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韓国大統領選「ダークホース」として急浮上した安哲秀候補の「対日観」 親日?反日?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
忠清南道の国立墓園で夫人と共に慰安婦の墓参りをしている安哲秀候補(国民の党提供)

 韓国大統領選挙(投票日3月9日)まで2か月を切った。

 大統領選挙は与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補と最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソッキョル)候補の一騎打ちとみられていたが、年明けと同時に第2野党「国民の党」から出馬している安哲秀(アン・チョルス)候補が「ダークホース」として注目を浴びている。支持率が急上昇し、二桁に乗ったからである。

 世論調査会社「韓国ギャラップ」が1月4~6日にかけて実施し、7日に公表された調査結果によると、安候補の支持率は15%。昨年12月中旬の調査から5%上昇した。特に20代では14ポイントアップの23%に達していた。候補者の好感度に関する調査では、安候補は38%の支持を得て、36%の李候補と25%の尹候補を押さえてトップに躍り出ていた。

 安候補の支持率の急増は「保守層の希望の星」と称されていた尹候補の急落と直結しているようだ。

 現在の二人の支持率を比べると、尹候補が35.2%、尹候補が15.1%と、20ポイントも差が開いているが、37.6%の李候補に勝つため野党候補の一本化が不可欠である。その場合、大が小を吸収し、野党第1党の尹候補が統一候補として担がれてしかるべきだが、必ずしもそうなるとは限らない。安候補の可能性も多分に考えられる。

 世論調査機関「R&サーチ」が「毎日経済」と系列の放送局「MBN」の委託を受けて4~5日にかけて有権者約1千人を対象に行った世論調査結果が6日に公表されたが、それによると、43.5%が「安候補で一本化すべき」と回答し、「尹候補を単一候補とすべき」は32.7%しかなかった。また「競争力のある統一候補として」は安候補を選んだ人が43.4%、尹候補を選んだ人は35.8%で、安候補が尹候補を7.5ポイントも上回っていた。

 直近のCBSの調査(7-8日)では安候補で一本化し、李候補と対決した場合の支持率は、李候補の28.9%に対して安候補は42.3%と、なんと13.4ポイントもリードしていた。

(参考資料:絶体絶命の保守の尹錫悦候補 韓国大統領選レースから落馬も! 野党候補一本化の流れは中道の安哲秀候補へ

 安候補の大統領選挑戦は今回で2度目だ。

 前回(2017年5月)は序盤戦では最有力視されていたが、選挙戦終盤に失速し、3位に終わった。ちなみに得票率は「共に民主党」から出馬し、当選した文在寅(ムン・ジェイン)候補が41.08%、保守系「ハンナラ党」洪準杓(ホン・ジュンピョ)候補が24.03%、そして安候補が21.41%だった。もし、洪候補と安候補が一本化していたならば、文氏の当選はなかった。

 尹候補と安候補は「反文」「政権交代」では足並みを揃えているが、公約や政策は異なっている。理念も信条も哲学も異なっている。

 日本のメディアは安候補を中道もしくは保守中道とみなしているが、そもそも安候補は2015年までは文大統領と同じ革新系政党「新政治民主連合」(「共に民主党」の前身」)に属していた。同じ釜の飯を食った仲間であり、2011年のソウル市長選挙でも2012年の大統領選挙でも自らの出馬を取り止め、同じ党に属していた朴元淳(パク・ウォンスン)候補、文在寅候補を全面支援していた。

 根っ子は同じだ。文候補が急進左派ならば、安候補は本質的には穏健左派と言っても過言ではない。文大統領が「左」だから、選挙対策上「中道」を選択しているに過ぎない。何よりも、安候補を担ぐ「国民の党」の最大の支持地盤は全羅道で、金大中(キム・デジュン)元大統領の流れを汲んでいる。同党は前回(2020年4月)の国会議員選挙で大敗し、3議席と少数野党に転落しているが、結党直後に行われた第20代国会議員選挙(2016年4月)では全羅道を中心に38議席を獲得していた。

 安候補は文政権の失政の象徴である不動産問題をはじめ住宅問題、失業問題、コロナ防疫などについては正面から批判しているが、外交、安全保障については公約を含め自身の考えをまだ明らかにしていない。それだけに、日本にとって気になるのは安候補の対日観である。

 安候補は昨年12月に韓国日報主催のフォーラムで日韓関係について自身の考えを明らかにしていた。およそ次のようなことを言っていた。

 ・韓日共に民族主義的理念や非妥協的な名分を押し出せば、両国関係は破綻し、損を見る。

 ・過去が未来の足枷とならないよう韓日共に指導者がリーダーシップを発揮しなければならない。

 ・日本との関係では「ツートラックの実利外交」を行う。

 ・過去を直視し、経済、化学、国防分野では協力関係を築く。

 ・韓日関係を「金大中―小渕パートナシップ宣言(1998年)」を行った時代に戻す。

 ・良好なパートナー関係を築いたドイツとイスラエルをモデルにする。

 総論では、他の候補とは変わらない。誰もが日韓の現状を憂い、未来志向の関係を築くと公言している。「ツートラックの実利外交」については文政権も追求していた。それが叶わないのは元慰安婦問題や元徴用工問題など各論での対立が解けないことにある。

 過去の発言から検証すると、安候補は李候補ほど強硬ではないが、慰安婦問題や領土問題での対応ではさほど変わらない。

 安候補は2013年8月10日に行われた日本軍慰安婦歴史館の開館15周年記念式典における挨拶で日本政府に対して「反省のない国は未来に進めない」として慰安婦への公式謝罪を求めていた。また、前回の大統領選挙では朴槿恵政権下で交わされた「日韓慰安婦合意」については「破棄」を主張していた。大使館や釜山領事館前に設置されている少女像の撤収にも反対の立場だった。数日前(7日)にも忠清南道天安市の国立墓園(望郷の山)に設置されている慰安婦らの墓参りをしたばかりだ。

 領土問題でも譲る気はない。前回の大統領選挙では『独島(竹島)問題』を公約に掲げていた。

 昨年5月に東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の公式ホームページの日本地図に竹島(韓国名:独島)が表示されている問題が沸騰した時、安候補は「我が政府の是正要求を(日本が)黙殺するのは主権、領土対する明白な否定であり、挑発行為である」と断じて、国会に対して「本会議を開き、日本の領土侵害行為に対して即時撤回と削除を要求すべき」と強硬論を唱えていた。

(参考資料:失言のオンパレードで支持率が急落 尹錫悦候補の失言「ワースト10」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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