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金正恩総書記はいつ「コロナ」に感染したのか? 実妹が感染事実を公表

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
初めてマスクをして5月12日の党政治局会議に現れた金正恩総書記(労働新聞から)

 北朝鮮の情報統制は徹底している。韓国のメディアが北朝鮮内部に精通しているとされる「情報筋」や「消息筋」の話として裏の取れない様々な「内部情報」を伝えているが、いつものことながら肝心なことは何一つ伝えられないでいる。情報が漏れないのである。

 新型コロナウイルスが原因とみられる「原因不明の発熱」に金正恩(キム・ジョンウン)総書記が侵されていたことは韓国のメディアも、また情報機関の「国家情報院」もキャッチできなかったようだ。

 「発熱者」が8月6日(6人)を除くと、7月29日から8月10日まで一人も確認されなかったことから金総書記が新型コロナウイルスとの戦いに「勝利した」との宣言を行った昨日(10日)の全国非常防疫総括会議で金総書記の実妹・金与正(キム・ヨジョン)副部長が討論に立ち、兄の正恩総書記が発熱の症状に見舞われたことを明かしていた。

 与正副部長は討論で「(金総書記は)昼夜を分かたぬ防疫戦場を訪れて明哲な方略を教えてくれた」と、兄の指導力を持ち上げたくだりで「この防疫戦争の日々、酷い高熱に侵されながらも自ら最後まで責任を果たさなければならないとの人民への想いから一瞬たりとも寝込んではいられなかった元帥様(金総書記を指す)」と触れていた。

 北朝鮮が「原因不明の発熱者」という表現を使い、「コロナ」感染を初めて認めたのは5月12日ではあるが、発生したのは4月中旬からである。では、金総書記はいつ「コロナ」に感染したのだろうか?

 北朝鮮の感染者がゼロになるまでの感染推移を月別にみると;

5月は1万8000人(12日)→17万4440人(13日)→29万6180人(14日)→39万2920人(15日)→26万9510人→23万2880人→26万2270人→26万3370人→21万9030人(20日)→18万6090人→16万7650人→13万4510人→11万5970人→10万5500人(25日)→10万460人→8万8520人→8万9500人→10万710人→9万620人→9万3180人(31日)

 6月は9万6610人(1日)→8万2160人→7万9100人→7万3780人→6万6680人→6万1730人→5万4610人→5万860人→4万5540人→4万2810人→4万60人→3万6710人→3万2810人→2万9910人→2万6010人(15日)→2万3160人→2万360人→1万9310人→1万7250人→1万5260人→1万3100人→1万1010人→9610人→8920人→7300人(25日)→6710人→5980人→4730人→4570人(30日)

 7月は4100人(1日)→3540人→3030人→2500人→2140人→1950人→1630人→1590人→1460人→1240人→900人→770人→560人→500人→460人(15日)→430人→310人→250人→250人→170人→140人→120人→120人→50人→30人(25日)→18人→11人→3人(28日)→0人(29日)

 金総書記にこの期間の公開活動をみると、5月12日に労働党政治局会議を主宰し、9日後の21日にも党政治局協議会を主宰していた。さらに月末の29日にも政治局協議会を主宰し、「感染状況が統制、改善されている」と評価していた。しかし、6月7日に開かれた政治局会議はどういう訳か欠席し、趙甬元(チョ・ヨンウォン)が会議を仕切っていた。もしかしたら、5月29日から6月7日までの間に感染した可能性も考えられる。

 金総書記がこの3か月の間、最も長い空白期間があったのは7月8日から27日までの間で、8日に労働党本部で党生活指導部特別講習会の参加者らと記念写真を撮ったのを最後に27日の軍事パレードまで姿を現さなかった。従って、この間に感染した可能性もゼロではないが、この期間の全国の感染者は一日平均468人と、急減していたので可能性としては低いのではないだろうか。

 最も考えらえるのは5月1日から12日までの間である。

 金総書記は5月1日に人民革命軍創建90周年記念軍事パレードを支えた平壌市の学生、青年らと記念写真を撮って以来、12日の政治局協議会に出席するまでの11日間、公式活動を絶っていた。軍事パレードに寄与した学生及び青年の数は2万4千人で、全員ノーマスクだった。金総書記は1組約1200人ずつ、20組と写真に収まっていた。

 前述したように北朝鮮が感染を公表したのは5月12日午前2時に緊急招集された労働党中央委員会政治局会議での場である。

 初めてマスクをして現れた金総書記は「2020年2月から今日に至る2年3カ月にわたってしっかり守ってきた我々の非常防疫戦線に破裂口が生じる国家最重大非常事件が発生した」と発言し、続けて「世界的に各種の変異株感染者が増える保健状況に敏感に対応できなかった」として防疫部門の警戒心の欠如と油断、無責任と無能ぶりを容赦なく批判していた。

 金総書記がマスクをしていたのは後にも先にもこの日だけだった。自らが発熱し、苦しんだことで感染事実を覆い隠し、「感染者ゼロ」の虚偽報告をしていた防疫対策本部を叱責したと言えなくもない。それとも、本当は感染していないのに指導力や人民への献身ぶりを誇張するため金総書記も国民と同じく感染していたことにしたのかもしれない。

 ちなみに北朝鮮の感染者は累計で477万2818人で、全国民の約5人に1人が感染していた。

(北朝鮮が発症から77日で「コロナ」を収束させた! 奇跡?捏造? 世紀のミステリー)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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