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映像から見て取れた「金正恩消息不明」の原因!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
肥料工場を見て回る金正恩委員長(労働新聞から)

 月が替われば、動静不明から3週間となるので、前例からして「もうそろそろ出て来ても良さそうなものだ」とみていたが、予想した翌日の5月1日に金正恩委員長が姿を現した。

 メーデーのこの日、金委員長は完成したばかりの平安南道順川市にある肥料工場の完工式に出席した。妹の金与正党第1副部長、朴奉珠党副委員長、金在龍首相、趙勇元党第1副部長らが随行していた。同工場には1月6日に仕事始めとして訪れ、建設現場を見て回っている。この時は金在龍総理が行動を共にしており、妹も朴党副委員長も同行していなかった。

 金委員長が公式の場に姿を現したことで健在が確認されたわけだが、では、3週間一体、何をしていたのか?4月15日の祖父(金日成主席)の誕生日の際の恒例の錦繍山太陽宮殿参拝をなぜ欠席したのか?これら疑問は謎のまま残っている。

 昨日付けの労働新聞には肥料工場視察に関連した写真が21枚載っていた。前回(1月6日)の視察よりも10枚も多かった。内外で駆け巡っていた健康不安説を払拭したいとの意図が垣間見えた。そのことは、北朝鮮が矢継ぎ早に動画を公開したことからも窺い知れる。現地視察、それも地方視察の映像をその日のうちに公開するのは極めて異例である。

 約14分にわたる動画を検証してみたが、金委員長の健康状態に「異常」は見られなかった。

 ロイター通信が4月12日に「金正恩が心臓手術を受けた」との情報を伝えたのを皮切りに韓国の北朝鮮専門ウェブニュース「デイリーNK」が8日後に「今月12日、(平安北道の)香山の病院で心血管疾患の手術を受けた」とそれらしき情報を流し、それに乗っかった米CNNが翌21日に「金正恩氏が手術を受け、手術後に合併症が発症し、危機状態にある」と伝え、挙句の果てに米NBCのニュースの記者までもが「正恩氏は脳死状態にある」とツイートしたことで世界に伝播された「金正恩重篤説」は「大山鳴動鼠一匹出ず」で結局のところガセであった。

 

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 映像を検証する限り、顔の歪みもなく、テープカットに臨んでいることからも明らかなように手も麻痺しておらず、朴副委員長の演説中に何度も拍手するほど手も自由自在に動かしていた。また、側近らを相手に談笑し、工場を視察中に現場責任者らに指示を与えるなどぺらぺら喋っていて、言語障害もなさそうだった。(画像は「朝鮮中央テレビ」から)

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  極めつけは、喫煙していたことだ。金委員長はヘビースモーカーで知られているが、それでも「心臓血管の外科手術を受けた」筈の患者が1か月もしない間にタバコをぷかぷか吸うことが果たして可能だろうか?(※画像は「朝鮮中央テレビ」から)

 脳や心臓に問題がないとすると、消去法から考えられるのは足の持病が悪化し、歩行困難となった可能性だ。

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 ファンファーレと共に登場した金委員長がひな壇に向かって極めて緩やかなスロープを歩くシーンが映し出されていたが、若干左足を庇うように歩いていた。他の場面でも左足よりも右足に重点を置くような仕草だった。工場の敷地が広いことから移動には6人乗りの常用カートが使われていたが、前回の視察では使われてなかっただけに今回は金委員長の足に負担がかからないように配慮されたのかもしれない。結論から言うと、今回の長期不在は2014年に9月から10月にかけて40日間もの動静不明の原因となった痛風か何かの足の持病が再発した可能性が考えられる。(※画像は「朝鮮中央テレビ」から)

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 それにしても不可解なのは、3月17日の平壌での総合病院の着工式同様に今回の肥料工場の完工式でも1万人近い群衆が動員されていたが、全員がマスクを着用していたのに金委員長をはじめ妹の与正ら随行した幹部誰一人マスクをしてなかったことだ。実に奇妙な現象だ。

 日本も、韓国も含め世界中が感染を防ぐため「3密」や「ソーシャル・ディスタンス」を徹底させている最中に北朝鮮だけが唯一1か所に1万人も集めることができるわけだから本当に新型コロナウイルスが北朝鮮に蔓延し、多くの感染者が発生しているのだろうかとの素朴な疑問を抱かざるを得なかった。

 まして、金委員長が現れた肥料工場のある順川市は平安南道にあり、平安南道は「医学的監視対象者」が3月20日時点での北朝鮮当局の公式発表では平安北道と合わせて約4300人と全国で最も多い地域である。最も感染リスクの高いところにマスクもせずに現れたのだからコロナ感染を恐れての「疎開説」も今一つ、説得力に欠ける。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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