土壇場での対南軍事作戦の「保留」は北朝鮮得意の「手のひら返し」外交! 

6月7日に開かれた労働党政治局会議での金正恩委員長(労働新聞から)

 北朝鮮が朝鮮戦争勃発70周年にあたる今日(25日)にも予定していた文在寅大統領を批判するビラ巻きを土壇場で保留した。金正恩委員長が妹の与正第一副部長から委託されて作成した軍総参謀部の対南軍事作戦にゴーサインを出さなかったということだ。これにより、高まりつつあった南北の軍事・政治的緊張は、少しは収まるようだ。

 保留の理由について韓国では様々な推測、憶測が流れているが、金委員長は何一つ語ってない。途中で気が変わったのか、あるいは最初からやる気がなかったのか、本人以外は誰にもわからない。

 しかし、豹変というか、ドタキャンはこれまでも何度も目の当たりにしてきたからさほど驚きではない。政府や軍、国営メディアや労働新聞が何を言おうが、書こうが、北朝鮮は金委員長の一言で全てがひっくり返ってしまう国なのである。毎度お馴染みのパターンをまたも、見せつけられたに過ぎない。言わば、北朝鮮得意の「手のひらh返し」外交である。その前例を幾つか挙げてみる。

 2010年12月

 朝鮮戦争以来、初めて北朝鮮が韓国の島に砲撃した「延坪島事件」(2010年11月23日)の発端は延坪島周辺での韓国軍の射撃訓練が発端だった。事件後も韓国軍は射撃訓練を続行したが、「射撃訓練を中止しなければ、第2、第3の予想できない自衛的打撃を加える」と宣言していた北朝鮮は最高司令部(最高司令官:金正恩委員長)が「韓国の挑発にいちいち応じる価値もない」として、対抗措置を取らなかった。

 「今後も、我が祖国の領海を0.001ミリでも侵犯するなら、躊躇せず無慈悲な軍事的対応攻撃を引き続き加える」と威嚇しながらも手を出せなかった理由については韓国では▲最初からその気がなかった▲韓国が領海線と主張している北方限界線(NLL)の問題点を国際社会にアピールするという目的を達成したため▲韓国の「挑発すれば、戦闘機による空爆も辞さない」との脅しに屈したからなどの説が流れたが、不明のままに終わった。

 2013年8月

 この年の米韓合同演習は北朝鮮がNLL周辺で武力挑発を行った場合、北朝鮮の砲兵部隊だけでなく、その周辺の兵站施設や4軍団司令部まで叩く訓練であった。演習にはFー22ステルス戦闘機、核戦略爆撃機Bー52、ステルス戦略爆撃機Bー2、イージス駆逐艦「ラッセン」や「フィッツジェラルド」などが投入された。

 米韓が演習に戦略爆撃機を投入すると、金正恩委員長は「我々の忍耐にも限界がある」との談話を発表し、戦略ロケット部隊に「1号戦闘勤務体制」を発令し、25日の「先軍の日」には新たに建造された戦闘艦の機動訓練を指導していたが、結局は口だけで、手を出さなかった。

 2015年8月

 この年の8月、北朝鮮は韓国の拡声器放送を問題にしていた。北朝鮮人民軍総参謀部は「48時間内に宣伝施設を撤去しなければ軍事行動を開始する」と警告し、拡声器を照準打撃するための76.2mm牽引砲を非武装地帯に配備する一方で火力兵器部隊が最前線に移動し、短・中距離ミサイルを北朝鮮南東部の元山、北西部の平安北道に配備し、発射準備に入った。

 韓国もまた朴槿恵大統領の出席の下、国家安全保障会議が地下バンカーで開かれ、全前線に最高レベルの警戒態勢を敷き、陸軍のコブラ(AH1S)攻撃ヘリコプターと空軍の戦闘機を緊急出撃させた。

 南北は非武装地帯を挟んで一触即発の状態となったが、この時も北朝鮮が引いたことで事なきを得た。南北高位級会談が電撃的に開かれ、北朝鮮の地雷爆発(8月4日)により韓国兵2人が負傷したことについて北朝鮮が遺憾を表明したことで韓国が拡声器放送の中止に同意し、土壇場で軍事衝突が回避された。

 2017年8月

 トランプ大統領と金正恩委員長との究極のチキンレースが展開されていた8月8日、北朝鮮戦略軍は準ICBM級ミサイル「火星12」4発によるグアム周辺への包囲射撃計画を発表した。

 

 核戦略爆撃機があるアンダーセン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧、牽制し、米国に重大な警告シグナルを送るためグアム周辺への包囲射撃を断行する計画で、4発は「島根、広島、高知を通過し、射程距離3,356.7kmを17分45秒間飛行した後、グアム周辺30~40km海上に着弾する」と予告していた。

 戦略軍の金洛顕司令官は8月中旬まで作戦計画案を最終完成させ、核兵力総司令官である金委員長に報告し、「発射待機態勢で命令を待つ」と言っていたが、この発言から4日後に戦略軍司令部を訪れた金委員長は「もう少し(米国の出方を)見守る」とグアム包囲作戦計画を留保した。トランプ大統領は「非常に賢明で、理にかなった判断だ」として褒めていた。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(近著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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