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「米軍兵士越境」の監視カメラ映像は?国連軍司令部は「不祥事」なので公開しない? では、北朝鮮は?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
軍事境界線を越え、北朝鮮に渡ったトラビス・キング米軍二等兵(米陸軍配信)

 今月27日は朝鮮戦争(1950-53年)休戦(停戦)日である。今年は休戦協定の締結からちょうど70年目となる。

 休戦協定第1条第7項には「軍事停戦委員会の許可がない限り、いかなる軍人又は文民も軍事境界線を越えることはできない」と記述されている。しかし、現実には単発的ではあるが、軍人や民間人による「越境事件」が起きているのが実情である。

 一昨日、南北分断の象徴である板門店の共同警備区域(JSA)を見学していた米軍兵士が軍事境界線を越え、北朝鮮に渡った事件が発生し、米軍当局を当惑させている。

 今回、問題を起こした越境者は「トラビス・キング」という名の23歳の偵察が任務の二等兵である。

 キング二等兵は韓国で起こした暴力事件で懲戒処分を受け、米国に空路護送される直前に逃亡を図ったとみられている。

 国連軍司令部が週4回企画しているJSA見学ツアーは事前予約制なので北朝鮮への逃亡は計画的だったことがわかる。「誤って越えてしまった」ということではなく、明らかに「確信犯」である。

 このニュースを耳にした時、似たような事件が6年前に起きていたことを思い出した。この時は韓国から北朝鮮ではなく、北朝鮮から韓国への脱出である。朝鮮半島の軍事的緊張がピークに達していた2017年11月13日、北朝鮮兵士が軍事境界線を越え、韓国に亡命したのである。

 脱北者は「呉青成(オ・チョンソン)」と言う名の25歳の上官の車を運転する兵士であった。

 米軍二等兵の場合は、他の観光客と一緒にJSAを見学中、突然「ハハハ」と笑い出し、建物の間に走り出して、そのまま北朝鮮側エリアに消えて行ったとされているが、この北朝鮮兵士は車でJSAの境界線付近に乗りつけて下車し、韓国側エリアに向かって全速力で走っていた。その際、追っての北朝鮮警備兵の銃弾を腹部や腕に5発も浴びている。

 この北朝鮮兵士は境界線を越え、倒れたところで3人の韓国軍警備兵に安全な場所に引きずられ、救助されたが、この時の映像がある。国連軍司令部が当時の状況を捉えた監視カメラの映像を一部、時間にして僅か26秒だが、事件発生から8日後に公開していたのである。

 監視カメラの映像をみると、北朝鮮兵士が乗った四輪駆動車が猛スピードで板門店に突入し、軍事境界線の手前で停止。車から降り、背後から銃撃されながら韓国側に逃走している様子が映し出されている。

 北朝鮮の警備兵が境界線の南側に向けて発砲している様子だけでなく、国連軍司令部は映像から「脱北兵」を追いかけてきた警備兵の1人が境界線を越え韓国側に入っていたことも確認していた。これは明白な休戦協定違反である。

 病院で手術を受け、一命を取り止めた北朝鮮兵士は後に脱北の理由について「韓国映画などを通じて韓国にあこがれを抱いたから」と語っていたが、米軍兵士の理由は北朝鮮へのあこがれなどではなく、本国で厳罰に処せられるのを恐れてのものと推察される。ある意味では、58年前の1965年1月に軍事境界線から北朝鮮に渡ったチャールズ・ロバート・ジェンキンス下士官(当時25歳)のケースと類似している。

 拉致被害者の曽我ひとみさんの夫でもある故ジェンキンス氏は1964年9月に在韓米軍に派遣され、軍事境界線に駐留していたが、戦火のベトナムに転属を命じられたことから逃げようと、境界線を偵察任務中に越境し、北朝鮮側に投降している。ベトナム参戦を恐れ、ジェンキンス氏もまた自ら進んで北朝鮮に渡っていた。

 国連軍司令部は米軍二等兵の「脱出劇」を当然、監視カメラで撮っていたはずだが、しかし、不祥事ということもあって、また、警備体制の不備を露呈してしまったことから公開できないようだ。

 では、北朝鮮はどうだろうか?当然、北朝鮮も四方八方、監視カメラを設置しているはずだ。

 北朝鮮は依然として沈黙を守ったままだが、撮っていれば、もしかすると6年前の「報復」とばかり、映像を電撃的に公開するかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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