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沖縄上空に向かって飛んでくる韓国のロケットは「破壊措置」対象外の理由は?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
商業衛星を発射する韓国国産ロケット「ヌリ号」(韓国航空宇宙研究院HPから)

 北朝鮮の偵察衛星発射の動きが国際的に注目されている最中に韓国が今日午後6時半頃に国産ロケット「ヌリ号」(KSLV-2)を使って人工衛星を打ち上げる。

 韓国の衛星発射は今回で3回目である。

 1回目は2021年10月21日で、この時はロケットに衛星の模擬体を搭載していた。

 ロケットは高度700kmまで上昇したが、3段エンジンが計画よりも46秒早く停止したため衛星分離速度がマッハ7.5に達せず、衛星を軌道に乗せることができず、失敗に終わった。

 2回目は昨年6月21日に発射された。当初は6月15日に打ち上げ予定だったが、ロケットの酸化剤タンクのセンサーに異常が発生したため6日間延期しての発射となった。衛星を軌道に乗せることに無事成功したが、あくまで実験段階だった。

 今回は初の実用衛星の打ち上げである。言わば、本番である。

 前回は午後4時に発射されていたが、今回は2時間半遅く、高度も700kmから200kmも低い500kmに短縮されている。

 ロケットに衛星は1基でなく、8基搭載されている。20秒ごとに衛星を射出させ、編隊飛行させるようだ。成功すれば、韓国航空宇宙研究院(KARI)の李相律(イ・サンリュル)院長曰く、「宇宙産業化の段階に飛躍する第一歩」となるとのことだ。

 韓国は2027年まで延べ6回の発射を計画しており、段階的に民間企業の参与を拡大する方針だ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権だけでなく、韓国国民の誰もが今日の打ち上げの成功を祈っているのは至極当然のことだ。

 発射場所は韓国最南端の全羅南道の羅老にある宇宙センターである。日本に最も近い場所からの打ち上げとなる。

 韓国は2009年4月に自前の小型衛星発射体を使って科学技術衛星を打ち上げて以来、この宇宙センターから衛星を打ち上げている。従って、飛行コースは必然的に奄美大島や沖縄諸島の上空を通過して、南方方向に定められている。

 KARIの発表によると、1段目のブースターは離陸から430km飛行し、125秒(2分5秒後)に落下する。落下地点は沖縄の上空を横断する手前あたりだ。2段目は離陸から飛行距離にして1585km、時間にして234秒(3分54秒)後となる。2段目の落下は沖縄上空を通過した後だ。

 日本は今、沖縄に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を配備したままである。これはあくまでも北朝鮮の偵察衛星の発射に備えたものである。韓国のロケットに向けられたものではない。韓国の衛星発射に対しては警戒態勢を敷いてもいないし、危機感もない。

 この違いは単純に北朝鮮が「敵国」で、韓国が「友好国」だからというものではなく、北朝鮮のロケットは「衛星」発射を口実にした国連安保理で発射が禁じられている事実上の長距離弾道ミサイルであることに尽きる。脅威になるので自衛権の行使による迎撃が可能との解釈のようだ。

 簡単な話が、北朝鮮のそれが仮に人工衛星であったとしても「打ち上げる発射推進体がミサイルと技術的に同じで、ミサイルへの軍事転用が可能だから」「弾頭に衛星でなく、核弾頭を装着すれば、大陸弾道ミサイルになるから」というもので、これ以上の説明は不要だ。

 その一方で韓国のそれは純粋に衛星発射のための民需用ロケットであり、宇宙の平和利用を目指した衛星の迎撃は国際法上許されないため破壊措置を取ることができない。

 一般的には自衛隊への破壊措置命令は日本の領土、領海にロケット本体、もしくは破片が落下する不測の事態に備えたものである。切り離されたブースターが誤って日本の領土、領海に落下する場合に備えての、国民の生命と安全を守ることを目的としたものである。

 同じ原則、理屈を盾にするならば、韓国のロケットもエンジンや機器の不具合で、コースを外れるとか、落下する可能性もないとは言えないので本来ならば警戒態勢を敷いてもおかしくはない。

 衛星発射推進体であるロケットは南北共に液体燃料を使用する3段式だが、韓国の「ヌリ号」は全長約47m、直径3.5m、重量200tなのに対して、北朝鮮の「光明星4号」と称するロケットは全長30m、直径2.4m 重量91tで、韓国のほうがはるかに大きい。

 日本は北朝鮮が2012年12月に黄海に面した平安北道鉄山郡東倉里の発射場から東シナ海を通って、南西諸島からフィリピン付近に向け発射したロケットに対して自衛隊に「破壊措置準備命令」を出し、自衛隊は落下してきた場合に備え、PAC3を配備し、大気圏外で迎撃する海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載したイージス艦を配置させた。また、2016年2月の時は破壊措置は取らなかったが、沖縄上空を通るため沖縄に全国瞬時警報システム(Jアラート)を稼働させていた。

 現在も北朝鮮が発射準備を進めている偵察衛星に対して同様の措置が取られており、いつ発射されても対応できる状態にある。

 韓国のロケットはOKで、北朝鮮のロケットはNOという日本政府の対応は北朝鮮にとってはダブルスタンダードに映るかもしれないが、北朝鮮が韓国の「ヌリ号」打ち上げにどのような反応を示すのか、興味津々だ。

(参考資料:北朝鮮は軍事(偵察)衛星をいつ発射するのか? 3つの注目ポイント)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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