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米戦略爆撃機「B-1B」に北朝鮮は中長距離戦略ミサイル「火星12号」で対抗

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
先月30日に朝鮮半島に飛来した戦略爆撃機「B-1B](上2機)

 米国は北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の連射に苛立ち、北朝鮮もまた米国の戦略爆撃機「B-1B」の再三の飛来に神経を尖らせている。

 昨日(8日)も戦略爆撃機「B-1B」2基がグアムのアンダーソン基地から飛来し、朝鮮半島でデモンストレーション飛行を行った。先月30日にも飛んで来たばかりだ。北朝鮮が「火星14号」と称するICBMを二日前に発射したためだ。週に2回は史上最大規模の米韓合同軍事演習が実施された3月(15日、22日)以来のことである。

 別名「死の白鳥」と呼ばれている「B-1B」は核戦略爆撃機「B―52」や「B-2」と並ぶ米国が誇る3大戦略爆撃機の一つで、グアムのアンダーソン基地から2時間もあれば平壌上空に到達する。

 「B-1B」は本来、ステルス機の「B-2」や「F-22」戦闘機が敵の防空網を無力化した後、即ち、米韓連合軍が敵のレーダー網を完全に破壊し、空中権を完全に制覇した後に投入される爆撃機である。

 核兵器は搭載してないが、在来式兵器で北朝鮮を圧倒することができる。約930km離れた地点から北朝鮮の施設を半径2~3km内で精密打撃することが可能で、巡航ミサイル(24基)のほか、地下施設を破壊するバンカーバスターも搭載している。

(参考資料:米国が先制攻撃の標的とする北朝鮮の核施設 地下施設からウラン鉱山まで

 米国は昨年だけで「B-1B」を3回投入し、模擬弾を利用した精密打撃訓練を実施している。昨年9月9日に北朝鮮が5度目の核実験を実施した直後も朝鮮半島に飛来し、北朝鮮を威嚇していた。今年も3月以降、ほぼ毎月飛んで来ており、7月8日には北朝鮮のミサイル基地に見立てた目標物に爆弾を投下する映像を公開していた。

 北朝鮮は戦略爆撃機の飛来にはその都度非難しており、核戦略爆撃機が「B-2」が米韓合同軍事演習に初めて投入された2013年には金正恩委員長自らが「忍耐にも限界がある」と反発していた。

 昨年9月13日に「B-1B」が韓国上空に飛来し、デモンストレーション飛行した際には李容浩外相がベネズエラで開かれた非同盟閣僚会議で「我々には戦略爆撃機を投入した米国の挑発に対抗するため新たな攻撃を開始する準備ができている」と「報復」を示唆していた。しかし、当時、「報復」が何を意味しているのかは全く不明だった。

 「B-1B」は超音速(マッハ1.2)で飛行するが、ステルスでないためレーダー網を避けるため超低空飛行するのでレーダーに捕捉されれば、迎撃される恐れがある。

 実際に5か月ぶりの飛来となった3月15日の時は、江原道のヨンウォル郡にある韓国空軍の「必勝射撃場」で初めて爆撃投下訓練を行ったが、米韓連合軍が伏せていた「B-1B」の飛来と爆弾投下訓練の事実は北朝鮮のメディアによって明らかにされていた。

 米韓連合軍は作戦上、米韓合同軍事演習への「B-1B」の「出陣」を伏せていたが、北朝鮮の国営メディア「朝鮮中央通信」が翌日(16日)には機種まで特定し、韓国の射撃場で「先制攻撃のための核爆弾投下訓練を1時間行った」と発表していた。北朝鮮の報道について当時、韓国軍スポークスマンは「作戦保安上確認できない」とコメントを避けていた。

 北朝鮮は3日後の19日には対南宣伝媒体である「我が民族同士」を通じて原子力空母「カールビンソン」と「B-1B」を撃沈、撃墜する仮想映像を公開していたが、現実には「B-1B」が北朝鮮の領空、領海を侵犯しない限り、迎撃されることはないし、迎撃が可能だとしても、そう簡単にできるものではない。

 ところが、今回「B-1B」が朝鮮半島上空を飛来した昨日(8日)、北朝鮮の弾道ミサイル運用部隊である戦略軍が報道官声明を通じ「核戦略爆撃機があるアンダーソン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧、牽制し、米国に重大な警告シグナルを送るため、中長距離戦略弾道ロケット『火星12』でグアム周辺への包囲射撃を断行する作戦案を慎重に検討している」と威嚇したことから北朝鮮の「報復」が明らかになった。

(参考資料:「B-1B」戦略爆撃機が飛来しても北朝鮮のミサイル発射を止められない!

 「米帝の侵略装備を制圧、牽制するための強力かつ効果的な行動案を検討せよ」との金正恩委員長の指示を受け、北朝鮮は「B-1B」を牽制する対抗手段としてグアムに向けた「火星12号」の発射実験を示唆した。

 北朝鮮は声明で「グアム包囲射撃案は十分に検討、作成された。核武力の総司令官である金正恩同志が決断を下せば、任意の時刻に同時多発的に、連発で実行されることになる」と警告していたが、「我々が軍事的な選択をしないよう、我々に対する無分別な軍事的挑発行為を直ぐに止めるべき」と強調しているところをみると、「火星12号」の発射が目的でなく、「B-1B」の飛来を阻止するのが狙いのようだ。

 それでも、今後も「B-1B」の「出撃」が続く場合、北朝鮮がそれを口実にグアム周辺にミサイルを着弾させることは十分に考えられる。

 トランプ大統領は昨日「北朝鮮が米国を脅かすなら今直ぐにでも世界が見たことのない火炎と怒りに直面するだろう」と北朝鮮を牽制しているが、北朝鮮が「B-1B」の対抗手段としてロフテッド方式(高角度発射)でなく、太平洋に向けてミサイルを発射すればそれこそまさにトランプ大統領の堪忍袋の緒は切れることだろう。

 「予測不能」のトランプ大統領と「統制不能」の金正日委員長のチキンレースは「B-1B」対「火星12号」のガチンコでどうにも止まらなくなってしまった。

(参考資料:勝者は?「予測不能のトランプ」VS「統制不能の金正恩」

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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