恥も外聞も捨てたなりふり構わぬ「金正恩3度目の訪中」

習近平主席の手を両手で握る金正恩委員長

 金正恩委員長が3月(25-28日)、5月(7-8日)に続き6月19日に一泊二日の訪中を終え、20日に帰国した。

 北京滞在中に習近平主席と会談した際、朝鮮中央テレビは報じなかったものの中国中央テレビによると、金委員長は「中国は我々の友好的で偉大な隣国だ。習近平国家主席は我々が非常に尊敬する偉大な指導者だ。私は習主席、中国の政党、政府、人民に対し、私個人と朝鮮労働党、北朝鮮の人民への誠実な友情と長期にわたる貴重な支持に感謝する」と述べたそうだ。また、宴会でのスピーチでは中朝は同じ屋根の下で暮らす家族同然であるとの趣旨の発言をしたうえで「今後中国同士らと一つの参謀部で緊密に協力し、協同する」と誓っていたそうだ。

 

 「不倶戴天の敵」であったトランプ大統領との首脳会談を例に取るまでもなく、北朝鮮の「手のひら返し外交」は「瀬戸際外交」と並ぶ伝統、お家芸ではあるが、それにしてもこの豹変ぶりは半端ではない。

 父親の金正日総書記は1994年から2011年の17年間の任期中、訪中は2000年(5月)、2001年(1月)、2004年(4月)、2006年(1月)、2010年(5月、8月)、2011年(5月)の計7回しかない。

 息子の金正日委員長同様に金正日総書記も1994年7月に政権を継承してから6年間、中国には行かなかった。また、2010年に限って2度、中国に足を運んでいたが、金正恩委員長のように40日置きに立て続けに3度も訪中することは一度もなかった。中国の最高指導者は2005年の胡錦涛主席以来13年間、訪朝してないだけに北朝鮮による「一方通行」は外交関係上、まさに異常である。

 祖父の金日成主席は生前、同盟国の旧ソ連と中国が韓国と国交を結んだことに衝撃を受け「大国は自らの国益のため同盟国を犠牲にする。永遠の友はいない」と後悔し、また父の金正日総書記も「中国は決定的な段階で我々を裏切る。中国を信用してはならない」との言葉を残していた。

 実際に金正日総書記は北朝鮮初の核実験への国連制裁決議に中国が同調した際には労働新聞を通じて「大国の顔をうかがい、大国の圧力や干渉を受け入れるのは時代主義の表れである。時代主義は支配主義の案内人で、その棲息の土壌となる。干渉を受け入れ、他人の指揮棒によって動けば、自主権を持った国とは言えない。真の独立国家とは言えない」と中国と距離を置いていた。

 また、2009年にも米国が主導する国連制裁決議「1874」に中国が賛成した時は「大国がやっていることを小国はやってはならないとする大国主義的見解、小国は大国に無条件服従すべきとの支配主義的論理を認めないし、受け入れないのが我が人民だ」(労働新聞)と中国への猛反発を露わにしていた。

 金正恩委員長も当初は、この教えを忠実に守り、従っていた。

 政権発足直後の2012年4月、ミサイル(衛星)発射で安保理議長声明が出された時は「常任理事国が公正性からかけ離れ、絶え間ない核脅威恐喝と敵視政策で朝鮮半島核問題を作った張本人である米国の罪悪については見て見ぬふりして、米国の強盗的要求を一方的に後押ししている」と中国への不満を露わしていた。

 翌2013年に制裁決議「2087」が採択された際には「間違っていることを知りながら、それを正そうとする勇気も責任感もなく、誤った行動を繰り返すことこそが、自身も他人も騙す臆病者の卑劣なやり方」(23日の外務省声明)と糾弾し、翌24日の国防委員会の声明では「米国への盲従で体質化された安保理事国らがかかしのように(決議賛成)に手を挙げた」と中国を「米国のかかし」とまで言い放っていた。

 さらに、2016年1月のテポドン発射を非難された際には労働新聞を通じて「我々は自らの力で暮らしており、誰の目も気にせず、誰にもぺこぺこと頭を下げることなくすべてのことを我々の意図、我々の決心、我々の利益に沿ってやっている。外部の支援はあっても、なくても良いというのが我々の決心である」と虚勢を張ってみせていた。

 一番記憶に新しいのは昨年4月の朝鮮中央通信の「我々の意志を誤判し、どこかの国(米国)に乗せられ、我々に対して経済制裁に走れば敵から拍手喝さいを浴びるかもしれないが、我々との関係に及ぼす破局的な関係を覚悟せよ」(21日)との警告だ。

 翌5月3日には労働新聞を通じて「朝中親善がいくら大事とはいえ、命である核と変えてまで中国に対し友好関係を維持するよう懇願する我々ではない」「制裁を強めれば手を上げて、関係復元を求めてくると期待することこそ子供じみた計算である」として中国が説得しようが、圧力を加えようが「国家の存立と発展のための我々の核保有路線を変更することも揺るがすこともできない」と豪語していた。

 「米国の卑劣な脅迫と要求に屈従し、血で結ばれた共通の戦利品である貴重な友誼関係を躊躇うことなく放り出している」として「反共和国制裁決議のでっち上げに共謀した国」「米国の卑劣な脅迫や要求に屈従した臆病者」「公正性を投げ捨てたかかし」とまで罵倒していたその中国に米国との非核化交渉に向けての「用心棒」としてまた経済面でのパトロンの役割を期待してのものであろうが、3度も詣でし、恥も外聞もなく、協力を懇願する姿はなんとも哀れ極まりない。

 なんだかんだ言っても、北朝鮮にとって中国はまさに「仏様、神様、中国様」なのかもしれない。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

有料ニュースの定期購読

「辺真一のマル秘レポート」サンプル記事
月額540円(初月無料)
月3、4回程度
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。

世界を発見する、想いを伝える