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トランプ政権が平昌五輪後に密かに検討している「鼻血作戦(戦略)」とは!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
バンカーバスターの破壊力

 米国の次期駐韓大使に内定していた元6カ国協議次席代表のビクター・チャ氏が内定を取り消された理由がトランプン政権の対北軍事オプションの一つである「鼻血(ブラッディ・ノーズ Bloody nose)戦略」に異を唱えたことにあると報道されている。

 平昌五輪の開幕式に出席するアントニオ・グテーレス国連事務総長は2日、国連本部での韓国特派員らとのインタビューで北朝鮮の核問題を解決する手段として「良い軍事手段」としてトランプ政権内で検討されているこの「鼻血戦略」、又は「鼻血作戦」について「非常に悲劇的な状況の始まりとなる」と述べ、反対の立場を表明していた。

 ホワイトハウスは「鼻血作戦」について「あずかり知らない」としてトランプ政権内では「一度も使ったこともない概念である」と否認しているが、この用語を最初に使ったのはどうやら英国のメディアで、米国の予防攻撃を称して使ったことからその後、独り歩きしてしまったようだ。しかし、この言葉が現実味を帯び始めたのは今年1月8日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙の報道がきっかけで、同紙は「米国の一部高官が全面戦争を避けた北朝鮮先制攻撃を論議している」として、彼らはこの方法を「鼻血作戦」と呼んでいると伝えていた。

 「鼻血作戦」とは先に殴って、出血させることで震え上がらせ、反撃する気を喪失させる作戦のことである。あるいは、相手の報復を招かないレベルでの制限的打撃を加え、反撃したら、破壊も辞さないとの警告を発する作戦を指す。どちらにしても、先制攻撃であることには変わりはない。

 ホワイトハウス内でこの作戦を強く進言しているのはマクマスター大統領補佐官とポンペオCIA長官、それにNSC(国家安全保障会議)アジア担当専任補佐官ポッティンジャーら強硬派と囁かれている。「ソウルに重大な脅威を与えない軍事オプション」を公言しているマティス国防長官もトランプ大統領が決断すれば、従う考えのようだ。

(参考資料:「北朝鮮を容赦しない」一般教書演説で見せたトランプ大統領の「本気度」

 「鼻血作戦」を実行に移す場合の攻撃対象としては米国が死活的脅威とみなしている核とミサイル施設が挙げられている。北朝鮮の核とミサイルは米国にとっての言わば、がん細胞でこれを外科手術で摘出するのが「鼻血作戦」の目的である。

 米国はすでに寧辺の核施設と咸鏡北道の豊渓里にある核実験施設、ミサイルが貯蔵されている平壌の山陰洞にある兵器研究所と日本海に面した新浦の潜水艦弾道ミサイル(SLBM)基地などのリストアップを終えているとされているが、北朝鮮からの報復という万一の場合も想定して、北朝鮮の施設への空爆ではなく、50年前に北朝鮮に拿捕されたまま返還されず、北朝鮮の軍事勝利品として展示され、一般公開されている米情報収集艦「プエブロ号」を爆撃、撃沈する案も検討されているようだ。どちらにしても、あくまで見せしめのための攻撃が「鼻血作戦」のようだ。

 攻撃手段として巡航ミサイル50~80発搭載しているイージス艦や原子力潜水艦、合同直撃弾JDAMを搭載した米国の誇る「F-22」最先鋭ステルス戦闘機や930km離れた場所から半径2~3km内で精密打撃が可能で、地下施設を貫通する空対地巡航ミサイル24基が搭載された「B-1B」戦略爆撃機、さらに空対地ミサイルを搭載した垂直離着陸可能な「F-35B」ステルス戦闘機などが動員される。

 米国はすでに米本土から「B―2」核戦略爆撃機を3機、射程200~3000kmの空対地ミサイルを搭載した「B-52」核戦略爆撃機を6機、そして「B―2」だけに搭載される地下60メートルまで破壊できるバンカーバスター(GBU-57 MOP)もグアムに移して、実戦配備していると言われている。

 爆撃機24機、対潜ヘリ10機、早期警報器4機を含め90機が搭載されている原子力空母「カールビンソン」もすでにグアムに到着しており、これから朝鮮半島に向かう。原子力潜水艦も佐世保に寄港しており、「F-22」も2機が沖縄の嘉手納基地に配備されている。トランプ大統領の命令が下れば、いつでも作戦遂行は可能だ。

 米国のコラムニストであるデイビッド・イグナティウ氏は米紙「ワシントン・ポスト」(2月2日)での記事で「トランプ政権が北朝鮮攻撃を望むなら、何よりもイスラエルの教訓から学ぶべきである」として「鼻血作戦」に早まらないよう警告を発しているが、その教訓とは「(鼻血作戦は)迅速な打撃という利点はあるものの一旦攻撃を開始すれば、衝突を回避できないのがイスラエルの教訓である」と同氏は指摘している。

 国家安保研究所(INSS)の会議出席のためイスラエルのテレアビブを訪問したイグナティブ氏はこの「鼻血作戦」が会議での討論の中心テーマになったとして「イスラエルの事例」を通じて▲即時攻撃する場合、事前に知られないこと▲攻撃目標への十分な情報を持ってなければ攻撃しないこと▲敵が血まみれになれば戦争に引きずりこむことはないだろうと即断しないことであるとの三つの教訓をあげている。何よりも、「北朝鮮はイスラエルが過去に攻撃した敵(イラクやシリア)らと違って、核兵器を保有していることを留意すべきである」と同氏は警鐘を鳴らしている。

 トランプ大統領は1981年にイスラエルがイラクのオシラク原子炉を爆撃したことについて「国際社会から非難されたが、イスラエルは生存のためにするべきことをした」と当時、評価していた。

(参考資料:トランプ政権への北朝鮮の7枚の「対抗カード」

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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