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反米国家「北朝鮮―イラン」の対米不協和音

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
李容浩外相とモハンマドジャバド・ザリフ外相(IRNA)

 シンガポールで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)に出席した李容浩外相は7日、帰途イランに立ち寄り、モハンマドジャバド・ザリフ外相と会談した。

 かつてブッシュ政権からイラクと並び「悪の枢軸」とのレッテルを張られた北朝鮮とイランは1979年のイラン革命によるホメイニー政権発足以後同盟関係にあり、核とミサイル開発でも協力関係にはあるが、対米外交(核交渉)では共同歩調を取っているとは言い難い。

 ▲北朝鮮とイラン

 例えば、イランは2015年7月15日、国連安保理の経済制裁発動から9年目にしてオバマ政権下の米国を相手に制裁解除を条件に核保有、核武装をしないことを宣言したが、このイランの決定に北朝鮮外務省は7月21日、「イランの核合意は自主的な核活動権利を認定させ、制裁を解除するための長期間の努力で得た成果である」とイランへの配慮から一定の評価をしつつも「イランの次は北朝鮮」との国際社会の声に「イランと我々とは実情が異なる。結び付けること自体が話にならない」との談話を出して、反発していた。

 「名実共に核保有国であり、核保有国には核保有国としての利害関係がある」と、まだ核を保有してないイランとの違いを殊更強調した上で「一方的に先に核を凍結したり、放棄したりすることを論じる(米国との)対話には全く関心がない」とイランに倣う気がないことを明かにし、「一方的に、先に核を凍結、放棄した」イランへの不快感を示していた。

 北朝鮮は「我々の核抑止力は我が国の自主権と生存権を守るための必須手段であって交渉のテーブルに乗せ、取引することはない」と突っ張っていたが、3年経った今年6月12日、金正恩委員長はシンガポールでトランプ大統領に会い、米国による安全保証を担保に「完全なる非核化」を約束してしまった。

 すると、今度は、イランが「朝鮮半島の平和と安定を望み、それに寄与する措置を歓迎する」としながらも「北朝鮮の指導者はどのような種の人間と交渉しているのか分かっているのか」と金正恩委員長がトランプ大統領を相手に会談したことに不満を示し、北朝鮮に対して「米国の本質は楽観できるものではなく、注意深く対応すべきだ」と注文を付けていた。

 イランは金委員長が求めた米朝首脳会談について「米国の振る舞いや意図については懐疑的であり、極めて悲観的に見ている」と冷淡な反応を示す一方で、トランプ政権の「イランが望めば会う」との対話の呼び掛けに最高指導者ハメネイ師直属の精鋭軍事組織「革命防衛隊」のジャファリ司令官は「イランは会談を受け入れた北朝鮮とは違う」と、3年前の北朝鮮と同じようなことを言っていた。

 振り返れば、対米交渉をめぐる「反米国家」の北朝鮮とイランの足並みの乱れは、かつて「反米同士」であった北朝鮮とリビアのそれと酷似している。

 ▲北朝鮮とリビア

 北朝鮮が1994年10月、クリントン政権下の米国とジュネーブで体制保障を条件に核放棄の合意を交わした際、当時リビアの最高指導者だったカダフィ大佐は北朝鮮を辛らつに非難した。

 カダフィ大佐は「昨日まで反米国家だった北朝鮮は金日成主席が死ぬや反帝国主義の路線から離脱し、米国の浸透を許している」と激怒し、「北朝鮮の反帝国主義路線は詐欺だった。北朝鮮の国民は金正日に騙されている」と金正日政権を扱き下ろした。

 「反帝・反米」の旗印の下で長い間、同盟関係にあっただけにアジアの「反米チャンピオン」の「核放棄」決断はカダフィ大佐には「背信行為」に映っていた。しかし、それから9年後、今度は一転、リビアが米国と交渉を開始し、核放棄の決断を行った。

 カダフィ政権は2003年12月に核計画放棄を宣言すると共にブッシュ政権に大量殺傷兵器(WMD)の破棄を約束し、翌年(2004年)国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れ、大量破壊兵器関連施設の廃棄に着手した。経済制裁の緩和と外交関係の回復及びテロ支援国リストからの解除を取り付けるための「究極的な選択」であった。

 カダフィ大佐は前言を翻し、北朝鮮に対して「核査察に開放的であるべきだ。自らの国民に悲劇が降りかかるのを防ぐためにも北朝鮮は我々を見習うべきだ」とリビアに倣うように進言したが、今度は金正日総書記が労働新聞を通じて「帝国主義者の威嚇・恐喝に負けて、戦う前にそれまで築いてきた国防力を自分の手で破壊し、放棄する国がある。恥知らずにも、他の国に対して『模範』に見習えと、勧告までしている」とカダフィ政権を痛烈に批判していた。

 この応酬後、両国の関係は半ば絶縁状態に陥っていたが、2011年10月にカダフィ大佐が米仏の支援を受けた反政府勢力によって拘束、殺害され、42年間続いたカダフィ政権が終焉してしまった。

 北朝鮮は当時、崩壊したカダフィ政権について「制度転覆を企図する米国と西側の圧力に屈し、あちこち引きずられ核開発の土台を完全に潰され、自ら核を放棄した結果、破滅の運命を避けることができなかった」との烙印を押していた。

 イランはトランプ政権がイラン核合意からの一方的な離脱を表明したことから「この男(トランプ大統領)は米国民を代表しておらず、有権者が次の選挙で距離を置くことは明白だ」と、「トランプ相手にせず」との立場でいるが、北朝鮮は金委員長がトランプ大統領宛の親書でトランプ大統領を「強い意思と誠実な努力」の持ち主であると評価し、トランプ大統領を相手にする立場を鮮明にしていることから李外相の今回のイラン訪問の結果が注目される。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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