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来月に金正恩政権11回目の軍事パレード! 注目は規模と最新兵器と「演説」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
労働党創建75周年軍事パレードに登場したICBM「火星17号」(労働新聞から)

 北朝鮮は来月、金日成(キム・イルソン)主席生誕110周年(4月15日)の記念行事としてやはり軍事パレードをやるようだ。

 米国の対外宣伝媒体である「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」の一昨日の報道(18日)によると、軍事パレード練習場の美林飛行場を16日に撮影した衛星画像には50~300人規模と推定される兵士の隊列が20個、最大で6000人の兵士が映っていたそうだ。10個の隊列が捉えられた先月に比べると兵力は倍増し、車両の数も増えているようだ。

 米韓の情報当局は北朝鮮が1月から美林飛行場で小規模単位で行進訓練を始めていたことから早ければ2月16日の金正日(キム・ジョンイル)総書記生誕80周年に軍事パレードが行われることも想定していたが、結局のところ、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は父ではなく、祖父の誕生日を軍事パレードの日に選んだようだ。

 北朝鮮は建国(1948年9月9日)以来延べ36回軍事パレードを行ってきた。金日成政権(46年間)下では15回、金正日政権(17年間)下では11回行われたが、金正恩政権(2012年~)はすでに10回も行っている。1年に1回の割合だ。

 中でも2013年(7月27日の朝鮮戦争勝利記念60周年と9月9日の建国65周年)、2018年(2月8日の朝鮮人民軍健軍70周年と9月9日の建国70周年)、2021年(1月14日の労働党第8回大会記念と9月9日の建国73周年)は2度も行われていた。また、2021年1月14日と9月9日の軍事パレードはいずれも深夜に行われていた。

 北朝鮮が4月に予定している軍事パレードも規模や開発された最新兵器に関心が向けらるが、金総書記が演説するかどうかも注目されそうだ。そこで、金正恩政権下のこれまでの軍事パレードを振り返ってみる。

▲2012年4月15日の金日成主席生誕100周年軍事パレード

 国威発揚のため外国メディアを招請し、鳴り物入りで行った人工衛星の発射(4月12日)が直前に失敗し、冷水を浴びせられる格好となったが、金総書記が初めて群衆の前で演説を行い、注目を浴びた。演説で金総書記は「軍事技術的優勢はもはや帝国主義者らの独占物ではない。敵が原子爆弾で我々を威嚇攻撃する時代は永遠に過ぎ去った」と豪語。パレードでは一度も発射実験したことのない三段式長距離弾道ミサイル「KN-08」が披露された。

▲2013年7月27日(朝鮮戦争勝利60周年)

 金総書記の演説はなく、当時軍総政治局長だった崔龍海(チェ・リョンヘ)政治局常務委員が演説を行った。陸海空の部隊によるパレードでは「放射能」標識のリュックを持った歩兵部隊が登場し、話題をさらった。

▲2013年9月9日(建国65周年)

 金総書記の演説はなく、党序列3位の朴奉柱(パク・ポンジュ)総理(当時)が演説を行った。パレードには陸海空の正規部隊は動員されず、労農赤衛隊や赤い青年近衛隊ら民兵が中心となった。

▲2015年10月10日(労働党創建70周年)

 中国の柳雲山政治局常務委員をはじめキューバ、ベトナムなど友好国の要人らが招待され、金総書記は25分間にわたって演説。「我々の革命的武装力は米帝が望むいかなる形態の戦争にも相手にすることができるし、(中略)敵らを極度の不安と恐怖に陥れている」と虚勢を張った。約2万の軍人が動員されたパレードでは無人飛行機が初めて登場し、「KN-08」の改良型である長距離弾道ミサイルがお披露目された。午後3時から始まったパレードは終了するまで3時間にわたって実況中継された。

▲2017年4月15日(金日成主席生誕105周年

 金総書記は演説せず、2013年7月の時と同様に崔龍海政治局常務委員が行った。崔氏は米国への対抗意識を剥き出しにし「米国が無謀な挑発を続けるならば、朝鮮革命勢力は即時せん滅的な打撃を加え、全面戦争には全面戦争で、核戦争には核戦争で我々式の核打撃戦で対応する」と米国を威嚇してみせた。約2時間50分にわたって行われたパレードではこの年の3月に発射され、日本の排他的経済水域に3発着弾した「スカッドER」のほかSLBMを地上型に改良した「北極星ー2型」、新型中長距離弾道ミサイル「火星12号」、準ICBM「火星14号」などが次々と登場した。

▲2018年2月8日(朝鮮人民軍健軍70周年)

 金総書記が平壌市民5万人の前で17分間演説を行い、「地球上に米帝国主義が残り、米国の敵対政策が続く限り、祖国と人民を保衛し、平和を守護する強力な保険としての人民軍隊の使命は絶対に変わることはない」と米国への対決姿勢を示した。約1万3千人の軍人によるパレードでは米韓の特殊部隊に対抗して創設されたばかりの特殊作戦軍が登場し、韓国メディアの関心を引いた。ミサイルは新型の短距離ミサイルに続いて「北極星ー2型」、「火星12号」、「火星14号」そして最後に米本土攻撃可能なICBM「火星15」が4台登場した。4台の製造番号末尾は02~05までの連番だった。移動式発射台に載った「火星12」も6基登場したが、末尾が52のものがあった。トレーラーに載せられた「火星14」も末尾が14のものもあったが、北朝鮮がその数だけをすでに生産しているのかは不明。

▲2018年9月9日(建国70周年)

 中国全人代の栗戦書委員長、ロシア連邦議会のワレンチナ・マトヴィエンコ議長ら外国から招待客を招いて行われた軍事パレードでは党序列No.2の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が演説を行った。トランプ政権への配慮もあって弾道ミサイルは登場せず、主に地対空短距離ミサイル「KN-06」,300ミリ多連装ロケット砲「KN-09」など自衛用の在来式兵器が中心となった。トランプ大統領は北朝鮮が弾道ミサイルを登場させなかったことについて「とても前向きな意思表示だ。金正恩よ、ありがとう」とツイートしていた。

▲2020年10月10日(労働党創建75周年)

 午前7時半に開始。初めて国家独奏があった。金総書記は25分間演説し、「三重苦は人民に負担を強いた」と涙ぐみ、「力不足で申し訳ない」と謝罪した。最後に「これからは人民生活向上に力を入れる。第8回党大会はそれが目的である。時間は我々の側にある」と述べて演説を締めくくった。パレードには約1万3千人の軍人が動員され、115mm砲と対空ミサイルを装着した新型戦車「千馬216」、「北朝鮮版ストライカー」と称される電子砲装着の新型装甲車、600mm超大型ロケット装輪式5連装発射機、新型の対艦ミサイル発射機、トール地対空ミサイル、新型潜水艦弾道ミサイルSLBM「北極星―4型」、「火星12」、「火星15」そして、韓国で「怪物ミサイル」と称されている新型のICBM「火星17」が11軸22輪の発射台に乗せられ初登場した。

▲2021年1月14日(労働党第8回大会記念)

 午前0時に始まった軍事パレードでは金総書記は演説を行わず、金正官(キム・ジョングァン)国防相が代行した。パレードの規模も大幅に縮小され、兵士の数も8千人程度だった。新型5軸10輪の車載式弾道ミサイルの他に北朝鮮版「イスカンデル」と称されている新型戦術誘導兵器「KN-23」、北朝鮮版「ATACMS」と称されている新型戦術誘導弾「KN-24」及びそれら改良型、新型の地対空ミサイル、空対地巡行ミサイル、新型潜水艦発射弾道ミサイル「北極星―5型」が登場した。

 ※金総書記は党大会で「国防科学発展及び兵器システム開発5か年計画」を示し、▽核兵器の小型・軽量化と超大型核弾頭の生産▽極超音速滑空ミサイル導入▽1万5千kmの射程圏内を正確に打撃できるICBMの保有▽原子力潜水艦とSLBMの保有▽軍事偵察衛星の保有を5大課題に掲げていた。

▲2021年9月9日(建国73年記念)

 深夜未明に始まった。金総書記は演説せず、勤労団体担当の李日煥(リ・イルファン)党書記が代行した。パレードも軍主導ではなく、党が主体となり、党序列3位の趙甬元(チョ・ヨンウォン)政治局常務委員が統括し、労農赤衛隊や赤い青年近衛隊ら民兵が行進した。登場した兵器は軽装備のほかに122mm多連装ロケットや対戦ミサイルなど在来式兵器で、戦略ミサイルやSLBMなどは登場しなかった。

 なお、軍事パレードは米朝開戦危機にあった2017年までは生中継されていたが、2018年からはすべて録画中継に変わった。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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