「俳優・斎藤工さん×映画監督・河瀬直美さん」シュタイナー教育を語る90分

斎藤工さんと河瀬直美さんが90分間にわたってシュタイナー教育を語った(著者撮影)

1919年ドイツで生まれたシュタイナー教育

2019年8月16~18日の3日間にわたって、東京都の渋谷区文化総合センター大和田で、シュタイナー教育100周年記念イベント「世界がかわる学び」が開催されている。シュタイナー教育の具体的な中身に直接触れられる貴重な機会だ。

シュタイナー教育は1919年にドイツで生まれた。創始者はルドルフ・シュタイナー。独自に考案した人智学(アントロポゾフィー)に基づいた教育を考案し、「自由ヴァルドルフ学校」を創立した。海外では「ヴァルドルフ教育」と呼ばれることが多い。

理念は「自由への教育」。外側の権威や価値に寄りかからず、自分で考え、自分で感じ、自分の意志を行動と結びつけることを目指す教育だ。詳しくは拙著『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方最高の教科書』(大和書房)を参照されたい。

8月17日には、俳優の斎藤工さんと映画監督の河瀬直美さんによるスペシャル対談が行われた。テーマは「教育って何だろう?」。司会は京田辺シュタイナー学校教員の安藤しおりさん。

斎藤さんは小学6年生までシュタイナー教育の学校に通っていた。河瀬さんはシュタイナー学校100周年記念のムービー製作に携わった。河瀬さんが製作したムービーはこちらから閲覧できる。

●「未来へ To the Future」 

「2は何からできてる?」を考える学校

斎藤さんは、「相当な問題児だったと思う」と当時を振り返る。そして同時に「いまになってようやくあのときに学んだことの意味がわかってきて、点が線になっていく感覚。何周めかにしていまようやくシュタイナーと向き合っている感覚がある」と述べた。

河瀬さんは、歌手のUAさんからシュタイナー教育について聞いたのがきっかけ。UAさんから「普通の学校では1+1=2って習うやろ。でも2は何からできてるってみんなで考えるのがシュタイナーの学校やねん」と説明されて、俄然興味をもったと言う。

斎藤さんは小6の3学期に公立の小学校に転校した。そこで初めてシュタイナー教育とそうでないものの違いに気づく。そのときに感じた違いをこう表現する。「輪郭の中に色をもつのか、色が伸びていってボーダーがない感じか」。前者が普通の学校で、後者がシュタイナー教育の学校を表す。

シュタイナー教育の学校では「にじみ絵」という特殊な絵の描き方を学ぶ。濡らした画用紙に、青・赤・黄の三原色の絵の具をのせてにじませて、色が伸びていき、混じり合っていくのを感じるのだ。その感覚こそがシュタイナー教育の雰囲気だというのだ。かたや普通の学校は枠の中に色が収まっているイメージだったという。

「色って感情だと思うんです」と斎藤さん。自分の色(感情)がにじみ出して、他者の色(感情)と交わって、新しい色(感情)が生まれる。そういう感覚をもっているという。

また、次のようにも言っていた。「ちょうど昨日、テレビで『千と千尋の神隠し』をやっていたんです。あれって、すごくシュタイナー的な映画だなと思って。不可思議なことが起こるんだけど、それを自然に受け入れていくじゃないですか」。物質科学を超えた真実があるという感覚が共通しているというのだ。

一方、シュタイナー教育の学校に通っていたころの恨み節も暴露。「テレビを禁止されていたんですよ。小さいころに見たくても見られなかったものだから、テレビを見るようになってからとてつもない吸収力でテレビを見たことが、いまのこの仕事につながっていると思いますね」。「シュタイナー教育ではモノを足で蹴ることをものすごく悪いことだと教えられるんです。僕、サッカー好きだったんですけど、それも悪いことみたいに思わされていた……」。すかさず司会の安藤さんがフォロー。「テレビは禁忌ではないし、高等部では体育でサッカーもしています!」。

河瀬さんは、シュタイナー学校のムービー製作を振り返り、「私は素人ですから、先生たちから見たら浅はかに見えるかもしれませんが、シュタイナー教育のかけらだけでもいいから届けたいと思いました」と語った。特に、カメラに向かってある先生が述べた「手が賢くなる」という表現が印象的だったと。

目で話を聞くような子どもたち

司会者が用意したトランプを引いて、そのテーマについて話し合うコーナーへ。斎藤さんが引いたカードは「教育は芸術だ」だった。

シュタイナーは「教育芸術」という表現を使った。芸術教育を重んじるという意味ではなく、教育という営みそのものが芸術的でなければいけないという意味だ。教育という営みそのものが、自ずから魂を震わせるものでなければならないということである。

斎藤さん、河瀬さんのトークに、司会の安藤さんが補足する。「シュタイナー教育では、誰もが芸術家だととらえます。誰もがもっている芸術家としての要素を目覚めさせるのが教員の役割だと考えられています。芸術を通して善なるもの、真なるものに近づけるひとになっていってほしいという願いが込められています」。

さらに安藤さんが「さきほど斎藤さんと話をしていて、やっぱりシュタイナーの子だなと思った。学校で話をしているときの高校生の目と同じ目をしているんです」と言うと、斎藤さんは「高校生と同じ……?」と苦笑。

安藤さんの真意はこうだ。シュタイナー教育の学校では、「素語り」を頻繁に行う。絵本などをもたずに、教師のなかにある物語を生徒たちの目を見ながら語りかけるのだ。すると、生徒たちも、「このひとには伝えたいことがあるんだな」と思いながら、先生の目を見ながら話を聞くようになる。その目と同じだというのだ。

取材を通して、私もそのシーンは何度か見た。生徒たちは先生の話を、まるで目で聞いている。

その話を受けて、斎藤さんは「最近、ライフスタイルの変化に伴って、ひとの目を見る時間が減っているんじゃないかと思います。でも、目のなかにある情報って、限りなく真実に近いんじゃないかって思うんです。最も優先すべき情報じゃないかなって思います」。その情報を正確に受け取る能力こそ、シュタイナー教育で磨かれる力の一つなのかもしれない。

最後に河瀬さんは「世界はある。そこにみんなで行けたらいいな」と述べた。斎藤さんは「みんなの色をにじませあって、色をつくっていくような時間だったと思います」と対談を締めくくった。

「教育って何だろう?」というテーマに対して、直接的な答えが得られるような対談ではなかった。その代わりに、シュタイナー教育のエッセンスがところどころにじわりじわりとにじみ出て、全体として「教育ってこんな色かしら?」というのが感じられる90分間だった。その構造こそが、シュタイナー教育的であったと私は思う。

また、斎藤さんが、身振り手振り、姿勢、表情、視線の送り方、話す間によって、ノンバーバルに場の色をつくっていたのは圧巻だった。「さすがプロの俳優!」というだけでは説明がつかない。その感性の根っこに、シュタイナー教育があることが伝わってきた。

シュタイナー教育100周年記念イベントは、今後も全国で開催される予定。スケジュールは下記から確認可能。

●巡回企画展スケジュール一覧