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北朝鮮が大使館を相次いで閉鎖する4つの理由

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮の駐スペイン大使館(出展:韓国「時事週刊」)

 北朝鮮がウガンダ、アンゴラに続き、スペイン駐在の大使館も閉鎖したようだ。

 香港の総領事館まで閉鎖すると伝えられているが、台湾をみればわかるが、外交は発展、拡大させるもので、特に北朝鮮のように「国際的に孤立している」国にとっては縮小は決して望ましいことではない。それだけによほどの事情があるのであろう。

 北朝鮮の大使館撤収が最初に伝えられたのがウガンダで、北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」が10月30日に「ウガンダ駐在のジョン・ドンハク大使が10月23日にムセベニ大統領を表敬訪問し、公館の閉鎖を通知した」と報じたことで判明した。

 北朝鮮がウガンダと国交を結んだのは60年前の1963年。この時は僅か1か月で断交していた。原因は不明だが、アミン独裁政権下の1972年7月に国交を回復させ、この年の12月に北朝鮮は首都・カンパラに大使館を設置させていた。

 北朝鮮の大使館閉鎖についてはウガンダのメディア「インディペンデント」も10月24日付で「北朝鮮大使がムセベニ大統領を表敬した席で撤収を伝えた」と報じ、追認していた。

 アンゴラからの撤収はそれから1週間後のことで、同じく「朝鮮中央通信」が10月30日に「アンゴラ駐在のチョ・ビョンチョル大使が10月27日にロウレンソ大統領を表敬訪問し、公館の閉鎖を通知した」と伝えていた。

 北朝鮮はアンゴラとは1975年に外交関係を結んでおり、アンゴラの大統領が1981年と87年、89年に平壌を訪問するほど親密な関係を維持してきた。アンゴラ国内の政変により1998年に一度、公館を閉鎖したことがあったが、2013年に再開していた。今回で二度目の閉鎖ということになる。

 北朝鮮の大使がウガンダの大統領に「外部機関の効率性を高めるためアフリカに駐在する大使館の数を減らす戦略を取っている」と説明していたことから大使館の閉鎖はアフリカに限定されたものと思われていた。ところが、欧州でも同様の動きがあることを知り、正直驚いた。それも、スペイン駐在の大使館の閉鎖である。

 スペイン人民共産党(PCPE)がウェブサイトで「在スペイン北朝鮮大使館のソ・ユンソク代理大使が10月26日に外交使節団の撤収を伝えた」ことを明らかにしたのである。PCPEは伝統的に朝鮮労働党とは友党関係にある。

 北朝鮮はスペインと2001年に国交を樹立し、2013年にマドリードに大使館を設置し、金革哲(キム・ヒョッチョル)大使が着任していた。ところが、僅か4年で北朝鮮の核実験や弾道ミサイル実験などを理由に「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として国外退去されている。それ以後、北朝鮮は大使を置いていない。ちなみに奇遇にも2年後の2019年2月、金革哲大使は米朝首脳会談の実務者に登用され、ハノイに現れていた。

 北朝鮮は大使館を閉鎖しても、今後も外交関係を維持していく立場を明らかにし、ウガンダ大使は西アフリカの赤道ギニアに駐在する北朝鮮大使が、スペイン大使はイタリア駐在の大使が兼務することにしている。

 何よりも気になるのは、北朝鮮が大使館を整理する理由である。

 一つに何よりも、財政難で大使館の維持が困難になったことだ。

 北朝鮮大使館の運営費は基本的には現地調達である。武器の売却や派遣される医師、看護師ら医療従事者や建設関連労働者らの上がり、さらには記念碑などモニュメント建造の請負で大使館維持費を賄ってきたが、国連安保理の制裁でそうした外貨獲得ビジネスが行き詰ってしまった。

 例えば、国連の安保理制裁により2017年にウガンダとアンゴラから建設契約を解除され、労働者も帰国を命じられていた。軍事顧問団も両国から撤収し、ウガンダではシリアなど中東に供給するための武器製造工場も摘発され、閉鎖されてしまった。

 次に、韓国との外交戦が無意味になったことだ。

 韓国との外交戦の必要上、北朝鮮は国連での一票欲しさに国交承認国を増やしていたが、2006年10月から2018年1月までの10回にわたる国連安保理の制裁で第3世界の多くの友好国が北朝鮮と距離を置き始めてしまった。北朝鮮と国交を結んでいる国は159カ国に上るが、北朝鮮の外交政策を支持している国は今では中国とロシア、それにキューバ、シリア、イラン、ベネズエラ、ラオス、ベトナムなど10か国にも満たない。

 三つ目の理由は、国連の制裁締め付けで大使館の本来の業務である外交、商業、文化を含め人的交流ができなくなったことだ。

 実際に北朝鮮はこのことをスペイン大使館の閉鎖理由に挙げていた。それどころか、スペインではハノイで2度目の米朝首脳会談が行われた年の2019年2月に「自由朝鮮」と名乗る襲撃グループが銃やナイフなどで武装し、治外法権の大使館に押し入り、大使館員らを縛り上げ、監禁し、コンピューターや携帯電話などを盗んで逃げる事件が発生するなど問題が発生していた。

 昨今では韓国から欧州に渡った脱北者らが大使館前でデモや集会を繰り広げるなど大使館の治安維持すら困難を極めていると言われている。北朝鮮はロシアと対立を深めるNATO諸国を敵視していることもあって欧州での大使館閉鎖はスペインに留まらないかもしれない。

 四つ目の理由は、外交官の脱北(亡命)を防止することにある

 北朝鮮からの脱北者は2019年までは四桁の1千人に上っていたが、2020年は新型コロナウイルスの感染により国境を閉鎖したことで三桁の229人、2021年は二桁の67人に留まっていた。しかし、今年、国境を開放したことで脱北者数は増えることが予想されるが、北朝鮮にとっての痛手は一般の人民ではなく、外交官の亡命である。

 北朝鮮外交官の亡命は1991年に高英煥(コ・ヨンファン)駐コンゴ大使館一等書記官を皮切りに洪淳京(ホン・スンギョン)駐タイ大使館参事官(1993年)、玄誠一(ヒョン・ソンイル)駐ザンビア3等書記官(1996年)、張承吉(チャン・スンギル)駐エジプト大使(1997年)、金東珠(キム・ドンス)駐ローマ国連農業機構3等書記官(1998年)、金京泌(キム・ギョンピル)駐ドイツ利益代表部書記官(1999年)、太永浩(テ・ヨンホ)駐英公使(2016年)、趙誠吉(チョ・ソンギル)駐イタリア大使代理(2018年)、リュ・ヒョンウ駐クウェート大使代理(2019年)と、相次いでいる。

 今回の北朝鮮の一連の大使館閉鎖について2019年9月に亡命したリュ駐クウェート大使代理は米国の自由アジア放送(RFA)とのインタビューで「大使館閉鎖の噂は安保理制裁の影響が出始めた2019年7月頃からあったが、コロナの拡散で中断していた。国の閉鎖が緩和されたことで閉鎖手続きが始まったのでは」と述べていた。

 韓国統一部の統計によると、北朝鮮は47か国に大使館を置いている。総領事館(3カ所)と代表部(3か所)を加えると、全部で53の公館を有している。

 北朝鮮は同じような事情からこれからもアフリカや欧州での大使館の統廃合を進めることであろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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