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福島沖地震のテレビ速報を検証する(上)〜東日本大震災から10年:何が変わり、何が変わっていないのか

奥村信幸武蔵大教授/ジャーナリスト
緊急地震速報を伝えるNHKの画面(2021年2月13日:筆者が画面を撮影)

東日本大震災の教訓は生かされていたのか

2月13日深夜に発生した福島県沖を震源とする地震で被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

東日本大震災から、もうすぐ10年となります。ネットメディアの発達や、高性能のスマートフォン(スマホ)がかなり普及し、この間メディア地図は大きく変わったとはいえ、今回のような地震や台風などの災害報道では、テレビを頼る人はまだまだ多かったと思います。2011年から10年間の検証と反省が、今回の緊急報道にどのように反映していたか、あるいはどんな課題が残っているのか、考えてみたいと思います。

関係者のヒアリングなど一切していない段階で書くのは、いささか一方的かも知れません。しかし、一般視聴者の目線で「欲しい情報が届けられていたか」を振り返っておくことも、今後の議論につながる大事なことだと考えます。

緊急災害報道でともかく重要なことは、安全確保と安心のため最も必要な情報を提供することです。テレビはその役割を果たせていたのか、地震発生から約2時間、午前1時10分すぎに気象庁の記者会見が始まるまで辺りまでの東京での各局の放送を比較して、気が付いたことを書いていきます。

テレビの即応性が試された

地震は午後11時8分過ぎに発生しましたが、わずか5分(11時12分過ぎ)で津波による大きな被害の恐れがないとの情報が出たほか、福島第一原発をはじめ、茨城県東海村や青森県東通村などの放射性物質がある施設でも大きなトラブルが発生せずに、緊急時の対応は収束しました。

しかし、週末の深夜という、ローカル放送局では泊まり勤務のシフトなどもなく、人員配置もかなり手薄という条件下だったことを考えると、今後起こり得るさらに大きな地震などで、どのような課題があるかを整理するのに良い機会を提供したとも言えます。

地震発生直後に欲しい情報は何か

緊急地震速報は午後11時8分15秒ごろに画面に現れました。民放ではCM中のところもありました。音量を科学的に検証したわけではありませんが、「緊急地震速報です」という速報とともに発せられる警告音声のボリュームが放送局によって違ったことです。やはり「緊急」なのですから、番組やCMの音声は極度に絞られなければならないでしょう。

直後から揺れが数十秒にわたって続きました。そのような時に、人はどのようなことを知りたくなるでしょうか。おそらく「震源はどの辺りか」「どの程度の地理的広がりか」「一番揺れたところはどの程度だったか」「私の住んでいる地域の具体的な震度はどのくらいだったのか」というような、全体を把握するような情報だと思われます。その情報を求めて、その時点でテレビを点ける人もいるでしょう。

気象庁から「震源は○○、震源の深さは△△キロ、地震の強さを示すマグニチュードは□□」という情報が出てくるまでは、しばらく時間がかかります。さらに放送局が通常の番組を中断し、緊急報道を始めるまでには、さらにタイムラグがあります。

しかし地震の規模が大きければ大きいほど、「何が起きたのか」という情報を早く知りたいという欲求は増し、時間がかかるほど不安も募ります。テレビ局としては、この間の不安を和らげることが最初の仕事になります。

不安に応える初動とは

地震発生後、各局が何らかの形で通常の番組を中断し、地震の緊急速報番組を始めた時刻は以下の通りです。緊急地震速報が午後11時08分15秒に発出されたとした場合に緊急放送立ち上がりまでに要した時間をカッコ内に記しておきます。

 NHK     : 午後11時09分18秒ごろ(+1分03秒)

 日本テレビ : 午後11時12分03秒ごろ(+3分48秒)

 テレビ朝日 : 午後11時11分05秒ごろ(+2分50秒)

 TBS   : 午後11時10分01秒ごろ(+1分46秒)

 フジテレビ : 午後11時10分42秒ごろ(+2分27秒)

 テレビ東京 : (番組を中断せず、スポーツ番組の枠内で対応)

NHKの反応の速さが際立っているのがわかります。TBSは生放送の情報バラエティをしていたため、番組の内容を切り替えて報道スタジオから放送を行ったため対応が早かったと見られます。他の日本テレビはバラエティ、テレビ朝日はドラマ、フジテレビは映画を放送していたため、遅れた可能性が高いと考えられます。

NHKは11時10分ちょうどにはアナウンサーが「最大震度6強」という第一報を口頭で伝え、その5秒後にはすでに各地の震度と震源を示す、東北地方を中心とした地図を出しています。対してTBSはスタジオでのアナウンサーの映像がかなり長く続き、震度情報などが地図で表示されたのは、13分50秒ごろと、NHKと4分近くの差がありました。

震度情報は、地図で表示されることによって、地震の地理的な広がりや規模をイメージすることができます。日本テレビとテレビ朝日は番組の映像に緊急地震速報の地図を載せ、各地の震度をテロップで表示しましたが、あのような地震の規模では充分とは言えませんでした。

テロップではだいたい2行しか表示できないため、最大震度から低い方へ順番に表示されていきます。震度が弱かった地域に移動してしまうと地点の数が増えるため時間がかかり、最大震度で被害が心配される場所はどこだったのかという最重要な情報がぼやけてしまいます。もしかすると津波の避難などのために判断をする重要な局面で、テロップだけの情報では情報が少なすぎるということです。

アナウンサーのスキルの重要性

大地震の際の緊急報道は「かなり大きく揺れた」ということしかわからないまま、放送に突入しなければなりません。一番早く放送を始めたNHKの赤木野々花アナウンサーは「緊急地震速報が、東北、関東、新潟に出ている」「福島県沖が震源でかなり強い地震である」という2つの情報しかない時点で放送を始めました。

それでも、五月雨式に飛び込んでくる各地の震度や(それも次第に地域が細分化していく)震源の情報などを織り込みながら、進行に関わるデスクやディレクターらの助けを借りつつ、最も必要と思われる情報を選んで伝え続けなければなりません。

赤木アナウンサーは、各地の震度などの情報の合間に「倒れやすい家具などから離れて下さい」「テーブルの下などに隠れて下さい」「落ち着いて行動して下さい」「震源が海底ですと津波の恐れがあります」「海岸や川の近くからは離れて下さい」などのコメントを織り交ぜ、さまざまな状況にある人を想定して安全を確保するメッセージを届けようとしていました。

このような緊急事態に備えて、各局は避難や安全確保についての定型コメントや、さまざまなケースを想定したリハーサルなどを行ってきたはずです。それでも本番で、適切なコメントを出していくには、かなりの熟練が必要です。今明らかになっている情報をふまえ、これから起きる可能性のある事態を選び出し、それに対処する行動を促すメッセージを出していく瞬発力が必要です。

今回の地震では、かなり長い間揺れが続きました。またこのような規模の地震であれば余震もかなり大きなものが予想されます。真冬の深夜でもあり、新型コロナウィルスもあって自宅から避難したくないと考えてしまう人が多いことなどから、「家具から離れて」と、室内の安全確保を呼びかけるとか、津波の可能性について速報が出るまでの間は、万が一を想定して「海岸や川の河口付近に近寄らないで」と言うなど、臨機応変にコメントを選択し続けるのです。

正確な集計を行ったわけではありませんが、発災直後の約20分程度の間に、そのような呼びかけをしていたのはNHKとフジテレビしかなかったように見受けられます。フジテレビの女性アナウンサー(名前は確認できませんでした)は高層マンションでの長周期振動、火の元の確認、エレベーターの閉じ込めなどの注意喚起を積極的に行っていました。

心配している人にサインを送る

視聴者は地震が発生したのはわかるが、詳細がわからず不安で、それを解消したいために、緊急報道番組を見るのです。情報が限られていたとしても、とにかく緊急放送を開始することは、「私たちも(あなたと同じように)この地震のことを気にしていますよ」というサインを送るという意味で非常に大事なことです。

立ち上がり時間が一番遅かった日本テレビはバラエティの『マツコ会議』を放送していました。娯楽番組の需要が高い時間帯の人気番組であったということが、どれだけ判断に影響を及ぼしたのかはわかりませんが、ぎりぎりまで各地の震度情報を上部2行のテロップで表示していました。やっと切り替えたのは同社のケーブルニュースチャンネルとニュースサイト「日テレNews24」で、しかも速報ニュースの途中、福島第一原子力発電所の生カメラの映像が表示されていました。

いささか不体裁ではありますが、番組の体裁を整える準備のため、さらに開始が遅れるのは本末転倒です。ザッピングをして入ってくる人も多いはずですから、緊急報道の始まりは、番組を楽しんでいる人に公共的な役割のため中断をするという謝罪がひと言あれば、体裁は二の次とも言えます。

とにかく続けるという意味

いったん緊急災害報道を始めたら、一定の情報が明らかになり、ある程度安全が確認できるまで、放送し続ける必要もあります。画面がアナウンサーの上半身だけのワンショットであっても、情報が非常に限られていたとしても、「地震のことを気にしているあなたを見捨てずに、情報を共有し続けますよ」との姿勢を見せることになるからです。

テレビ朝日は地震発生時、ドラマ『モコミ』を放送していました。地震の揺れから約3分後に男性アナウンサーによる速報が始まり、各地の震度情報や、大きな津波の恐れはなくなったという情報を伝えていましたが、約3分でドラマに復帰してしまいました。

その後、画面の上部2行で各地の震度などの情報を伝えてはいるものの、震度6強と震度6弱の宮城県南部などの5か所の、最も重要な部分は5秒足らずしか表示されず、各地の震度が次々と変わってしまいます。これでは「宮城県と福島県で震度6強の大きな地震があったので注意して」という強いメッセージを「出し続けて」いることにはなり得ないでしょう。

対してフジテレビは午後9時から放送を始めていた映画『ヲタクに恋は難しい』の、ほぼクライマックスの時に地震が発生しましたが、緊急災害報道から映画に復帰することはしませんでした。

「津波なし」も最重要情報

各社の表現には少し違いはありましたが、今回の地震では「若干の潮位の変化はあるもの、大きな被害をもたらすような大きな津波の恐れはない」という情報が、緊急地震速報の約4分後に出されたため、1秒でも早い避難を呼びかけなければならないような緊迫した事態はまぬがれました。

しかし、「津波の恐れがない」という情報は画面に表示され続けるとか、繰り返されて伝えられる必要がありました。残念ながらNHKを除いては、コメントで時折伝えられるだけで、画面に明確に表示され続けてはいませんでした。

津波の心配をしなければない地域のことを考えると、テレビの前で一言一句を聞いているわけではなく、火の元の確認や家族の安全、家具が倒れたりしていないかなど、おそらく忙しく動き回っており、テレビからも断片的な音声をキャッチするとか、数分に1回、ほんの十数秒画面を見て新しい情報が入っていないか確認するような情報収集になるはずです。

安心というものは、心配ごとの可能性をつぶしてあげることで増していきます。宮城県や福島県の海岸沿いに住んでいる人たちの最大の心配は「津波が来るかどうか」だったはずです。その人たちのために、「来ない」という情報を画面に表示し続ける必要があったのではないでしょうか。災害報道は通常の大きなニュースとは違った「ものさし」で情報を選択する必要があります。

地図などに込められた配慮

テレビ業界は極度に分業制が進んでいます。緊急の災害報道では最初のフェーズの主役となる「緊急地震速報」や「震源や各地の震度」の地図などのグラフィックには、もう少し時間のや資金の投資が必要のようです。いくつか気になる点がありました。

ひとつは、緊急地震速報の地図で、宮城県と福島県という東北地方の地震なのに、関東地方(東京が中心)の地図が表示されている局がありました。緊急地震速報は画面の下半分に長方形の四角い枠で表示され、地図はだいたい正方形になります、関東地方中心の地図だと岩手県や秋田県は表示されないことになってしまいます。

もうひとつは、震源と各地の震度情報を表示する地図です。震度情報は時間が経過するにつれて、地理的により狭い範囲の震度が明らかにされていきます。最初は「○○県南部」、次に「△△市」、特に市町村などの範囲が広域にわたる場合や山間部と平野部に分かれている場合などは、さらに町や字の名などの地区名も伝えられるような形で発表されます。しかし、その細かい情報をすべて表示すると、かえって見づらくなってしまいます。

視聴者は地理的な震度の分布、最も深刻だった場所はどの辺りなのかという大まかな動向を把握したいと思うものです。しかし、「6」とか「5」などの数字が重なり合ってしまい、まるでゲームが終わったばかりのトランプカードのような状態では地理的な傾向などをつかむことができません。

2021年2月13日深夜のテレビ朝日の緊急地震速報画面。震度データが重複して判読しにくい(筆者が画面を撮影)
2021年2月13日深夜のテレビ朝日の緊急地震速報画面。震度データが重複して判読しにくい(筆者が画面を撮影)

デザイナーとの協力が必要に

震度のデータはすべて表示させるのではなく、どこかでせき止めて、視聴者が求めているくらいのローカル性のある情報と、ビジュアルのわかりやすさとのバランスで選別されなくてはなりません。放送で使われる地図などは専門のCG(コンピューターグラフィクス)デザイナーらが制作しているため、報道のスタッフとの協力が不可欠になります。

報道の記者やディレクターは、例えば各地の震度マップが、どのような状況で番組を見る人のことを想定しているかを明確に説明しなければなりません。その人たちのニーズに合わせて、どこまで震度の表示を簡略化するか、反対に絶対に表示しなければならない地名はどこかなどを決めていくのです。

災害はケースごとに特徴はまちまちで、一般化が難しい場合もあります。いくつかオプションを準備し、発生した後に、担当者が急いで手持ちの選択肢から、最適の表示方法を選ぶという、柔軟な対応も必要とされます。

そういう観点で各社の震度情報の画面を見直すと、どの局がそのような準備をていねいに行ってきたかがわかると思います。東北地方の県名と地図上の場所くらいは、一般の視聴者にもまあまあの知識があるかもしれませんので、都県名などを省略するとしても、福島県の「浜通り」「中通り」とか、あるいは震度5弱を観測した山形県置賜地方など聞き慣れない地名は、地図上に表示が必要です。画面では各局にかなりの差があったと言わざるを得ません。

2021年2月13日の緊急地震速報を伝えるNHKの画面(筆者撮影)震度の情報は縮小しても判読できるようデザインされ、「津波の心配なし」も継続して表示されている。
2021年2月13日の緊急地震速報を伝えるNHKの画面(筆者撮影)震度の情報は縮小しても判読できるようデザインされ、「津波の心配なし」も継続して表示されている。

NHKの地図はよく考えられたものでした。飛び込みで各地の揺れや被害の状況などの映像が差し込まれると、画面いっぱいだった地図を縮小して4分の1程度の大きさの地図が、ずっと画面に出続けるようにしていました。そうして縮小しても、地名や震度の情報は判読できるように配慮し、工夫されたものでした。

後半に続く)

武蔵大教授/ジャーナリスト

1964年生まれ。上智大院修了。テレビ朝日で「ニュースステーション」ディレクターなどを務める。2002〜3年フルブライト・ジャーナリストプログラムでジョンズホプキンス大研究員としてイラク戦争報道等を研究。05年より立命館大へ。08年ジョージワシントン大研究員、オバマ大統領を生んだ選挙報道取材。13年より現職。2019〜20年にフルブライトでジョージワシントン大研究員。専門はジャーナリズム。ゼミではビデオジャーナリズムを指導し「ニュースの卵」 newstamago.comも運営。民放連研究員、ファクトチェック・イニシアチブ(FIJ)理事としてデジタル映像表現やニュースの信頼向上に取り組んでいる。

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