タイでカンボジアで沖縄で……アントレプレナーシップを育てる校風 聖学院中学校・高等学校(2)

カンボジアではビジネスアイディアを実践する(学校提供)

アントレプレナーシップが芽生える宿泊行事

東京都北区にある聖学院は、まもなく創立115周年を迎えるプロテスタントの男子校だ。毎朝15分間の礼拝がある。教育理念は"Only One for Others"。一人一人の賜物に気付き、磨き、それを社会への貢献に活かすという意味がある。

PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)型授業、すなわち教科の枠組みを超えた課題発見・解決型の授業のほか、宿泊を伴う行事や、語学研修とはまったく異なる主旨の海外研修を行っているのが特徴だ。

中2から高2の4年間の宿泊行事で、それぞれの学年に応じたPBL型の探究活動を行う。中2では他者と協働することを学ぶ。中3では社会に一歩踏み出す。高1と高2では社会貢献するために必要なスキルの獲得を意識する。

中2は、登山とテント生活に挑戦する夏期学校。ただし、行き当たりばったりに山に登ってテントを張るわけではない。それぞれの登山パーティが「食事」「自然」「生活」「登山」「記録」などのプロジェクトに分かれて役割分担し、事前に計画を立てて発表する。お互いに協力できないとテント生活や登山がうまくいかないようになっている。

中3の糸魚川農村体験学習は35年以上の歴史ある行事だ。地元の家庭にホームステイしながら、植林作業や田植えを体験する。ここでも単に農村生活を体験するだけでなく、地域の魅力をどう伝えるかという目的でPBL型学習に取り組む。たとえば、地域のガイドブックを作成したり、動画をつくったり、都内で糸魚川に関するイベントを開催したりする。

宿泊行事の前に調べ学習をしたり、行事を終えてからレポートを書いて文集にまとめたりということはどこの学校でもやっている。聖学院の場合は、目的に合致したプロジェクトを自分で発案し、現地ではそれに沿った行動を各自が行い、それぞれの成果物にまとめる。教育ジャーナリストの私が、何らかの目的をもって学校を取材し、その目的に合致した形の記事にまとめるのと似ている。

糸魚川でのプロジェクトがきっかけで起業してしまった現役聖学院生もいる。糸魚川で米などの特産品をトラック1台分買い付けて、老人ホームの方々や、保育園に子どもを預けながら働いている方々など、気軽に買い物ができる状況にないひとたちに安く売るしくみを考案し、会社にしたのだ。

ちなみに聖学院には何人かの高校生社会起業家がいる。早くから取り組んできたPBL型学習の成果により、アントレプレナーシップが育つ校風がすでに醸成されているのだ。

糸魚川農村体験での田植え体験(学校提供)
糸魚川農村体験での田植え体験(学校提供)

時代の一歩先行く教育を早期に実現

高1のソーシャルデザインキャンプでは、神奈川県の湯河原に宿泊しながらフィールドワークを行い、地方創生の現場におけるローカルな課題を発見し、解決方法を考案し、プレゼンコンペを行う。2019年に優勝したチームは、全国ソーシャルデザインコンテストでも優勝した。

高2では沖縄平和学習に取り組む。高1のソーシャルデザインキャンプと形態は似ているが、よりグローバルな視点が必要になる。

「もともとは個別のイベントでした。でも、自分→他者→社会→スキルと広がっていくストーリーにしたかった」と言うのは、児浦良裕教諭。

まず中2の登山行事をプロジェクト型に設計し直した。高1ではもともとフレッシュマンキャンプを行っていたが、それをソーシャルデザインキャンプにリニューアルした。そのスキームを高2の沖縄平和学習にも応用し、最後に糸魚川農村体験をPBL型にリニューアルした。

時代の変化に合わせて教育も変わっていかなければいけない。そのために大学入試改革が議論されたり、学習指導要領が新しくなったりした。大学入試改革は有名無実化してしまったし、新学習指導要領も実際にどのように機能するかはまだわからないが、聖学院においては"Only One for Others"の理念と照らし合わせながら、その流れを先取りしたのである。

「特に糸魚川農村体験やソーシャルデザインキャンプを経験すると、生徒たちがガーッと変わっていくのを感じます。実際に、ソーシャルデザインキャンプ後に、カンボジア研修の参加希望者が激増しました」(児浦さん、以下同)

具体的な社会課題から意欲を喚起する

聖学院では30年以上前からタイ北部の山岳民族との交流や現地でのボランティア活動を目的にした海外研修旅行を行っていた。中3から高2を対象に希望者を募り、定員は30人。児童養護施設で、親と暮らすことのできない子どもたちと寝食を共にしたり、コーヒーの収穫を体験させてもらったりする。

近年ではこれもPBL型の教育機会としてとらえ、収穫したコーヒーを日本で販売したり、日本食文化を知ってもらうという目的で児童養護施設の子どもたちといっしょに実際に日本食をつくったりするプロジェクトが実現した。

「この研修に参加した生徒たちは、目覚ましく成長し、帰国後、目の色を変えて頑張るようになります。物質的には貧しいのにとても前向きに生きている現地の子どもたちに触発されて、自分たちも恵まれた環境をもっと活かさなければいけないという気持ちになるようです。現在、生徒会のメンバーなどはほとんどタイの研修旅行の経験者で占められています」

タイ北部のチャンプー村でのホームステイ(学校提供)
タイ北部のチャンプー村でのホームステイ(学校提供)

中3から高2であれば何度でも参加できるしくみだった。しかしリピーターが増えすぎて、希望しても参加できないケースが増えてきた。そこで受け皿としてカンボジア研修を企画したのが2019年のことだ。タイ研修は完全に聖学院オリジナルのプログラムだが、カンボジア研修はNPOの協力を得て実施されている。

「タイ研修がボランティア活動をメインにしているのに対して、カンボジア研修はどちらかというとソーシャルビジネスに重点を置いており、現地で活躍する社会起業家たちとともに問題解決に挑みます。当初は定員を15人にしていたのですが、倍集まってしまったので、結局30人全員を連れて行きました。せっかくのやる気を台無しにしたら申し訳ないですからね」

いましかできないことを優先するのが、若者の学びの鉄則だと私は思う。たとえば、何の役に立つのだかわからない教科の世界にどっぷり浸かってみる経験を通して偏見なく世の中を見る目を養うことなど、中高生の時分にしかできないことだ。その意味で、何もみんながみんな、高校生の時分から事業を興す必要はない。それなら大人になってからでもできるから。

しかし一方で、学び方は千差万別。具体的な社会問題を入口にしたほうがやる気を感じやすく、教科学習への意欲にもつながりやすいタイプの子どもたちがいるのも事実である。聖学院では通常の教室での授業もPBL型になっており、そのようなタイプの子どもたちがいきいきとできる校風が同校の特徴だといえる。

カンボジア研修でのビジネスアイディア発表(学校提供)
カンボジア研修でのビジネスアイディア発表(学校提供)

学校が安心できる場所であることが大前提

どんどんと学校の外に出て行く教育を行うためには、生徒たちにとって学校が安心できるベースキャンプでなければいけない。そのためのツールとして、「できたこと生徒手帳」と「自学ノート」を活用している(中学生は全員必須、高校生は任意)。

終業のホームルームの冒頭10分間を利用して、「一人作戦会議」という時間を設けている。そこでその日帰宅してからの学習予定を立てるのだ。その計画にもとづいて、自学自習用の「自学ノート」を使って学習し、翌日の朝礼で、「できたこと生徒手帳」と「自学ノート」を提出する。担任は終礼までにそれを確認し、返却する。

1日1時間以上、1見開き分以上、「自学ノート」を使っての学習を行うことになっている。興味関心のある分野の学習を深めてもいいし、苦手分野克服にあててもいい。宿題として命じられたこと以外に、自らの問題意識にもとづいて学ぶ姿勢を身につけさせる狙いがある。

「これがコロナによる休校期間中に効きました。聖学院では比較的早くからオンライン授業を実施しましたが、普段とは違う環境におかれても、そのときどきの状況に応じた課題を生徒たちが自ら見つけ、自律的に学習してくれました。また、教員と生徒のコミュニケーションツールとしても有効です。自分から教員に声をかけるのが苦手な生徒でも、手帳に『今日はやる気がしません』なんてことが書いてあれば、教員の側から『どうしたの?』と声をかけることができます。それがさまざまな問題の早期発見にもつながっています」

一人一人を大切にする"Only One"の精神があってこその"For Others"なのである。

ある生徒の「できたこと生徒手帳」(筆者撮影)
ある生徒の「できたこと生徒手帳」(筆者撮影)

●学校ホームページ→https://www.seig-boys.org

●この記事を首都圏模試センターのサイトで読む→https://www.syutoken-mosi.co.jp/blog/entry/entry002811.php

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