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日本国内にも存在する難民問題に目を向けよう

おおたとしまさ育児・教育ジャーナリスト
ある難民が認定を受けるために法務省入国管理局に提出した証拠資料

日本でも難民申請数が急増している

2015年9月、トルコの海岸に打ち上げられた3歳児の遺体は、世界中の人々の心を揺さぶった。内戦で混乱するシリアからの難民としてヨーロッパ大陸へ渡る途中、ボートが転覆した。難民支援の気運が高まった。

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の2015年のデータでは、全世界で約6530万人の人たちが避難を余儀なくされている。

国際的にはシリアや南スーダンでの内紛が注目されており、日本にいると、どこか遠くの国で困っている人を間接的に助けることしかできないように思ってしまう。しかし日本にいても直接的にできる難民支援がある。日本にたどりついた難民の支援だ。現在日本国内には約2万人の難民がいるといわれている。

2016年、日本で難民申請を行った人の数は1万人を超えた。難民認定を受けられたのは28人。0.3%に満たない。2015年にはドイツが約14万人、アメリカが約2.3万人、フランスが約2.1万人、イギリスが約1.5万人を受け入れているのに比べて圧倒的に少ない。

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強制送還は命の危険を意味する

人が国籍のある国を離れて暮らす理由はさまざまだ。一定期間または永続的に「外国」で暮らす人たちのことを一般的に「移民」と呼ぶ。「移民」の中に「難民」という立場の人たちがいると考えていい。「移民」と「難民」の違いは、国境を越えた「理由」である。

「難民」とは、紛争や人権侵害などから自分の命を守るためにやむを得ず母国から逃げざるを得ない人たちのことだ。母国に戻ることは命の危険や人権の危機を意味する。その恐怖を想像してみてほしい。将来、自分や自分の子供やまたその子供たちが国を追われ「難民」となる可能性がないとは言い切れないのだ。

難民は「逃げられるところに逃げる」ことで必死。行き先を選ぶ余裕などない。日本にたどり着いた難民も同様。たまたまビザが下りた、航空券が手に入ったという偶然で日本にやってくる。しかし日本の難民認定の壁は高く、物価も高く、困り果ててしまう。

難民申請の結果、法的に「難民」であることが「認定」されると、「定住者」という在留資格が得られる。母国に送り返されるかもしれない恐怖から開放される。仕事の紹介、半年間の日本語学習プログラムなどの支援が受けられるようになる。家族の呼び寄せや日本への帰化の道も開かれる。

「不認定」となった場合でも、「人道配慮」により日本で暮らすことを許可されることがある。ただし十分な支援は得られない。家族の呼び寄せも難しいとりあえず日本にとどまることが認められるだけだ。難民認定も人道配慮も認められない場合は、強制送還の対象になる。

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日本では難民申請から審査結果が出るまで平均2年半もの時間がかかっているのが現状だ。10年かかることもある。その間、恐怖と不安の中で、孤立無援の生活を続けなければならない。手持ちの資金が尽きれば、ホームレス状態に陥り、食べるものも着るものにも困るようになる。難民申請期間中、政府からの支援金制度もあるが、その額も限られている。

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「助けてあげる」という上から目線からの脱却

彼等を支援するのが難民支援協会(JAR)である。JARの事務所を訪ねた。代表理事の石川えりさんと広報部の田中志穂さんが応じてくれた。私が訪れたのは昼時だったが、会議室では難民の男性が仮眠をとっていた。落ち着いて眠ることすらままならない生活をしているのかもしれない。

JARでは難民認定を得るための法的支援、来日直後の厳しい時期を生き抜くための生活支援、経済的自立を目指した就労支援、難民が地域社会の中でつながりを持ち、ともに生きていけるよう支えるコミュニティ支援、そして難民問題に対する認知を高め政策を変えていくための広報活動や政策提言を行っている。

JAR自体、支援によって運営されている。金銭の寄付はもちろん、物品の提供、専門家によるサービスの無償提供などを受けている。フードバンクが食品を提供してくれたりもする。日本でよりよく難民を受け入れる体制を作っていくために、他のNGOや、企業、日本語学校などとも連携を行っている。難民を支援しながら、支援してくれる企業や団体も自前で探しているのだ。

石川さんは開口一番「難民についてどういうイメージをもっていますか?」と尋ねた。いま日本人の多くが思い浮かべるのは、国際的な報道機関を通じて目にするシリア難民の姿ではないだろうか。

しかし日本での難民申請者数が急増しているのは主にアジアからの難民だ。オリンピックに向けて観光立国を目指すという方針から、諸外国に比べ相対的に日本への入国が容易になったことなどが背景にあるという。

「なかなか具体的なイメージは湧かないかもしれません。難民は<難民>というバッジを付けて歩いているわけではありませんからね。直接的に彼等を知れば、問題意識は確実に変わるはずなんですけどね」(石川さん)

「かわいそうだから助けてあげるというのではなく、たとえば人手不足の問題を抱えている日本社会で活躍してもらうという観点に立てば、社会としてもっと前向きな対応ができるのではないでしょうか」(田中さん)

「偽装難民」の存在を指摘する声もある。

難民性が全くないことが客観的に明確であり、かつ、申請者本人もそれを自覚しているにもかかわらずあえてもっぱら就労目的で難民申請制度を利用することは制度の「悪用」「濫用」だと、JARでも考えている。そのような人たちは支援対象にしていない。

一方で、「偽装難民」は難民問題の本質ではないと考えている。ただ、難民申請で「不認定」になった人たちをみんな「偽装難民」と呼ぶことは大きな問題であると、JARは指摘している。日本の難民認定基準は厳しすぎるという主張だ。また、「偽装難民」の問題は、偽装をする外国人だけに責任を押し付けるような響きがあり、難民の審査に2年半も要している現状、労働力が切実に必要とされる日本社会側のニーズやいわゆる「移民政策」の不在等が背景にあることも押さえなくてはならない。ここには賛否があるだろう。賛成するにも反対するにも、前提となる知識が足りない人がほとんどではないだろうか。

「日本にもある難民の問題を知ってほしい。向こう側にいる人を日本に受け入れますかという問題ではありません。すでにここにいる人たちと一緒にどういう社会をつくるかを考えませんか?」(石川さん)

日本にいる難民問題の現状および具体的な難民支援方法について、詳しくはぜひ難民支援協会(JAR)ホームページ(https://www.refugee.or.jp)をのぞいてみてほしい。

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育児・教育ジャーナリスト

1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を歴任。男性の育児、夫婦関係、学校や塾の現状などに関し、各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演多数。中高教員免許をもつほか、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験あり。著書は『ルポ名門校』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』『なぜ中学受験するのか?』『ルポ父親たちの葛藤』『<喧嘩とセックス>夫婦のお作法』など70冊以上。

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