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北朝鮮の「次なる手」にトランプ政権の対応は?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
アンドリューズ空軍基地で戦略爆撃機「B-2」をバックに演説するトランプ大統領

 太平洋上の米軍基地であるグアムを制圧するための中距離弾道ミサイル「火星12号」の発射成功に気を良くした金正恩委員長は核戦力の完成目標が「終着点にほぼ達した」と豪語し、米国との力の均衡を成し遂げるため「最終目標に向け、国家の総力を挙げるよう」指示した。

 北朝鮮の究極的標的はグアムではなく、米本土であることから北朝鮮の最終目標が「米国が耐えられない核反撃を加えられる攻撃能力」(金委員長)である核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の保有であることは言うまでもない。従って、次はICBMである2段式の「火星14号」の発射に取り掛かるだろう。さらに、三段式の「火星13号」に続き、新型の潜水艦弾道ミサイル「北極星3号」の発射もあるだろう。

 一度も発射実験していない「火星13号」や「北極星3号」と異なり、「火星14号」はすでに7月4日、28日と2度にわたってロフテッド方式による発射実験を行って、いずれも成功させている。

 慈江道・舞坪里からの2度目の発射では、飛行時間は47分12秒で高度は3,724km、水平距離は998.47kmあった。通常角度で発射すれば、飛行距離は1万km以上と言われ、米本土に届く。

 「北朝鮮が核ミサイルをシカゴとロサンゼルス、ニューヨークに落とす能力を備えることになれば、その時はこの狂った人たちとの交渉は効果がないだろう」と考えているトランプ大統領はこの発射を果たして傍観するだろうか?

 米CNNは16日、「火星12号」発射を機にトランプ政権が対北軍事オプションの討議を始めたと伝えていた。米政府高官の言葉を引用し「トランプ政権は北朝鮮が休戦ライン北側に配置されている数千発の大砲を破壊する可能な手段を吟味し始めた」として「この場合、最新のF-35戦闘機と、B-2ステルス戦略爆撃機が動員される可能性が高い」と報じていた。

(参考資料:軍事オプションに傾くトランプ大統領

 トランプ大統領は「火星12号」発射直後にワシントン近郊のアンドリューズ空軍基地を訪れ、「軍事オプションの手段」として検討されている戦略爆撃機「B-2」をバックに演説し、「敵の挑発を木っ端みじんにしてみせる」と息巻いていた。さらに、「火星12号」発射成功にガッツポーズする金委員長に対して「米戦闘機と爆撃機のエンジンの轟音を聞けば身が震え、審判の日が来たことを思い知るだろう」と威嚇してみせた。

 同じ日、マクマスター大統領補佐官とヘイリー駐国連米大使はホワイトハウスで共同記者会見を行い、一部で軍事オプションの不在を指摘されていることについて強い口調で「軍事オプションを排除してない」と強調していた。両人とも「(軍事オプションは)今は我々が望んでいる選択ではない」と語るも、制裁と圧力がある時点で成果が上がらないと判断した時には誰もが望まない軍事オプションに出ることを示唆していた。ヘイリー大使はトランプ大統領の北朝鮮への「火炎と怒り」の発言は「決してブラフではない」とも付け加えていた。

 ヘイリー大使は翌17日にもCNNとのインタビューで「安保理が取るべき措置はほとんど消尽した。可能性のあるすべての方法を試して努力をしているが、テーブルの上には軍事オプションしか残ってない」と語っていた。また、「誰も戦争を望んでないが、外交手段が成果を出せないなら、結局マティス国防長官がこの問題を扱うことになる」と述べていた。

 ティラーソン国務長官も同様に17日、「我々の外交努力が失敗すれば、残るのはたった一つ、軍事オプションだけだ」とCBSTVとのインタビューで心境を吐露していた。

 トランプ政権はすでに9月3日にトランプ大統領が主宰してホワイトハウスで緊急国家安全保障会議(NSC)を開き、北朝鮮に対する軍事オプションについて協議している。

 マティス国防長官のほか、ペンス副大統領、マクマスター大統領安全保障担当補佐官、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長、ジョン・ケリー大統領補佐官らが出席したNSCでトランプ大統領は様々な軍事オプションについて事細かく報告を受けていた。

 会議終了後、マティス長官は今後も北朝鮮が挑発を続ければ「我々は北朝鮮のせん滅を望まないが、我々にはそれができるあらゆるオプションがある」と軍事力行使の発言を躊躇わなかった。肝心のトランプ大統領は軍事攻撃の可能性について聞かれると「そのうち、わかるだろう」とこれまた不気味な発言をしていた。

 トランプ大統領は19日に国連総会で初の演説を行う。国連の場で全加盟国に安保理決議の履行、即ち、圧力と制裁を強めるよう自ら求めることにしている。21日には日韓首脳との3か国首脳会談を開き、北朝鮮を屈服させるためのより効果的な制裁と圧力について話し合う予定である。

 国連での演説はトランプ大統領にとっては外交解決に向けての最初で、最後のアピールの場となるが、仮に北朝鮮がこのタイミングであるいは、総会後にも「火星14号」を発射した時、一体どう対応するのだろうか?

(参考資料:ペンタゴン、議会に続き対北武力行使容認に傾く米世論

 米国にとって軍事オプションは外交圧力、経済制裁が失敗した場合の最終手段である。今は国連を中心とした国際社会の一致団結した結束力で封じ込めようとしているが、9回に及ぶ国連安保理の制裁と圧力が効かないとなると、北朝鮮を「国際社会の脅威」「地球規模の問題」との観点から最後は軍事力による阻止という選択をするのだろう。外交努力はすべて、そのための環境づくり、正当化するための手法にしか見えない。

 今日(18日)軍事攻撃の際に真っ先に動員されるステルス戦闘機「F-35B」4機と戦略爆撃機「B-1B」2機が朝鮮半島に同時出撃し、北朝鮮に最も近い上空まで飛行し、模擬の爆弾訓練を実施したことは軍事オプションが現実味を帯びてきたことへの証左でもある。

(参考資料:北朝鮮に対する米軍の先制攻撃はいつでも可能な状態

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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