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北朝鮮は軍事(偵察)衛星をいつ発射するのか? 3つの注目ポイント

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
3月に東倉里の西海衛星発射場を視察した金正恩総書記(労働新聞から)

 北朝鮮はこれまでに「光明星」と称する「衛星」を1998年8月31日、2006年7月5日、2009年4月5日、2012年4月13日、2012年12月12日、2016年2月7日と過去6回発射している。

 北朝鮮の発表ではこのうち1998年の「光明星1号」と2009年の「2号」、そして2012年12月の「3号」及び2016年の「4号」はいずれも「軌道に上がった」と主張している。

 「1号」と「2号」は地球の自転方向への衛星で、「3号」と「4号」は極軌道(南北)を周回する衛星と主張しているが、国際社会は衛星からの通信電波が確認されていない、画像も送信されていないことから「作動しないまま、不規則な回転をして、地球の周りを旋回している」とみなし、北朝鮮が「衛星」と称し、「事実上の長距離弾道ミサイル(「テポドン」)を発射した」と批判してきた。

 ▲発射場所に関して

 「衛星」は1回目から3回目までは日本海(東海)に面した咸鏡北度・花台郡の舞水端里にある東海衛星発射場から日本海に向け発射され、4回目からは黄海(西海)側の平安北道・鉄山郡の東倉里にある西海衛星発射場から南方に向け発射されている。東倉里を起点にすると米本土西海岸まで距離にして1万2千km、ハワイは7,800km、アラスカは7600kmである。

 北朝鮮は今回は軍事衛星(偵察衛星)を発射すると公言している。東海衛星発射場は閉鎖されたと伝えられているので順当ならば、東倉里の西海衛星発射場から南方に向け発射されるものとみられる。金総書記が3月11日に西海衛星発射場を視察し、「軍事偵察衛星をはじめとする多目的衛星を多様な運搬ロケットで発射できるように近代的に改修、拡張し、発射場の複数の要素を新設するよう」指示していたこともそのことを裏付けとなっている。

 唯一、気になるのは昨年2月と3月に平壌市順安から移動式発射台を使い、大陸間弾道ミサイル「火星17」を日本海に向け発射し、「偵察衛星開発のための重要な試験」を行っていたことだ。同様の試験は12月にも準中距離弾道ミサイル(旧型ノドンミサイル)を使って行われたが、この時も移動式発射台から発射されていた。まさかとは思うが、西海衛星発射場の固定式発射台からではなく移動式発射台を使用するウルトラCも考えられなくもない。

 ▲事前予告に関して

 1回目(1998年8月31日)は発射準備から24日目に発射されたが、事前予告はなく、北朝鮮は発射から4日後に「人工衛星」(光明星1号)と主張した。また、2回目(2006年7月5日)も予告なく発射され、失敗していた。

 しかし、3回目(2009年4月5日)は2月24日に「東海衛星発射場で人工衛星打ち上げの準備を行っている」と発表し、3月13日には「4月4-8日の間に打ち上げる」と国際民間航空機機関(ICAO)と国際海事機関(IMO)に通告し、さらに4月4日に宇宙空間技術委員会が「間もなく発射する」と発表し、4月5日に発射していた。予告から41目に発射されていた

 4回目(2012年4月13日)は3月16日に宇宙空間技術委員会が「4月12-16日の間に発射する」と発表し、実際にその期間に発射されたが、一段目と2段目の分離に失敗し、2分で空中爆破された。予告から27日目の発射だった

 5回目(2012年12月12日)は12月1日に宇宙空間技術委員会は「12月10~22日の間に人工衛星を発射する」と発表したが、10日後に「技術的欠陥が見つかったので、発射予定日を29日まで延期する」と通告し、12日に発射していた。予告から12日目の発射だった。

 直近の6回目(2016年2月7日)は2月2日に国際電気通信連合(ITU)に「8-25日の間に発射する」と通告しておきながら、6日になって「7-14日に発射する」と土壇場で変更し、翌7日に発射した。いずれにせよ最初の予告から5日目の発射であった。

 今回、国家宇宙開発局を4月18日に訪れた金総書記が軍事偵察の衛星を「正当な防衛権である」と堂々と主張していることから発射予定日を国際機関に事前通告する可能性が高いと思われるが、仮に米韓による電波妨害や迎撃を警戒しているならば不意の発射も考えられなくもない。

 その理由は、米インド太平洋司令官が「北朝鮮が太平洋に大陸間弾道ミサイルを発射すれば即刻撃墜する」と発言(2月24日)したことに対して総書記の代理人である妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長が3月7日談話を発表し、「我々の戦略兵器実験に迎撃のような軍事的対応が伴う場合、これは言うまでもなく朝鮮民主主義人民共和国に対する明白な宣戦布告と見なす」と警戒感を露わにしていたからである。

 それでもオバマ政権下の2009年の時も当時ゲーツ国防長官から「迎撃する」と威嚇されても、国際機関に事前に予告し、発射していたことから今回も事前に予告するものとみられる。

 ▲発射時期に関して

 1998年8月31日は建国50周年(9月9日)の9日前、2009年4月5日は4日後の9日に最高人民会議開催を控えていた。また、金日主席生誕日(4月15日)の10日前でもあった。2012年4月13日は金日成主席生誕100周年(4月15日)の2日前、2012年12月12日は金正日総書記死去一周忌(17日)の5日前でサイルやロケットを製造する「軍需工業の日」であった。また2016年2月7日は朝鮮人民軍創建日(8日)の前日だった。

 今回は最短で4月25日の人民革命軍創建日、あるいは翌26日の米韓首脳会談あたりが取り沙汰されているが、今月中ならばもうそろそろ国際機関への通告や予告があってしかるべきだ。

 仮に4月以降となると、5月9日の金正恩党委員長就任7周年、6月12日の米朝首脳会談5周年と25日の朝鮮戦争勃発73周年あたりが有力だ。正式な日時は明らかにされていないが、6月には韓国で歴代最大規模の米韓連合火力撃滅訓練が予定されている。また、7月に入ると、3日に戦略軍の日と27日に朝鮮戦争休戦70周年が控えている

 なお、発射の時間帯については1998年8月31日のみが午後12時7分に打ち上げられており、2006年7月5日は午前3時32分、2009年4月5日は午前11時20分、2012年4月13日が午前7時38分、同年12月13日が午前9時49分、そして2016年2月7日が午前9時と午前中に打ち上げられていた。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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