日韓ワールドカップにオランダからヒディンク監督を招いた結果、4強進出を果たしたことに刺激を受けたのかもしれない。それでも、変貌を遂げることはなかった。

 サッカーは北朝鮮の国技である。生前、金正日(キム・ジョンイル)前総書記は「サッカーで世界を制しろ」と口癖のように言っていた。この言葉はスローガンとして合宿所の正面に掲げられている。

 後継者の金正恩(キム・ジョンウン)総書記も2018年3月にスポーツ選手らに伝達した「綱領的指針」の中で「体育事業で革命的転換を起こして数年内に我が国を尊厳高いスポーツ強国の地位に上げることが我が党の決心であり、私の確固とした意志でもある」と語っていた。金総書記がサッカーに力を入れていることは後継者となった翌年の2013年5月には「平壌国際サッカー学校」を設立したことが物語っている。

(参考資料:北朝鮮選手は「スポーツ強国建設」前哨戦の「戦士」「突撃隊」! ラフプレーの原因は「体育綱領」にあり!)

 北朝鮮は同じ組に入った日本と来年3月21日には東京で、26日には平壌で対戦するが、今月21日のミャンマーでの試合を落とすようなことになれば、日本戦を待たず、予選脱落ということになりかねない。

(参考資料:日本に敗れた北朝鮮の男女サッカー監督は好対照! 女子監督は日本をリスペクト)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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