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見分けがつかない韓国と北朝鮮の特殊部隊! 有事の際は南北共に「斬首作戦」実行

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国特殊部隊(上)と北朝鮮特殊部隊(下)(国防部HPと労働新聞からキャプチャー)

 ヤクザの世界では親分が全面戦争にならないよういきり立つ子分を抑えるが、朝鮮半島ではその逆で親分が好戦的で、子分らをけしかけているように感じてならない。

 大統領就任時に「北朝鮮に対して宥和政策を取る時代はもう終わりだ。我が政府の対応は文在寅(ムン・ジェイン)前政権とは異なる」と米CNNとのインタビューで明かした韓国の親分、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は5年ぶりに「北朝鮮は主敵である」と公言し、今年1月には軍首脳らに対して「我々が攻撃を受けた場合、100倍、1000倍で叩け」と命じていた。

 韓国の空軍基地を狙った新型短距離ミサイルを北朝鮮が6発も発射し、立ち会っていた血気盛んな金正恩(キム・ジョンウン)総書記が「南(韓国)をいつでも制圧できる能力を示した」と豪語した翌日の10日、慶尚南道の鎮海の基地内に停泊中のイージス艦「世宗大王」に乗り込み、北朝鮮の核ミサイルに対応するため「韓国型3軸体系を含む圧倒的な対応能力と報復態勢を備えよ」と指示する一方で海軍特殊部隊(UDT)を歴代大統領としては初めて訪問し、「最近の戦争は非対称戦と特殊戦の様相を帯びているので特殊戦の戦力を強化せよ」とハッパを掛けていた。

 一方、尹錫悦政権を「歴代保守政権の中で最も極悪非道の政権」とみなす北朝鮮の3代目親分、金総書記も昨年7月の休戦協定記念日の演説では韓国を「不変な主敵」とみなし、「我々に軍事対決で挑むならば尹政権と彼の軍隊を全滅させる」と啖呵を切った。

 さらに今年元旦に行われた600mm超大型ロケット砲の贈呈式での演説では「(600mm砲は)南朝鮮(韓国)全域を射程に入れており、戦術核の搭載が可能な攻撃型武器である。(我々は)敵の妄動や挑発に対して核には核で、正面対決には正面対決で受けて立つ」と発言し、2月20日には西部前線長距離砲兵部隊が実戦に向けた演習の一環として600mm砲2発を発射していた。いざとなれば、韓国が誇るステルス戦闘機「F-35A」が駐留する忠清北道の清州空軍基地や「F-16」戦闘機のある全羅北道の群山の米空軍基地を先制攻撃するのが狙いである。

 今年の朝鮮半島は何が起きるかわかないほど日増しに緊張が高まっている。それもこれも親分同士が一歩も引かず、正面から遣り合っていることにある。「攻撃されれば、圧倒的な軍事力で叩き潰す」と威嚇し、双方ともそのための軍事力の増強や演習を頻繁に行っている。とりわけ、南北共にその役割を重視しているのが特殊部隊である。特殊部隊は様々な任務を帯びているが、南北共に恐れているのは親分の命を狙った「斬首作戦」を遂行する部隊、即ちヒットマンである。

 韓国軍の特殊部隊は特殊任務旅団(第13旅団)に属する。特殊任務旅団は北朝鮮との軍事衝突寸前だった2017年に既存の特戦団1個旅団に低高度浸透が可能な戦力が補完されて編成された部隊である。

 有事の際は北朝鮮に浸透し、最高司令官の金総書記ら指導部を排除する任務を帯びている。具体的には、平壌に侵入し、核兵器発射命令の権限を有する金総書記を除去し、戦争指揮施設を麻痺する任務を遂行する。

 特殊任務旅団の編成を指示した先代の姉御こと朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)は2016年9月22日、大統領府で開いた首席秘書官会議で「私と政府は金正恩の核とミサイルへの執着を断ち、国と国民を守るためにできるすべてのことを行う」と強調していた。この「できるすべてのこと」のオプションの一つが、平壌官邸を奇襲し、金総書記の首を取る作戦であった。

 この作戦は元北朝鮮駐英公使で、2016年7月に韓国に寝返り、現在与党・「国民の力」の執行部に入っている太永浩(テ・ヨンホ)議員が2016年12月3日、韓国の国会情報委員会で証言台に立ち「金正恩一人だけ除去されれば、北朝鮮の体制は完全に崩壊する」と助言したことがヒントになっている。

 韓国の「斬首作戦」はこの時は「北朝鮮が核兵器で攻撃してきた場合」の条件付きだったが、尹政権になってからは攻撃されてからの反撃、報復では遅すぎるため「有事」の概念を「核兵器使用が差し迫った場合」に変更している。即ち、平時でも適用される概念である。

 北朝鮮への浸透作戦は精巧で、ヘリコプターUH-60ブラックホークや浸透用輸送機MC-130が低空飛行し、特殊部隊を平壌近郊に落下させるほか、海軍所属の特殊部隊員が潜水艦を利用し、西海(黄海)海岸から浸透し、金総書記の執務室を直接攻撃する。

 金総書記の位置が確認されれば作戦は素早く実行に移されるが、イラク戦(2003年)当時、フセインの隠れ場を緊急打撃した米軍特殊部隊による「Big One Operation」作戦では位置把握から打撃まで45分しかかからなかった。

 韓国軍は今月13日から米軍と合同軍事演習を実施するが、この演習には敵地上陸作戦のほか「チークナイフ」訓練も含まれている。「チークナイフ」は特殊部隊が緊急時に北朝鮮の内陸部に深く浸透し、要人の拉致、暗殺のほか、主要施設を破壊し、空軍の爆撃を精密に誘導する訓練を指す。

 一方の北朝鮮は早くから特殊部隊を創設している。初代の金日成(キム・イルソン)主席は1969年1月6日の軍党全員会議で「軽歩兵が敵の後方に入って戦えば、原子爆弾よりももっと強力である」と語っていたが、実際にその前年の1968年1月に特殊部隊31人がソウルに侵入し、宿敵・朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の命を狙い、大統領府(青瓦台)襲撃を企てたことがあった。

 また、1974年には在日韓国人・文世光(ムン・セグァン)を送り込み、再度朴大統領の暗殺を企て、1983年10月にはミャンマー・ラングーンを訪問した全斗煥(チョン・ドファン)大統領一行を3人の特殊部隊員がアウンサン廟で待ち受け、爆破テロを仕掛けたこともあった。

 北朝鮮の特殊部隊はかつて人民軍総参謀部直属の組織として発足した「矯導隊指導局」の配下にあり、2014年には韓国に侵入する特殊作戦用航空機を使ってパラシュート降下し、韓国の民間空港の占拠を想定した訓練などを実施していた。

 その後、2016年に国防省(旧人民武力部)作戦総局(第525部隊)傘下に入り、特殊作戦大隊に編成された。要人暗殺だけでなく、偵察部隊が作成した地図を基に先鋒として敵地に潜入し、ミサイル基地などの軍事施設を破壊する任務を帯びている。

 毎日超人的な訓練に明け暮れており、30kgの軍装備を背負って6時間以上行軍するとともに2,3日一睡もせずに160km歩くこともわけなくこなす。特に思想教育は徹底しており、「最高司令官の命令があれば、爆弾を抱えて敵地に飛び込んでいくことも辞さない」と徹底的に精神武装されている。

 北朝鮮のテレビは2016年9月14日に「我々の最高尊厳(金総書記)に手を出した朴槿恵逆族一党には民族の峻厳な審判は避けられない」との題目の映像を3分間放映していた。映像には朴大統領の似顔絵を標的にした射撃場面が映し出されていた。さらに2か月後(11月)には金総書記の視察の下、韓国大統領府への奇襲攻撃訓練を実施していた。

 韓国の隊員らは暗闇の中でも人や物を識別できる多様な夜間透視ゴーグルが付いた防弾ヘルメットを着用しているが、今年2月8日の軍事パレードで行進していた北朝鮮の特殊部隊もまた同様のゴーグル付きのヘルメットを着けていた。同じ顔形、同じ言語を喋る南北の特殊部隊はどちらが強いのかはさておき、外見上は見分けがつかない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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