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韓国は本当に10億円を日本に返すつもりか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
日本の大使館前に設置された少女像(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

慰安婦への日本政府の癒し金である10億円返却については安倍総理が「10億円払ったので、韓国も誠意を見せるべきだ」と発言したことに野党第一党の「共に民主党」の禹相虎(ウ・サンホ)院内代表が猛反発し、「(日本では)振込詐欺にあったようなものだと言っているのもいる。それなのに韓国外相は何一つ反論もできない。これほどの屈辱はない。10億円を日本に返そう。10億円のため国民は辱めを受けるのか。一刻も早く返そう」と呼び掛けたことが波紋を広げている。

(参考資料:韓国で反日を煽るのは政府ではなく、野党・マスコミである

日韓合意の当事者である韓国政府はこれ以上事態が悪化しないよう鎮静化を図っているが、同じ党の洪イッピョ議員も「我々の立場からすれば、不必要に10億円を貰う理由はないので返却すべきだ」(1月6日、FM放送とのインタビューで)と述べていることや、第二野党の「国民の党」の黄柱洪(ファン・ジュホン)議員も「屈辱的だ。10億円を直ちに返却して、合意無効化を宣言し、再交渉しよう」と同調していることから野党内では若手を中心に徐々に広がりを見せつつある。

一方、与党・保守系でも大統領候補の一人である改革保守新党「正しい政党」をつくった劉承敏(ユ・スンミン)議員が「崔順実スキャンダル」で名を売ったTV媒体「JTBC」(12日に放送)とのインタビューで「10億円を返して、元に戻すべきだ」と主張。劉議員は「(日韓合意は)間違った合意で、売国行為である」と最も辛辣で、与党・保守系では最も強硬な立場を貫いている議員の一人である。

(参考資料:慰安婦問題は対日対抗措置の一つだった!?

加えて、米国・ニューヨークから昨日(12日)に帰国した潘基文(パン・ギムン)前国連総長までもが返却に同調の動きを見せていることからさらなる広がりを見せるかもしれない。

本命視されている文在寅「共に民主党」前代表の対抗馬と目されている次期大統領有力候補である藩前国連事務総長は昨日(12日)ニューヨークから帰国したが、仁川空港に向かうアシアナ航空便に同乗した「中央日報」の記者のインタビューで「(日本の慰安婦合意に基づく拠出金)10億円が少女像撤去と関係があるものなら間違っている。むしろ金を返すべきであり、話にならない」と述べていたことがわかった。

野党から発信された「10億円返却」の声が与党側からも跳ね返ってきたことから少女像撤去をめぐる日韓論争が過熱すればするほど韓国内では10億円返却→日韓合意見直し→再交渉を求める動きが加速化する気配だ。

金大中政権下で統一部長官を務めた経験のある重鎮の鄭セヒョン元議員はCBCラジオに出演し、「10億円と言えば、我々の金で100億ウォンだ。チョン・ユラ(崔順実被告の娘)の馬代にもならない。100万人が一人につき1万ウォン出したほうが早い」と国民募金による返却を主張していたが、昨年10月29日をスタートに毎週土曜に行われている朴槿恵大統領弾劾蝋燭集会・デモに100万人が参加し、一回のデモで数千万から億単位の募金が集まっていることを念頭に入れたものとみられる。

実は、募金運動はすでに昨年1月から始まっている。慰安婦支援団体である「挺身隊対策協議会」を中心に383の市民・社会団体が日韓合意の無効化を主張し、全国で運動を展開しているが、その運動の柱の一つが「10億円国民基金」のための募金運動である。

現在までの募金額は明らかにされてないが、釜山日本総領事館の前に建てられた少女像には168団体、5,143人から8千5百万ウォン(850万円)の募金が寄せられていた。

釜山市には少女像を設置した市民団体や支持する市議らが像を撤去できないよう歩道を管理する釜山市東区に像を「公共造形物」として登録するよう求めているが、昨日開かれた釜山市の臨時本会議で民主党の女性市議が登壇し「この釜山少女像は撤去、再設置、日本政府の撤去圧迫などの過程を経ており、全国の他の少女像とは異なる象徴性を持っている。この少女像は単なる少女像ではなく、釜山市民、強いては我が国民の自尊心となった」と述べていた。

韓国では釜山に続き、今度は特定市に定められている人口62万人の京畿道・安養市で独立運動記念日にあたる3月1日に少女像が建立される予定である。

少女像建立は昨年6月に発足した「安養平和の少女像建立委員会」が計画、推進しているが、推進委員会には安養市長、市議会議長や地元国会議員らが顧問として加わっている。

当初は、昨年11月に支庁真向いの中央公園に建てられる予定だったが、募金額が目標に達せず、延期を余儀なくされていた。

安養少女像の募金額は3千万ウォン(300万円)で、釜山の少女像の約3分の1に満たない。今後、10校の高校生らが街頭に出て募金を呼び掛けることにしているが、推進委員会では今回の騒動で国民感情に火が付いたことで募金が容易になったとみている。

石原知事時代に東京都が尖閣諸島問題で当時副知事だった猪瀬直樹氏のアイデアで2012年4月から尖閣諸島購入資金確保のため寄附金を募り、その結果翌2013年1月末の募集打ち切りまでに約14億円集まったが、日韓合意や「少女像」が大統領選挙の争点となった場合、韓国の「10億円返還」の動きが似たようなパターンを辿ることになるかもしれない。

(参考資料:韓国大統領候補全員が日韓合意見直し、少女像撤去には反対

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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