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韓国政権与党内紛 大統領当選の立役者・若き党代表が「失脚」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
与党「国民の力」の李俊錫代表(李代表のHPから)

 英国のジョンソン首相が昨日、与党「保守党」代表の辞意を表明したが、韓国政権交代の最大の立役者である韓国与党「国民の力」の李俊錫(イ・ジュンソク)代表が9年前の「セックススキャンダル」揉み消し疑惑を問われ、党倫理委員会から6か月の党員資格停止処分を受けた。与党の現職代表が党から懲罰を掛けられたのは韓国憲政史上初めてのことである。

 李代表の「性接待証拠隠滅教唆疑惑」について党倫理委員会は今朝、23時間にわたるマラソン審議の末、「(李代表の側近)金チョルグン代表政務室長が今年1月に大田で(接待側に)7億ウォンの投資誘致を約束した覚書を渡したことはないと言っているが、証明が不十分である。性接待の事実そのものについては判別できないが、これまでの李代表の功労を考慮し、6か月の党員資格停止処分とする」と発表したのだ。資格停止は除籍、除籍勧告に続いて3番目に重い処分である。

 来年1月12日まで6か月の任期を残しての「停止処分」は事実上、李俊錫体制の終焉を意味することにもなるが、与党の主導権を巡って李代表と対立する「尹核関」(尹大統領の核心関係者)と呼ばれる大統領派はこれを機に李代表に辞任を迫る動きもある。これに対して李代表側は懲戒処分の最終的な権限は党代表にあることを盾に倫理委員会の決定を保留にして、再審請求するか、それが通らなければ、法的措置を取るなど徹底抗戦する構えを崩していない。

 国会議員選挙で3度落選した非国会議員、それもまだ36歳の若者が昨年6月の党代表選に立候補し、最有力候補の「政界のマドンナ」こと、4回生議員の羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)前院内総務や5回生の朱豪英(チュ・ホヨン)前党代表代行ら実力者を押さえ、番狂わせを演じた際には「李シンドローム」が巻き起こったと言われていた。李代表がこのまま大統領選挙に出馬すれば、当選も可能と言われていたが、韓国は憲法上、年齢制限があって40歳未満は大統領選挙には立候補できなかった。結果として「国民の力」は尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長を大統領候補に担ぐことになった。

 実際に「若きプリンス」李代表の党への貢献度は目覚ましいものがあった。

 李代表は昨年4月のソウルと釜山の2大市長選挙を制し、その勢いで今年3月の大統領選挙では念願の政権交代を実現させ、さらに前回大敗した全国地方自治体選挙(6月)も圧勝に導いた。こうした実績から李代表は次期有力大統領候補の一人と目されていた。それが一転奈落の底に突き落とされることとなった。

 事の発端は昨年12月に親朴槿恵(パク・クネ)派のユーチューブチャンネル「カロセロ研究所」が「李代表が2013年にIT関連企業のアイカイストの金ソンジン代表から2回性接待を受けた」と暴露したことによる。李代表が白を切ると、同研究所の顧問弁護士らが党倫理委員会に提訴する一方で、中央地検に李代表を告発した。

 今年1月、告発を受理した中央地検はソウル警察庁にこの件を移管したが、大統領選挙で尹錫悦候補が勝利すると、カロセロ研究所は3月30日に「李代表の側近の金チョルグン代表政務室長が金ソンジン代表側と会って、疑惑を否認する一筆を取るため7億ウォンの投資誘致を確約する覚書を渡して、証拠隠滅を図った」と再度告発していた。

 金政務室長は「7億ウォンの覚書を渡したが、李代表とは一切関係がない。違法行為ではない」と反論し、李代表も「警察の捜査が始まったばかりだから捜査結果を待つべきだ。倫理委員会が警察の捜査よりも先行してはならない」と反発していたが、「カロセロ研究所」側は「金ソンジン代表が『9年前に性接待の後、朴大統領から時計を貰った』と言っていた」とユーチューブで暴露。そのため投資詐欺罪などで2016年に懲役9年、罰金31億ウォンを宣告され、ソウル拘置所に収監されていた金ソンジン代表を召喚し、問いただすと、金ソンジン代表は「李代表を通じて朴槿恵元大統領から貰った時計を保管している」との証言を行った。

 李俊錫代表は李明博(イ・ミョンパク)保守政権下の2011年2月に次期大統領選挙への出馬を準備していた朴槿恵氏にスカウトされ、2012年5月まで与党「セヌリ党」(「国民の力」の前身)の非常対策委員会委員に任命され、さらに2014年には29歳の若さで党の革新委員会委員長に就任していた。

 こうした経緯もあって当時党内では「朴槿恵キッド」とみられていたが、2016年に「朴槿恵・崔順実(チェ・スンシル)スキャンダル」が表面化した際には朴槿恵大統領を批判し、弾劾を支持する側に回り、最後は党を離れてしまった。このため親朴派から「裏切り者」扱いを受け、攻撃されていた。

 政権与党内の内紛は2024年4月に予定されている国会議員選挙の公認選定問題と関連しているとみる向きもあるが、来年1月の党大会で新たに任命される新代表の下で選定が行われることになる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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