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北朝鮮で急速に高まる「日本警戒論」 日々強まる日本への「脅し」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
岸田文雄首相と金正恩総書記(岸田首相公式サイトと労働新聞から筆者キャプチャー)

 日本では北朝鮮のミサイルの脅威が日々高まっているが、北朝鮮では皮肉なことに逆に「日本警戒論」が台頭しているようだ。

 その象徴が12月20日の北朝鮮外務省のスポークスマンの談話である。談話では以下のように日本を牽制していた。

 ▲日本政府は「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」を実行することで日本を攻撃型軍事大国に転変させようとしている。

 ▲日本が主張するいわゆる「反撃能力」は他国の領域を打撃するための先制攻撃能力である。

 ▲日本の新しい侵略路線の公式化によって、東アジアの安保環境は根本的に変わった。我々は国家主権と領土保全、根本利益を守るための果敢で決定的な軍事的措置を断行する権利を保有していることをこの機会に明白にする。

 ▲我々が(日本の再武装化に)どれほど憂慮し、不快に思っているのかを実際の行動で見せ続けるであろう。日本は遠からず覚えることになる身震いする戦慄を通じて、確かに間違っていてあまりにも危険な選択をしたことを自ら悟るようになるであろう。

 北朝鮮の日本に対する辛辣な批判は今に始まったことではない。北朝鮮外務省が4年前にホームページを開設して以来、毎年事あるごとに対日批判を繰り返しており、特に今年はその件数が多い。

 外務省ホームページに掲載された外務省傘下機関である「日本研究所」の正体不明の研究員らによる対日批判論評は上半期だけでその数は35本に上っていた。

 その多くは安全保障や日本の防衛力強化絡みで年初1月には「必ず払うことになる高い代償」 (31日)と題する論評で日本とフランスが1月20日に行った外交・防衛当局者による「2プラス2」のオンライン会談を槍玉に挙げていた。翌2月には中距離弾道ミサイル「火星12」の発射を批判した日本の対応を「主権国家の尊厳と自主権に対する許しがたい侵害」(1日)と断じ、日本国内の反撃能力保有議論を「敵基地攻撃能力保有は再侵企図の直接的な発露である」(27日)と非難していた。

 その後は日本国内の専守防衛の名称変更や解釈変更の動きを批判した論評が目立ち、5月は自民党の佐藤正久外交部会長が北海道に新型中距離ミサイルの配備の必要性について言及したことを問題視し、「何を企てての『反撃能力』の保有なのか」と警戒感を露わにしていた。

 さらに6月には日本が武器や弾薬を海外に輸出できるようにするため防衛装備移転3原則の改称を検討していることを「世界平和と安定の破壊者」(14日)と批判したのに続き統合司令部新設の動きを「再侵準備のための危険な機構操作策動」(20日)と決めつけ、アジア安保会議での日米韓国防力強化措置の合意を 「地域の平和と安定を破壊する危険千万な軍事的挑発」(22日)と糾弾していた。

 さらにこの月は日本政府が自衛隊の戦闘能力を強化するためミサイルと弾薬の保有量を増やす意向を表明したことについても取り上げ、「海外侵略準備完成を企てる無分別な軍事妄動」(24日)と、日本を叩いていた。

 下半期にも手を緩めるはことなく、7月1日に海上自衛隊が新型護衛艦「やはぎ」を進水させたことについて「新たに進水した護衛艦の名前は何を意味するのか」との見出しを掲げ批評し、8月は「軍事大国化策動を合理化する試みは通じない」と、日本の防衛力増強を露骨に批判していた。

 北朝鮮のミサイル乱射が止まらないこともあって日本国内ではJアラート(退避訓練)の動きが出始めると、「何を企てた退避騒動なのか?」(9月17日)との論評を掲載し、「自国民に反共和国敵対感情と安保意識を助長させ、再侵準備策動を合理化しようとしている」と日本の動きを牽制していた。また、2日後には中国の言論が地域の平和と安全を危険に追いやる日本の軍事大国化策動を糾弾しているとの中国発の記事を外務省のホームページ載せていた。

 翌10月は前半こそ福島原発処理水の海洋放出や佐藤金山のユネスコ文化遺産登録問題などを取り上げていたが、中旬からは北朝鮮のミサイル発射を批判する日本政府の対応を「我々の自衛的国防強化措置に文句を言うな」(13日)、「自ら禍を招くようなことをするな」(24日)と反発し、日本とオーストラリアが安全保障分野で協力することを謳った日豪共同宣言を「太平洋はなぜ太平ではないのか」と皮肉り、両国の動きを牽制していた。

 先月も岸田文雄首相がASEAN首脳会議の場で北朝鮮のミサイル発射を取り上げたことについて「対朝鮮圧迫共調策動の突撃隊になるな」(19日)との見出しの論評を載せ、「我々の自衛的な軍事対応措置を『挑発』と罵倒し、自分らの軍事演習を『抑止力』と正当化することは本末転倒である」と猛反発していた。

 直近では「日本の先制攻撃能力画策が招く禍」と題した12月3日の論評が強烈で「極度の過信と過欲はとてつもない禍をもたらすものである。日本が周辺地域の軍事的緊張を誘発させる先制攻撃能力保有を画策すればするほど列島の安保危機を自ら引き寄せることになり、自国民を塗炭の中に追い込む結果を招くことになるであろう」と警告していた。また、16日には中国外交部スポークスマンが日本の軍事拡張行為を批判したとの記事も併せて掲載していた。

 北朝鮮外務省が12月20日の談話で予告した「我々がどれほど憂慮し、不快に思っているのかを実際の行動で見せ続けるであろう。日本は遠からず覚えることになる身震いする戦慄を通じて、確かに間違っていてあまりにも危険な選択をしたことを自ら悟るようになる」ことが何を意味しているのかは不明である。

 北朝鮮には日本に向けた「4本の矢」(ノドンミサイル、スカッドER、準中距離弾道ミサイル「北極星2型」、それに潜水艦弾道ミサイル)がある。そのうちの1本を日本のEEZ(排他的経済水域)内に着弾させるのか、あるいは日本列島を再び飛び越えるような軍事示威を行うのか、それとも新たなミサイルを持ち出し、日本を威嚇するのか、どちらにせよ不気味な予告である。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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